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NEWFOR記事一覧 / #006 パナソニック

パナソニックは
「家庭のOS」という同じ問いに、
3回挑んだ

2018年のHomeX、2021年のYohana、2024年のPanasonic Well。3つとも「家庭の中を誰が束ねるか」という同じ問いに向かっていました。その7年を記録します。

Soichiro2026年8月5日じっくり読んで 約6分
同じ問いに挑んだ回数
3
HomeXは技術で、Yohanaは人で、UmiはAIで。7年のあいだに方法を変えて3回挑んでいます
Blue Yonderの取得額
71億ドル
約1兆円。サプライチェーン計画ソフトの米大手を、2021年に完全子会社化しました
テスラ株の売却額
約4,000億円
2021年6月に全売却。取得原価は約24億円だったとされています
記録した新規事業
14
2016年のゲームチェンジャー・カタパルトから2025年のカンザス電池工場まで
この記事はこんな方に
  • 一度うまくいかなかったテーマに、もう一度挑みたい方へ。7年で3回挑めた会社の、記録の残し方を見ていきます
  • 新規事業の予算が取れない方へ。既存資産の組み替えで原資を作る、という発想をご紹介します
  • 話題性と金額を混同しがちな場にいる方へ。語られる事業と、実際に金が動く事業のずれを数字で確認します
3行でいうと
  1. HomeX(2018年)、Yohana(2021年)、Panasonic Well(2024年)。3つとも「家庭の中を誰が束ねるか」という同じ問いに向かい、いずれも2025〜2026年に区切りを迎えた。
  2. 同じ期間に、Blue Yonder買収(71億ドル)とカンザス電池工場(約40億ドル)が動いている。B2Cのサービス化とB2Bのソフト・電池で、金額の桁が2つ違う。
  3. ゲームチェンジャー・カタパルト、100BANCH、BeeEdge。社内から事業を外へ出す仕組みを段階的に整え、2022年にはVieurekaで初のカーブアウトに至った。

同じ問いに、3回

2018年、創業100周年のパナソニックは「くらしアップデート業」を掲げた。その象徴がHomeXだった。家電も住空間もつないで、家庭の中にひとつのOSを置く、という構想である。

HomeXは2025年12月31日にサービスを終えた。

その前の2021年9月、パナソニックは米国でYohanaを始めている。共働き家族の「名もなき家事」を、人が代行するサブスクだ。2022年に日本、2024年に全国展開まで進み、2025年9月に米国、2026年1月に日本で提供を終えた。

そして2024年、Panasonic Wellが立ち上がり、2025年1月のCESでAIサービス「Umi」が発表された。この本部は2026年3月31日に発展的解消の予定と公表されている。

技術も座組も違うが、3つとも同じ問いに向かっている。家庭の中の面倒ごとを、誰がどうやって束ねるのか。

TIMELINE

未確認事業年表

パナソニックが公開情報で発表した主な新規事業(2015年以降)
  • 2016ゲームチェンジャー・カタパルト 開始社内公募型の新規事業創出プログラム。SXSWなどで試作を世に出すいま続いている
  • 2017.07100BANCH 開設渋谷の実験拠点。35歳未満のプロジェクトに場と伴走を提供いま続いている
  • 2018.03BeeEdge 設立Scrum Venturesとの合弁。社内アイデアを切り出して事業会社にするいま続いている
  • 2018.10HomeX 本格始動家電と住空間をつなぐくらしのOS構想。2025年12月末に提供を終えた次へ渡した
  • 2020.01プライム ライフ テクノロジーズ 設立トヨタ・三井物産と組んだ住宅・まちづくりの統合持株会社いま続いている
  • 2021.02太陽電池の生産終了を発表三洋電機由来のセル・モジュール生産を終え、販売のみ継続次へ渡した
  • 2021.04Blue Yonder 完全子会社化を発表サプライチェーン計画ソフトの米大手。取得総額71億ドルいま続いている
  • 2021.06保有テスラ株を全売却約4,000億円で売却。協業自体は継続次へ渡した
  • 2021.09Yohana 米国で開始共働き家族の家事を人が代行するサブスク。2026年1月に終えた次へ渡した
  • 2022.04パナソニック コネクト 発足持株会社制への移行に伴い、B2Bを1社に束ねた事業会社いま続いている
  • 2022.07Vieureka 営業開始エッジAI基盤を別会社化。同社初のカーブアウトいま続いている
  • 2024.03車載機器事業の持分をアポロへ企業価値3,110億円。過半を移し、少数株は保有継続次へ渡した
  • 2025.01AIサービス「Umi」発表家族のウェルネスをAIで支える。Panasonic Well本部は2026年3月に発展的解消の予定次へ渡した
  • 2025.07カンザス電池工場 量産開始北米での車載電池の内製拠点。投資額は約40億ドルと報じられたいま続いている

