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NEWFOR記事一覧 / #005 トヨタ自動車

トヨタは新規事業のたびに
会社をつくる。
2021年だけで3つ

Woven City、KINTO、MONET、CJPT。トヨタの新規事業を並べていくと、事業そのものより先に「会社」ができています。なぜ本体でやらないのか。10年分の記録から読みます。

Soichiro2026年8月5日じっくり読んで 約6分
記録した新規事業
14
2015年のToyota Research Instituteから2025年の北米電池工場まで、公開情報から拾った件数です
そのために作った会社
6
TRI、MONET、KINTO、Woven Planet、CJPT、水素ファクトリー。事業より先に器を作っています
KINTOが黒字になるまで
6
2019年1月の設立から2024年度まで。売上587.07億円、当期純利益7.95億円で初の黒字でした
北米の電池工場への投資
139億ドル
約2兆円。CVCの累計運用5億ドル超と比べると、20倍以上の差があります
この記事はこんな方に
  • 社内の制度や稟議に阻まれている方へ。事業の中身をいじるより器を分けるほうが早い、という選択肢を見ていきます
  • 黒字化までの時間を社内で説明できずにいる方へ。6年かかった事業が、なぜ6年待ってもらえたのかを分解します
  • 出資比率の決め方に迷っている方へ。過半を取らないことが相手の本気度を上げる、という考え方をご紹介します
3行でいうと
  1. 2015年以降の新規事業14件のうち、6件が新しい会社や専任組織の設立から始まっている。本体の組織改編ではなく、別法人を立てる形が繰り返される。
  2. KINTOは2019年1月設立、2024年度に売上587億円で初の黒字。大企業の新規事業がどれくらいの時間で黒字化するかの、数字がそろった珍しい例。
  3. Woven Cityは2020年の発表時「実証都市」、2025年の実証開始時には「モビリティのテストコース」。5年で言葉が変わっている。

事業より先に、会社ができる

トヨタが2015年以降に始めた新規事業を14件ならべて、最初に目についたのは事業の中身ではなかった。始め方が、ほぼ全部同じなのだ。

Toyota Research Institute(2015年)、MONET Technologies(2018年)、KINTO(2019年)、Woven Planet Holdings(2021年)、CJPT(2021年)、水素ファクトリー(2023年)。いずれも新しい会社か、専任の組織を立ち上げるところから始まっている。

本体の中に事業部を作る、という形はほとんど出てこない。

新規事業マニアの解説

14件を並べ終えて、私が最初に思ったのは「事業の中身の話が出てこないな」ということでした。

普通、新規事業の記録を追うと「何を作ったか」が並びます。ところがトヨタの場合、先に目に入るのは会社名なのです。Toyota Research Institute、MONET、KINTO、Woven Planet、CJPT、水素ファクトリー。

本体の中に事業部を作る、という形がほとんど出てきません。これは何を意味しているのか。ここから先は記録を読んだうえでの私の仮説になりますが、かなり実務的な示唆があると思っています。

なぜ本体でやらないのか

理由は書かれていないので、ここからは記録を読んだうえでの仮説になる。

別法人にすると、人事の制度と意思決定の速度を、本体から切り離せる。年功で決まる給与テーブルも、稟議の階層も、新会社なら別に設計できる。組織を分けるのは、事業を分けたいからではなく、ルールを分けたいからではないか。

もうひとつ、外から人と金を入れやすくなる。MONETはソフトバンクとの合弁で、開始時の出資比率はソフトバンク50.25%、トヨタ49.75%。トヨタが過半を取っていない。KINTOも、トヨタファイナンシャルサービス66.6%、住友三井オートサービス33.4%という構成である。

