金額順に並べると、上位が全部「手放した/買った」
セブン&アイの2015年以降の動きを、金額の大きい順に並べてみる。
- Speedway買収(2020年発表)── 210億ドル、約2.2兆円
- ヨーク・ホールディングス譲渡(2025年完了)── 8,147億円
- Sunocoからの事業取得(2017年)── 約3,650億円
- そごう・西武譲渡(2023年)── 2,200億円
- 豪7-Eleven買収(2023年発表)── 約1,670〜1,700億円
新規事業の記事を書いているのに、上位に社内発の事業がひとつも入ってこない。この会社の10年は、事業を作る話ではなく、事業を出し入れする話だった。
では社内発の新事業はどこにいるか。7NOWの2030年度目標が約1,200億円、SIPストアは1店舗、7payは3か月で終わった。桁が2つから3つ違う。
未確認事業年表
- 2015.11オムニ7 開始グループ各社のECを1つに束ねた総合通販。2023年1月に提供を終えた次へ渡した
- 2017.04米Sunocoから小売事業を取得ガソリンスタンド併設1,030店。報道ベースで約3,650億円いま続いている
- 2017.107NOW 実証開始札幌・小樽の15店から。全国展開は2025年2月いま続いている
- 2019.077pay 開始セブン-イレブンアプリ内のコード決済。同年9月30日に提供を終えた次へ渡した
- 2020.08Speedway買収を発表米Marathonから約3,900店。210億ドル、約2.2兆円いま続いている
- 2023.08そごう・西武の譲渡を決定フォートレスへ全株式を譲渡。譲渡額2,200億円次へ渡した
- 2023.11豪7-Eleven運営会社の買収を発表約750店。約1,670〜1,700億円いま続いている
- 2024.02SIPストア 開店セブン-イレブンとイトーヨーカ堂を掛け合わせた大型テスト店いま続いている
- 2024.08クシュタールが買収を提案カナダのコンビニ大手から。9月に拒否、10月に増額提案次へ渡した
- 2024.10ヨーク・ホールディングス 設立非コンビニ29社を束ねる中間持株会社。増額提案の翌日に発表いま続いている
- 2025.027NOW 全国展開が完了最短20分の即配。約3,000品目いま続いている
- 2025.03北米コンビニのIPOと2兆円の自社株買いを発表社長交代も同時に発表。2030年度までに総額2兆円いま続いている
- 2025.07クシュタールが買収提案を撤回約1年で終結。増額後の提案は約470億ドル規模だった次へ渡した
- 2025.09ヨークHDの譲渡が完了ベインへ8,147億円。セブン&アイは35.07%の少数株主として残る次へ渡した
- 2025.08国内コンビニへの集中投資を発表2030年度までに約1,000店増、5,000店以上の改装に3,000億円いま続いている
新規事業の記事を書いているのに、金額の上位に社内発の事業がひとつも入ってこない。
これを並べ終えたとき、正直に言うと少し戸惑いました。Speedway 2.2兆円、ヨークHD 8,147億円、Sunoco 3,650億円、そごう・西武 2,200億円。対して7NOWの2030年度目標が約1,200億円です。桁が2つから3つ違います。
ただ、これは悪い話ではないと思っています。会社によって、新規事業に期待されている役割はまるで違う。その事実を先に知っておけるかどうかは、担当者にとってかなり大きいはずです。
社内発の新事業は、コンビニの半径30分にある
その社内発の3つを並べると、置かれている場所がきれいに揃っている。
7payはレジの中。SIPストアは売場の中。7NOWは店から届ける30分の中。どれもコンビニの店舗を起点にして、そこから半径30分ぶんだけ広げたものだ。
逆に、コンビニから遠い挑戦はどうなったか。オムニ7(グループ横断のEC)は2023年1月に提供を終えた。百貨店のそごう・西武は2023年に譲渡された。スーパーを束ねたヨーク・ホールディングスは2025年にベインへ渡った。
コンビニに近いものは残り、遠いものは他社へ移る。10年ぶんの動きが、この一本の線でほぼ説明できてしまう。
