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NEWFOR新規事業レポート / #009 セブン&アイ

セブン&アイのこの10年は、
足し算ではなく
引き算だった

新規事業の記事のはずなのに、いちばん大きな箱が「手放した事業」になる。セブン&アイの10年を金額順に並べると、そういう絵になりました。

新規事業マニア2026年8月5日じっくり読んで 8
Speedway買収の金額
2.2兆円
2020年発表、210億ドル。この10年で最大の動きは、社内発の事業ではなく買収でした
ヨークHD譲渡の金額
8,147億円
2025年完了。イトーヨーカ堂など非コンビニ29社を束ねてベインへ渡しました
7NOWが全国に届くまで
8
2017年に札幌と小樽の15店で実証、2025年2月に全国展開が完了しています
7payが続いた期間
3カ月
2019年7月開始、同年9月30日終了。決済は失敗が即座に信用へ響く領域でした
この記事はこんな方に
  • 社内発の新規事業を担当している方へ。自分の会社が「作る会社」か「出し入れする会社」かを、先に確かめる方法をご紹介します
  • 企画が通らない理由が分からない方へ。中核事業からの距離が、そのまま通しやすさに直結しているという話です
  • 短期で結果を求められている方へ。8年かけられた事業と3カ月で終わった事業の差は、能力ではなく形にありました
3行でいうと
  1. 金額順に並べると上位は買収と売却で埋まる。Speedway 2.2兆円、ヨークHD 8,147億円、そごう・西武 2,200億円。社内発の新規事業は桁が2〜3つ小さい。
  2. 社内発の新事業は7pay(レジ)、SIPストア(売場)、7NOW(配送)と、いずれもコンビニの半径30分の中にある。コンビニから遠いものは他社へ移すか提供を終えた。
  3. ヨークHDの設立が発表されたのは2024年10月10日。クシュタールが約7兆円へ増額提案した翌日だった。

金額順に並べると、上位が全部「手放した/買った」

セブン&アイの2015年以降の動きを、金額の大きい順に並べてみる。

  • Speedway買収(2020年発表)── 210億ドル、約2.2兆円
  • ヨーク・ホールディングス譲渡(2025年完了)── 8,147億円
  • Sunocoからの事業取得(2017年)── 約3,650億円
  • そごう・西武譲渡(2023年)── 2,200億円
  • 豪7-Eleven買収(2023年発表)── 約1,670〜1,700億円

新規事業のレポートを書いているのに、上位に社内発の事業がひとつも入ってこない。この会社の10年は、事業を作る話ではなく、事業を出し入れする話だった。

では社内発の新事業はどこにいるか。7NOWの2030年度目標が約1,200億円、SIPストアは1店舗、7payは3か月で終わった。桁が2つから3つ違う。

TIMELINE

未確認事業年表

セブン&アイが公開情報で発表した主な動き(2015年以降)
  • 2015.11オムニ7 開始グループ各社のECを1つに束ねた総合通販。2023年1月に提供を終えた次へ渡した
  • 2017.04米Sunocoから小売事業を取得ガソリンスタンド併設1,030店。報道ベースで約3,650億円いま続いている
  • 2017.107NOW 実証開始札幌・小樽の15店から。全国展開は2025年2月いま続いている
  • 2019.077pay 開始セブン-イレブンアプリ内のコード決済。同年9月30日に提供を終えた次へ渡した
  • 2020.08Speedway買収を発表米Marathonから約3,900店。210億ドル、約2.2兆円いま続いている
  • 2023.08そごう・西武の譲渡を決定フォートレスへ全株式を譲渡。譲渡額2,200億円次へ渡した
  • 2023.11豪7-Eleven運営会社の買収を発表約750店。約1,670〜1,700億円いま続いている
  • 2024.02SIPストア 開店セブン-イレブンとイトーヨーカ堂を掛け合わせた大型テスト店いま続いている
  • 2024.08クシュタールが買収を提案カナダのコンビニ大手から。9月に拒否、10月に増額提案次へ渡した
  • 2024.10ヨーク・ホールディングス 設立非コンビニ29社を束ねる中間持株会社。増額提案の翌日に発表いま続いている
  • 2025.027NOW 全国展開が完了最短20分の即配。約3,000品目いま続いている
  • 2025.03北米コンビニのIPOと2兆円の自社株買いを発表社長交代も同時に発表。2030年度までに総額2兆円いま続いている
  • 2025.07クシュタールが買収提案を撤回約1年で終結。増額後の提案は約470億ドル規模だった次へ渡した
  • 2025.09ヨークHDの譲渡が完了ベインへ8,147億円。セブン&アイは35.07%の少数株主として残る次へ渡した
  • 2025.08国内コンビニへの集中投資を発表2030年度までに約1,000店増、5,000店以上の改装に3,000億円いま続いている
新規事業マニアの解説

新規事業のレポートを書いているのに、金額の上位に社内発の事業がひとつも入ってこない。

これを並べ終えたとき、正直に言うと少し戸惑いました。Speedway 2.2兆円、ヨークHD 8,147億円、Sunoco 3,650億円、そごう・西武 2,200億円。対して7NOWの2030年度目標が約1,200億円です。桁が2つから3つ違います。

