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NEWFOR新規事業レポート / #003 ソニーグループ

ソニーがいちばん
うまく作ったのは、
事業ではなく「作り方」だった

2026年の12か月で、wena、AFEELA、aiboが相次いで区切りを迎えました。その同じ年に、200億円超のファンドが立ち上がっています。止めるものと張るものが並んだ1年から、ソニーの新規事業の型を読みます。

新規事業マニア2026年8月5日じっくり読んで 12
記録した新規事業
24
2000年のソネット・エムスリーから2026年のファンド4号まで、公開情報から拾った件数です
社内制度から生まれた事業
20数件
2014年に始めたSSAPという公募制度から。wena、MESH、toio、REON POCKETなどが該当します
その制度を外へ売った実績
1,050件超
27業種の他社の新規事業を支援した件数。自社の事業化数を50倍近く上回っています
CVCの運用総額
850億円超
2026年4月に始めた4号ファンドを含む総額。事業を止めた年に、同時に張っています
この記事はこんな方に
  • 新規事業部門の成果をどう説明するか悩んでいる方へ。事業の件数以外に何を成果として置けるか、実例でご紹介します
  • 止める判断ができずに困っている方へ。止める基準を「始める前に」決めておく、という設計思想を見ていきます
  • 社内で事業を抱え込みがちな方へ。外に出したから伸びた事業が、この会社には3つあります
3行でいうと
  1. 社内起業制度SSAPから事業化されたのは20数件。一方その制度自体を外販したところ、27業種・1,050件超の支援実績になった。
  2. 2026年はwena(2月)、AFEELA(3月)、ソニー・ホンダモビリティの事業縮小(4月)、aiboの国内販売終了(6月)が並んだ年。同じ年の4月に200億円超のファンドを立ち上げている。
  3. エムスリー、SREホールディングス、nasne。ソニーが外に出した事業が、外に出てから伸びた例が複数ある。

2026年、4つの区切りが並んだ

2026年2月末、wena 3の全サービスが終わった。3月25日、ソニー・ホンダモビリティが開発していたEV「AFEELA 1」の発売中止が決まった。4月21日には、そのソニー・ホンダモビリティ自体の事業縮小が3社で合意され、従業員は原則全員が両親会社などへ再配置されることになった。6月25日、aiboの国内販売終了が発表された。

4か月のあいだに、4つの新規事業が区切りを迎えている。

ところが同じ2026年の4月、ソニーは新しいファンドの運用を始めている。Sony Innovation Fund 4。目標規模は200億円超で、これによりファンド全体の運用総額は850億円超になる見込みだ。止めるものと張るものが、同じ12か月に並んでいる。

CHART

事業稼働チャート

ソニーが始めた主な新規事業と、その提供期間
ソネット・エムスリー2000–
ソニー銀行2001–
Music Unlimited2010–2015
PlayStation Vita2011–2019
nasne2012–2021
ソニー不動産/SRE2014–
SSAP(社内起業制度)2014–
PlayStation Now2014–2022
PlayStation Vue2015–2020
MESH2015–
First Flight2015–
wena wrist2016–2026
Sony Innovation Fund2016–
KOOV2017–
Xperia Touch / Hello!2017–2023
aibo(ERS-1000)2018–2026
Ginza Sony Park2018–
toio2019–
S.RIDE2019–
REON POCKET2019–
Sony AI2020–
Airpeak S12021–2025
ソニー・ホンダモビリティ2022–2026
mocopi2023–
200020062012201820242027
いま続いている次へ渡した
新規事業マニアの解説

4か月で4つの区切り。そして同じ年に、850億円超のファンド。

この2つを別々のニュースとして読むと、ソニーという会社を見誤ると思います。止めたから、張れるのです。逆に言えば、止められない会社は次に張る余力を持てません。

これから見ていくのは、事業そのものの話ではありません。この会社がいちばんうまく作ったのは、事業を生み、育て、手放すための「仕組み」のほうだったという話です。

制度を作って、制度を売った

ソニーの新規事業を語るときに、いちばん見落とされているのは制度のほうだと思う。

2014年、社内公募で事業アイデアを募る制度が始まった。Seed Acceleration Program、のちのSony Startup Acceleration Program(SSAP)である。ここから生まれた事業として、wena、MESH、toio、KOOV、REON POCKETといった名前が挙がる。