7年で3回挑めたことのほうが、珍しい

ここで「3つとも続かなかった」と書くのは簡単だが、記録を読むかぎり、そう単純ではないと思う。

ふつうの会社なら、1回目でつまずいた時点でこのテーマから離れる。社内で「あれはやったけどダメだった」という記憶が残り、次の企画が通らなくなるからだ。パナソニックは7年のあいだに、同じ問いへ3回、方法を変えて挑んでいる。

HomeXは技術(OS)で解こうとした。Yohanaは人(コンシェルジュ)で解こうとした。UmiはAIで解こうとした。同じ問いに対して、当てる手を毎回変えている。

いま家庭のアシスタントを本気で狙っているのは、GoogleとAmazonとAppleである。そこに家電メーカーが3回挑んだこと自体は、記録として残す価値があると思う。

新規事業マニアの解説

「3つとも続かなかったですね」と言われたら、私はこう答えると思います。

いや、7年で3回も挑めたことのほうが、はるかに珍しいですよ、と。

新規事業でいちばん怖いのは、1回目の記憶が社内に残って、2回目の企画が通らなくなることです。「あれはやったけどダメだった」という一行が資料に残った瞬間、そのテーマは何年も封印されます。

この会社は、同じ問いに方法を変えて3回向かっています。問いを担当者や案件ではなく、会社のテーマとして残せているということだと思います。これは仕組みの話です。

実務のコツ

うまくいかなかったときの記録は、評価ではなく事実で残してください。

「あれはうまくいかなかった」とだけ書かれた資料からは、次の企画は生まれません。「この方法では、ここまでは届いて、ここから先が届かなかった」と書いてあれば、次の人は別の方法を持ってこられます。

記録の書き方が、次の挑戦の可否を決めてしまう。NEWFORが否定の言葉を使わないと決めているのも、まさにこのためです。

その裏で、桁の違う金が動いていた

同じ7年を、金額の側から見るとまったく違う絵になる。

2021年4月、パナソニックはBlue Yonderの残り80%の取得を発表した。企業価値85億ドル、取得総額71億ドル。サプライチェーン計画ソフトの米大手である。翌2022年4月、B2Bを束ねるパナソニック コネクトが発足し、Blue Yonderがその中核に置かれた。

2025年7月には、カンザスの車載電池工場が量産を始めた。投資額は約40億ドルと報じられている。

HomeXやYohanaの投資額は公表されていない。ただ、この2件と比べれば桁が違うのは間違いない。語られるのはB2Cのサービスで、金が動いているのはB2Bのソフトと電池だった。

買ってから、器を作った

Blue Yonderの順序には注目したい。2021年4月に買収を発表し、その1年後の2022年4月にパナソニック コネクトを発足させている。

ふつうは器を作ってから買う。この会社は、買ってから器を作った。71億ドルを先に払って、それを収める組織をあとから設計している。持株会社制への移行(2022年4月)と時期が重なるのも、偶然ではないだろう。

用語カーブアウトcarve-out

会社の一部門や技術を切り出して、独立した会社にすること。外部から出資を受けやすくなり、意思決定も速くなります。パナソニックのVieurekaは、親会社が32.967%しか持たない形で外に出されました。