TIMELINE

未確認事業年表

トヨタが公開情報で発表した主な新規事業(2015年以降)
  • 2015.11Toyota Research Institute 発表米国のAI・ロボティクス研究拠点。5年間で約10億ドル、当初約200名いま続いている
  • 2017.07Toyota AI Ventures 設立CVC。2021年にToyota Venturesへ改称し、累計運用5億ドル超いま続いている
  • 2018.01e-Palette 発表移動・物流・物販を1台で担うMaaS専用のEV。CES 2018で公開いま続いている
  • 2018.06Grabへ10億ドル出資東南アジア最大の配車事業者へのリード出資と車両ケアの提供いま続いている
  • 2018.09MONET Technologies 設立ソフトバンクとの合弁。オンデマンド交通とAutono-MaaSいま続いている
  • 2019.01KINTO 設立クルマのサブスクリプション。保険・税・メンテ込みの月額制いま続いている
  • 2020.01Woven City 構想 公表静岡・裾野の実証都市。2025年9月に実証を開始いま続いている
  • 2020.01Joby Aviationへ出資eVTOLの米新興へ。2024年の追加分とあわせ累計8億9,400万ドルいま続いている
  • 2020.12C+pod 発売2人乗りの超小型EV。約4年半で生産を終えた次へ渡した
  • 2021.01Woven Planet Holdings 設立ソフトウェアと自動運転を束ねる子会社。2023年にWoven by Toyotaへいま続いている
  • 2021.04Lyftの自動運転部門を買収5億5,000万ドル。自社のソフト開発を加速いま続いている
  • 2021.04CJPT 設立いすゞ・日野らと商用車のCASEを共同で社会実装する合弁いま続いている
  • 2023.07水素ファクトリー 発足水素・FC事業を一本化した専任組織。発足時1,350人いま続いている
  • 2025.04北米電池工場 生産開始日本国外で初の自社電池工場。投資額約139億ドルいま続いている

KINTOは6年目で黒字になった

大企業の新規事業がいつ黒字になるのか。これは誰もが知りたいのに、数字がほとんど出てこない問いだ。

KINTOは珍しく、その数字が公表されている。2019年1月設立。2024年度に売上587.07億円、当期純利益7.95億円で、初の黒字を計上した。累計申込は約13.7万件(2024年12月末時点)。

設立から黒字まで6年。クルマのサブスクという、月額の積み上げで成り立つ事業としては、順当な時間の使い方に見える。ただ社内で6年待てるかというと、それは別の話だ。KINTOが別会社だったことは、この6年に関係していると思う。

用語サブスクリプションていがくかきん

商品を売り切るのではなく、月額や年額で使ってもらう売り方。売上が毎月少しずつ積み上がるかわり、立ち上がりは必ず遅くなります。KINTOが黒字まで6年かかったのは、この形の事業としては順当な時間の使い方です。

実務のコツ

企画書に、次の2行を並べて書いてみてください。

①この事業は何年目に黒字化する見込みか。②その年数を、本体の中で守れるか。

KINTOは6年かかりました。本体の一事業部として6年間の赤字を続けられる会社は、そう多くありません。守れないなら、器を分けるしかないということです。別会社にするのは面倒ですが、その面倒は「時間を守るための盾」を買う対価だと考えると、見え方が変わります。

「実証都市」が「テストコース」になった

Woven Cityは2020年のCESで公表された。当時の説明は「実証都市」だった。

2024年10月にPhase 1が竣工し、2025年9月25日に実証が始まった。このときのリリースで、トヨタはWoven Cityを「モビリティのテストコース」と表現している。

言葉が変わったことを、後退と読む必要はないと思う。むしろ、5年かけて「これは何なのか」の定義が具体的になった、と読むほうが自然だ。街をつくるのではなく、試す場をつくる。最終的に約360名が住み、20社・団体がInventorsとして参加する規模になった。

Woven Cityの総投資額について、トヨタの公式資料では確認できませんでした。海外メディアは100億ドル規模と報じていますが、一次情報での裏取りは取れていません。

買うのではなく、出す

金額の使い方にも、はっきりした傾向がある。

完全買収と言えるのは2021年のLyft自動運転部門(5億5,000万ドル)くらいで、あとは経営権を取らない出資が並ぶ。Grabに10億ドル、Joby Aviationに累計8億9,400万ドル、インターステラテクノロジズに約70億円。