この制度から事業化されたのは、公開されている記事によれば「20数件程度」。年間の応募は数十件から100件程度だという。数だけ見れば、劇的な数字ではない。

ところが2018年10月、ソニーはこの制度自体を社外に提供しはじめた。他社の新規事業づくりを支援する事業にしたのだ。その支援実績は、2026年6月時点で27業種・1,050件超。自社で作った事業の数を、50倍近く上回っている。

ここで比べているのは性質の違うものです。社内の20数件は「事業化まで到達した数」、社外の1,050件超は「支援した案件の数」であり、同じ物差しではありません。ただ、力の入れどころがどちらに移ったかを見るには十分な対比だと考えています。

新規事業の成功率を上げようとした会社が、成功率そのものではなく「上げ方のノウハウ」で回収する。この二段構えは、日本の大企業の中でもかなり珍しい形だ。

新規事業マニアの解説

ここ、私はいちばん興奮したところです。

新規事業の成功率を上げようとした会社が、成功率そのものではなく「上げ方のノウハウ」で回収している。自社の事業化は20数件、社外支援は1,050件超。50倍です。

「うちの制度は当たりが出ない」と社内で言われている方、いらっしゃると思います。私も言われた側です。でもソニーの記録を見ると、当たりが出なかった経験も含めた一連のノウハウが、それ自体で商品になっている。視点を変えるだけで、部署の評価が180度変わりうるということです。

用語SSAP(ソニー・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム)エス・エス・エー・ピー

2014年に社内公募制度として始まり、2018年から社外へも提供されている新規事業支援の仕組み。アイデアの募集から事業化、量産、販売までを一貫して支援します。制度そのものを商品にした例として、日本の大企業ではかなり珍しい形です。

外に出してから伸びたもの

ソニーの記録を並べていて、もうひとつ目につくのは「手放したあとに大きくなった事業」の多さである。

2000年に設立されたソネット・エムスリーは、いまエムスリーとして東証プライムに上場し、ソニーグループの持分法適用関連会社になっている。2014年設立のソニー不動産は、2019年にSREホールディングスへ社名を変えて上場した。2012年に発売されたnasneは、ソニーが生産を終えたあと、2021年にバッファローが事業を継承して新製品を出している。

手放したのに続いている、というより、手放したから続いた、と読むほうが自然な例が並ぶ。大企業の中では通しにくい判断も、外に出れば自分たちの裁量で決められる。

金融は、上場と非公開を往復した

いちばん時間のかかった新規事業は、おそらく金融だ。

1979年にソニー・プルーデンシャル生命として始まり、1998年にソニー損保、2001年にソニー銀行が加わった。2004年に持株会社化し、2007年に東証一部へ上場。ところが2020年9月、ソニーはこれを完全子会社化して一度非公開にしている。そして2025年9月29日、日本初のパーシャル・スピンオフという形で、東証プライムに再上場した。

ソニー株1株につきソニーフィナンシャルグループ株1株を現物配当する形で、株主に直接渡された。46年かけて始めた事業が、上場と非公開を往復したうえで、株主の手元に戻ったことになる。