グループの一部の会社をまとめて傘下に置く、親会社と事業会社のあいだの会社。まとめて売却しやすくなるという性質があります。2024年10月に設立されたヨーク・ホールディングスは、その11カ月後にベインへ譲渡されました。
7NOWは8年かけて全国に届いた
時間の使い方でいうと、7NOWがいちばん興味深い。
2017年10月、札幌と小樽の15店で実証が始まった。2022年2月に「7NOW」という名前がつき、2025年2月に全国展開が完了した。8年である。
同じ会社の7payが3か月で終わったことを考えると、この差は大きい。7payは決済という、不具合が即座に信用へ響く領域だった。7NOWは既存の店舗と在庫の上に乗る事業で、1店舗ずつ増やせる。小さく試して増やせる形かどうかが、時間の使い方を決めている。
2030年度の目標は、対応約8,500店・売上約1,200億円。現状の約10倍を掲げている。客単価は2,234円で、店舗平均752円の約3倍だという。
企画の段階で、「これは小さく試して、少しずつ増やせる形か」を必ず確認してください。
7NOWは2017年に15店で始めて、8年かけて全国に届きました。7payは3カ月で終わっています。この差は能力ではなく、事業の形の差だと思います。決済は一発で全国に出すしかなく、しかも不具合が即座に信用へ響く領域でした。
領域の性質が、使える時間を先に決めています。8年かけられる形に持ち込めるなら、それだけで生存率は変わります。
2024年10月9日と、10月10日
この10年を語るうえで外せない日付がある。
2024年8月19日、カナダのアリマンタシォン・クシュタールがセブン&アイに買収を提案した。9月6日に拒否。10月9日、クシュタールが提案額を約470億ドル、日本円で約7兆円規模まで引き上げた。
その翌日、10月10日。セブン&アイはヨーク・ホールディングスの設立を発表する。イトーヨーカ堂やロフト、赤ちゃん本舗など非コンビニ29社を束ねる中間持株会社である。あわせて社名を「セブン-イレブン・コーポレーション」へ変更する計画も公表された。
因果関係は公表されていないので断定はできない。ただ、日付が1日しか離れていないことは事実として記録しておきたい。
その後、2025年2月に創業家によるMBO提案が資金面から断念され、3月には北米コンビニのIPOと総額2兆円の自社株買い、そして社長交代が発表された。7月にクシュタールが提案を撤回し、9月にヨークHDの譲渡が完了している。
いま、コンビニに全部を寄せている
2025年8月、セブン&アイは国内コンビニへの集中投資を発表した。2030年度までに国内で約1,000店を増やし、5,000店以上の改装に3,000億円を投じる。成長投資は3.2兆円、2030年度の営業収益目標は11.3兆円。
10年かけて百貨店とスーパーとECを手放し、コンビニに寄せきった。引き算が終わって、ようやく足し算が始まる、という位置にいるのだと思う。
担当者の視点で見ると
この10年の並べ方から、担当者として先に確かめておきたいことが2つある。
ひとつ。自分の会社が、どちらのタイプかを知っておく。金額の上位はSpeedway買収2.2兆円、ヨーク・ホールディングス譲渡8,147億円、Sunocoからの取得3,650億円、そごう・西武譲渡2,200億円。対して社内発は、7NOWの2030年度目標が約1,200億円、SIPストアは1店舗、7payは3か月で終わった。桁が2つから3つ違う。事業の出し入れで動く会社で社内発の新規事業を担当するなら、自分に期待されている役割が何なのかは、早い段階で握っておいたほうがいい。
ふたつ。中核からの距離が、そのまま明暗を分けている。7payはレジの中、SIPストアは売場の中、7NOWは店から届く30分の中にある。どれもコンビニを起点にした半径30分の内側だ。逆にオムニ7も、そごう・西武も、ヨーク・ホールディングスも、コンビニから遠かった。
10年ぶんの動きが、この一本の線でほぼ説明できてしまう。自社の中核から自分の企画がどれだけ離れているかは、通しやすさにも、続けやすさにも直結する。遠いところで勝負するなとは思わないが、遠いことを自覚しないまま進めると、行方は会社の都合で決まる。