持たない判断の連続

この7年でもうひとつ目立つのは、手放す判断の多さである。

  • 2021年2月:太陽電池のセル・モジュール生産を終了(販売は継続)
  • 2021年6月:保有していたテスラ株を全売却。約4,000億円
  • 2024年3月:車載機器事業の持分をアポロへ。企業価値3,110億円

テスラ株の取得原価は約24億円だったとされる。それが約4,000億円になって戻ってきた。既存の持ち物を売って、新しい領域に入れ替える。Blue Yonderの71億ドルは、こうして作った原資と無関係ではないはずだ。

出す仕組みを、段階的に整えた

最後に、社内から事業を出す仕組みについて。

2016年にゲームチェンジャー・カタパルト、2017年に100BANCH、2018年にBeeEdge。BeeEdgeはScrum Venturesとの合弁で、社内アイデアを切り出して事業会社にするための器である。そして2022年、エッジAI基盤のVieurekaが同社初のカーブアウトとして独立した。

Vieurekaの出資構成は、パナソニックHDが32.967%、JVCケンウッドが32.967%、WiLが31.868%。元の会社が3割しか持たない形で外に出している。

社内で始めた事業が、本体に残らないことを前提に設計されはじめている。この変化のほうが、個別の事業の行方より大きな話かもしれない。

担当者の視点で見ると

3回挑んだ話とは別に、この7年からは金額の側の学びが取れる。

ひとつ。語られる事業と、金が動く事業は違う。社内外で話題になるのはHomeXやYohanaのようなB2Cのサービスだが、この7年で実際に動いたのはBlue Yonderの71億ドルと、カンザス電池工場の約40億ドルである。HomeXとYohanaの投資額は公表されていないが、桁が違うのは間違いない。新規事業の予算配分を議論する場で、話題性と金額を混同すると判断を誤る。

ふたつ。原資は、既存の持ち物から作れる。2021年6月にテスラ株を全売却して約4,000億円。取得原価は約24億円だったとされる。同じ年に太陽電池のセル生産を終え、2024年には車載機器の持分を企業価値3,110億円で手放している。売って、入れ替える。

新規事業の予算を「新しく認めてもらうもの」と考えるか、「既存資産の組み替えで作るもの」と考えるかで、動ける幅はかなり変わる。この会社の7年は、後者で説明がつく。

READERS' VOICE

ここまで読んだ、あなたへ

ひとつ選ぶと、ほかの読者が何を選んだかが、その場で見えます。
この記録がどう受け取られたのかを、みんなで確かめる場所です。

NEWFOR MEMO
新規事業マニアのメモ ─ 自分が担当だったら

同じ問いに3回挑めた、という一点を自分は持ち帰りたい。新規事業でいちばん怖いのは、1回目の記憶が社内に残って、2回目の企画が通らなくなることだ。

そのために何が要るか。1回目の記録を、評価ではなく事実で残しておくことだと思う。「あれはうまくいかなかった」とだけ書かれた資料からは、次の企画は生まれない。「この方法では、ここまでは届いてここから先が届かなかった」と書いてあれば、次の人は別の方法を持ってこられる。

NEWFORが否定の言葉を使わないと決めているのは、まさにこのためだ。記録の書き方が、次の挑戦の可否を決めてしまう。

もうひとつ。買ってから器を作った順序は、真似できるものではないが、覚えておきたい。器が整うのを待っていたら、買える時期を逃すこともある。

Soichiro新規事業マニア
40代 / 事業開発
新規事業マニア。20代でスタートアップを立ち上げ、1社を上場企業へ売却。その後、外資系コンサルティングファーム、通信大手、大手人材グループ、国内大手ITサービスの中で、社員として新規事業の立ち上げに携わる。並行して顧問として10社近くの新規事業を担当。事業立ち上げ歴20年。名前は、本田宗一郎への敬意から。
20年 事業立ち上げ歴1社 上場企業へ売却4社 事業会社の中で立ち上げ10社 顧問として担当