相手を自分のものにするのではなく、相手が伸びる場所に金を置いておく。自動車という、10年かけて仕様が決まる産業の会社らしい距離の取り方に見える。

新規事業マニアの解説

出資比率の話は、地味ですがとても大事だと思っています。

MONETはソフトバンク50.25%・トヨタ49.75%。トヨタが過半を取っていません。KINTOもトヨタファイナンシャルサービス66.6%・住友三井オートサービス33.4%です。

自社の持分を減らすことは、支配を手放すことです。でも同時に、相手が本気で関わる理由をつくることでもあります。「過半を取りにいった瞬間に断られた」という話は、実際によく聞きます。どちらを取るかを、先に決めておくといいと思います。

いちばん大きいのは、やはり工場

ソフトやCVCの金額と、リアルな設備の金額には、はっきり桁の差がある。

Toyota Venturesの累計運用が5億ドル超。一方、2025年4月に生産を始めた北米電池工場(ノースカロライナ)への投資は約139億ドル。20倍以上ある。

新規事業の記事を書いていると、つい新しい概念のほうに目が行く。しかし数字で見ると、この会社がいちばん大きく張っているのは、いまも「作る場所」なのだった。

担当者の視点で見ると

14件の始め方から、企画に落とせることが2つある。

ひとつは出資比率の使い方だ。MONETはソフトバンク50.25%・トヨタ49.75%で、トヨタが過半を取っていない。KINTOもトヨタファイナンシャルサービス66.6%・住友三井オートサービス33.4%である。自社の持分を減らすことは支配を手放すことだが、同時に相手が本気で関わる理由をつくることでもある。過半を取りにいった瞬間に断られる話は、実際によくある。

もうひとつは金額の桁を、社内向けの説明で混同しないこと。Toyota Venturesの累計運用は5億ドル超、一方で北米電池工場への投資は約139億ドル。20倍以上ある。CVCは入口として有効だが、この会社が本当に張っている場所ではない。自社のCVC予算を「新規事業への投資額」として説明すると、規模の議論がずれる。

そして、記録全体から言えることがひとつ。この会社は事業を作る前に、事業を置く場所を作っている。本体の中に事業部を立てる形が、14件のうちほとんど出てこない。制度が理由で新規事業が進まないなら、事業の中身をいじるより器を分けるほうが早い、という判断が一貫している。

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NEWFOR MEMO
新規事業マニアのメモ ─ 自分が担当だったら

「別会社にする」という選択肢を、自分は軽く見ていた気がする。手続きが面倒で、管理コストも増えるからだ。ただトヨタの14件を並べると、それは面倒の対価として速度と人事の自由を買っている、と読める。

とくにKINTOの6年。本体の一事業部として6年赤字を続けられる会社は、そう多くない。別会社にするというのは、時間を守るための盾でもある。

自分が担当だったら、企画書に「この事業は何年目に黒字化する見込みか」と「その年数を本体の中で守れるか」を並べて書くと思う。守れないなら、器を分けるしかない。

Soichiro新規事業マニア
40代 / 事業開発
新規事業マニア。20代でスタートアップを立ち上げ、1社を上場企業へ売却。その後、外資系コンサルティングファーム、通信大手、大手人材グループ、国内大手ITサービスの中で、社員として新規事業の立ち上げに携わる。並行して顧問として10社近くの新規事業を担当。事業立ち上げ歴20年。名前は、本田宗一郎への敬意から。
20年 事業立ち上げ歴1社 上場企業へ売却4社 事業会社の中で立ち上げ10社 顧問として担当

出典

  1. トヨタ自動車 ニュースルーム
  2. Toyota Research Institute 設立について(2015年11月)
  3. トヨタ:KINTO設立について
  4. トヨタ:Woven City Phase1完了について
  5. トヨタ:Woven City 実証開始について
  6. ソフトバンク:MONET Technologies 事業開始
  7. トヨタ:Joby Aviationへの追加出資について
  8. Toyota Ventures 改称と追加3億ドルについて
  9. トヨタ:Lyft自動運転部門の取得について
  10. トヨタ:北米電池工場の生産開始について