TIMELINE

未確認事業年表

ソニーグループが公開情報で発表した新規事業を、始めた順に
  • 2000ソネット・エムスリー 設立医師向けポータル。のちにエムスリーとして独立し、いまは持分法適用関連会社いま続いている
  • 2001.04ソニー銀行 設立個人向けネット銀行。翌6月に営業開始いま続いている
  • 2014.04ソニー不動産 設立片手仲介とAI査定を掲げた不動産事業。2019年にSREホールディングスへいま続いている
  • 2014社内起業制度 SAP 開始社内公募で事業アイデアを募る制度。2018年10月から社外にも提供いま続いている
  • 2015First Flight 開始自社クラウドファンディング。社内案件が世に出る前の関門になったいま続いている
  • 2015.08エアロセンス 設立ZMPとの合弁。産業用ドローンによる測量・点検いま続いている
  • 2016Sony Innovation Fund 設立CVC。全世界170社超に投資し、運用総額は850億円超の見込みいま続いている
  • 2016.06wena wrist 発売好きな腕時計をスマートウォッチ化するバンド。2026年2月にサービスを終えた次へ渡した
  • 2018.01aibo(ERS-1000)発売12年ぶりに復活した自律型ロボット。2026年6月に国内販売を終えた次へ渡した
  • 2018.08Ginza Sony Park 第1期開園ビル跡地を「公園」にした実験。3年で854万人が訪れたいま続いている
  • 2019.03toio 発売キューブ型ロボットトイ。遊びと学びを組み合わせたいま続いている
  • 2019.07REON POCKET クラウドファンディング首元を冷やす/温めるウェアラブル。翌年に一般販売へいま続いている
  • 2020.04Sony AI 設立ゲーム・イメージング・食を柱にしたAI研究組織いま続いている
  • 2021.09Airpeak S1 発売αを積めるプロ向けドローン。2025年3月末に販売を終えた次へ渡した
  • 2021.08Crunchyroll 買収北米最大級のアニメ配信。11億7,500万ドルいま続いている
  • 2022.02Bungie 買収『Destiny』の開発会社を36億ドルで取得いま続いている
  • 2022.10ソニー・ホンダモビリティ 設立ホンダと折半出資のEV合弁。資本金100億円次へ渡した
  • 2023.01mocopi 発売6個のセンサーとスマホだけの全身モーションキャプチャーいま続いている
  • 2024.12KADOKAWA へ約500億円を追加出資議決権約10%で筆頭株主に。IPの海外展開で協業いま続いている
  • 2025.09ソニーフィナンシャルグループ 再上場日本初のパーシャル・スピンオフ。東証プライムへいま続いている
  • 2026.04Sony Innovation Fund 4 運用開始200億円超を目標。SIF全体で850億円超の見込みいま続いている
用語パーシャル・スピンオフぶぶんてきスピンオフ

親会社が子会社の株式を、株主へ現物配当という形で直接渡し、その子会社を独立して上場させる方法。2023年の税制改正で日本でも使いやすくなりました。ソニーフィナンシャルグループの2025年の再上場が、日本初の適用例です。

ハードは、第1号機で終えることをためらわない

一方、ハードウェアの新規事業には共通のリズムがある。

Airpeak S1は2021年9月に発売され、2025年3月末に販売を終えた。ソニーは「事業やブランドの終了ではない」と説明している。wena 3は2020年に出て2026年2月にサービスを終えた。Xperia TouchとXperia Hello!は2017年発売で、2023年3月に独自機能の提供を終えた。

いずれも第1号機、あるいは第3世代までで区切りがついている。プラットフォームに育たなかったものは、ブランドを残したまま製品を止める。これがソニーのハード新規事業の型に見える。

この判断は、外から見れば「早い」と映る。ただ、続けることの費用は在庫や生産だけではない。サポート、部品供給、ソフトの更新。10年続けると決めた瞬間から、その全部を抱えることになる。区切りをつけるのは、次に張るための判断でもある。

実務のコツ

ハードウェアの企画を出すなら、「10年続ける前提で始めるのか、3年で見極める前提で始めるのか」を、始める時点で書いておいてください。

続けるコストは在庫と生産だけではありません。サポート窓口、部品供給、ソフトの更新。10年続けると決めた瞬間から、その全部を抱えることになります。

決めていないから止められなくなる、というのは私自身にも身に覚えがあります。ソニーが第1号機や第3世代で区切るのは、冷たいからではなく、最初にそう設計しているからだと思います。

2024年以降、持分を取る動きが増えた

記録を年代順に見ていくと、2021年あたりを境に重心が動いていることがわかる。

2021年8月のCrunchyroll買収が11億7,500万ドル、2022年2月のBungie買収が36億ドル。2024年12月にはKADOKAWAへ約500億円を追加出資し、議決権約10%の筆頭株主になった。自社で立ち上げるより、既にあるものの持分を取る動きが増えている。

同じ時期に、自社で立ち上げたAFEELA、aibo、wenaが止まっている。この2つは無関係ではないだろう。限られた資源を、確度の高いところへ寄せているように見える。

担当者の視点で見ると

ソニーの記録で実務に効くのは、新規事業部門をどう評価するかという論点だと思う。

SSAPが自社で事業化したのは20数件。応募は年間で数十件から100件程度。この数字だけを持って役員会に行けば、たいていの会社では「歩留まりが悪い」という評価になる。ところが同じ制度の社外支援実績は、27業種1,050件超である。事業の数では及ばない指標が、ノウハウの提供数では50倍近くになっている。

2026年の見え方も同じ構造をしている。2月から6月までの4か月でwena 3、AFEELA 1、ソニー・ホンダモビリティ、aiboと4つの区切りが並んだ。ここだけ切り取れば撤退の年に見える。だが同じ年の4月に、運用総額850億円超になるファンドの運用が始まっている。

どの数字を成果として置くかで、同じ部門がまったく違って見える。新規事業の担当者にとって、これは他人事ではないと思う。事業の件数だけを成果に置いた瞬間、制度も、止めた判断も、外に出した事業も、全部マイナスとして数えられることになる。

READERS' VOICE

読み終えた方へ

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。ひとつ選ぶと、ほかの読者が何を選んだかが見えます。この記録がどう受け取られたのかを、みんなで確かめる場所です。

NEWFOR MEMO
新規事業マニアのメモ ─ 自分が担当だったら

自分が担当だったら、この年表から持ち帰るのは「制度を作って外販した」という一点だと思う。

新規事業を任されると、まず事業を探しに行く。当たり前だ。しかしソニーの記録を見ると、20数件の事業よりも、その事業を生むための制度のほうが、結果的に大きな商売になっている。自社が積んだ「うまくいかなかった経験」も含めた一連のノウハウは、それ自体が商品になりうる。

もうひとつ。ハードを止める判断の速さは、冷たさではなく設計だと思う。10年続ける前提で始めるのか、3年で見極める前提で始めるのかを、始める時点で決めておく。決めていないから止められなくなる、というのは自分にも身に覚えがある。

最後に、外に出した事業が外で伸びた例が3つもあることを、自分の会社の役員に見せたい。社内に置き続けることだけが、事業を大切にすることではないはずだ。

新規事業マニア
40代 / 事業開発
20代でスタートアップを立ち上げ、1社を上場企業へ売却。その後、外資系コンサルティングファーム、通信大手、大手人材グループ、国内大手ITサービスの中で、社員として新規事業の立ち上げに携わる。並行して顧問として10社近くの新規事業を担当。事業立ち上げ歴20年の、大の新規事業マニア。
20年 事業立ち上げ歴1社 上場企業へ売却4社 事業会社の中で立ち上げ10社 顧問として担当

出典

  1. Sony Acceleration Platform 公式サイト
  2. ソニー wena サポート:サービス終了のお知らせ
  3. Honda ニュースリリース(2026年3月25日)
  4. ソニー・ホンダモビリティ 設立リリース(2022年10月13日)
  5. Sony Innovation Fund 公式サイト
  6. ソニーフィナンシャルグループ 沿革
  7. SIE:Bungie買収に関するリリース(2022年2月1日)
  8. KADOKAWA:資本業務提携に関する開示
  9. SREホールディングス 社名変更のお知らせ(2019年5月16日)
  10. Ginza Sony Park について
  11. ソニー:toio 公式サイト