ただ、これは悪い話ではないと思っています。会社によって、新規事業に期待されている役割はまるで違う。その事実を先に知っておけるかどうかは、担当者にとってかなり大きいはずです。

社内発の新事業は、コンビニの半径30分にある

その社内発の3つを並べると、置かれている場所がきれいに揃っている。

7payはレジの中。SIPストアは売場の中。7NOWは店から届ける30分の中。どれもコンビニの店舗を起点にして、そこから半径30分ぶんだけ広げたものだ。

逆に、コンビニから遠い挑戦はどうなったか。オムニ7(グループ横断のEC)は2023年1月に提供を終えた。百貨店のそごう・西武は2023年に譲渡された。スーパーを束ねたヨーク・ホールディングスは2025年にベインへ渡った。

コンビニに近いものは残り、遠いものは他社へ移る。10年ぶんの動きが、この一本の線でほぼ説明できてしまう。

用語中間持株会社ちゅうかんもちかぶがいしゃ

グループの一部の会社をまとめて傘下に置く、親会社と事業会社のあいだの会社。まとめて売却しやすくなるという性質があります。2024年10月に設立されたヨーク・ホールディングスは、その11カ月後にベインへ譲渡されました。

7NOWは8年かけて全国に届いた

時間の使い方でいうと、7NOWがいちばん興味深い。

2017年10月、札幌と小樽の15店で実証が始まった。2022年2月に「7NOW」という名前がつき、2025年2月に全国展開が完了した。8年である。

同じ会社の7payが3か月で終わったことを考えると、この差は大きい。7payは決済という、失敗が即座に信用に響く領域だった。7NOWは既存の店舗と在庫の上に乗る事業で、1店舗ずつ増やせる。小さく試して増やせる形かどうかが、時間の使い方を決めている。

2030年度の目標は、対応約8,500店・売上約1,200億円。現状の約10倍を掲げている。客単価は2,234円で、店舗平均752円の約3倍だという。

実務のコツ

企画の段階で、「これは小さく試して、少しずつ増やせる形か」を必ず確認してください。

7NOWは2017年に15店で始めて、8年かけて全国に届きました。7payは3カ月で終わっています。この差は能力ではなく、事業の形の差だと思います。決済は一発で全国に出すしかなく、しかも失敗が即座に信用へ響く領域でした。

領域の性質が、使える時間を先に決めています。8年かけられる形に持ち込めるなら、それだけで生存率は変わります。

2024年10月9日と、10月10日

この10年を語るうえで外せない日付がある。

2024年8月19日、カナダのアリマンタシォン・クシュタールがセブン&アイに買収を提案した。9月6日に拒否。10月9日、クシュタールが提案額を約470億ドル、日本円で約7兆円規模まで引き上げた。

その翌日、10月10日。セブン&アイはヨーク・ホールディングスの設立を発表する。イトーヨーカ堂やロフト、赤ちゃん本舗など非コンビニ29社を束ねる中間持株会社である。あわせて社名を「セブン-イレブン・コーポレーション」へ変更する計画も公表された。

因果関係は公表されていないので断定はできない。ただ、日付が1日しか離れていないことは事実として記録しておきたい。

その後、2025年2月に創業家によるMBO提案が資金面から断念され、3月には北米コンビニのIPOと総額2兆円の自社株買い、そして社長交代が発表された。7月にクシュタールが提案を撤回し、9月にヨークHDの譲渡が完了している。

いま、コンビニに全部を寄せている

2025年8月、セブン&アイは国内コンビニへの集中投資を発表した。2030年度までに国内で約1,000店を増やし、5,000店以上の改装に3,000億円を投じる。成長投資は3.2兆円、2030年度の営業収益目標は11.3兆円。

10年かけて百貨店とスーパーとECを手放し、コンビニに寄せきった。引き算が終わって、ようやく足し算が始まる、という位置にいるのだと思う。

担当者の視点で見ると

この10年の並べ方から、担当者として先に確かめておきたいことが2つある。

ひとつ。自分の会社が、どちらのタイプかを知っておく。金額の上位はSpeedway買収2.2兆円、ヨーク・ホールディングス譲渡8,147億円、Sunocoからの取得3,650億円、そごう・西武譲渡2,200億円。対して社内発は、7NOWの2030年度目標が約1,200億円、SIPストアは1店舗、7payは3か月で終わった。桁が2つから3つ違う。事業の出し入れで動く会社で社内発の新規事業を担当するなら、自分に期待されている役割が何なのかは、早い段階で握っておいたほうがいい。

ふたつ。中核からの距離が、そのまま明暗を分けている。7payはレジの中、SIPストアは売場の中、7NOWは店から届く30分の中にある。どれもコンビニを起点にした半径30分の内側だ。逆にオムニ7も、そごう・西武も、ヨーク・ホールディングスも、コンビニから遠かった。

10年ぶんの動きが、この一本の線でほぼ説明できてしまう。自社の中核から自分の企画がどれだけ離れているかは、通しやすさにも、続けやすさにも直結する。遠いところで勝負するなとは思わないが、遠いことを自覚しないまま進めると、行方は会社の都合で決まる。

READERS' VOICE

読み終えた方へ

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。ひとつ選ぶと、ほかの読者が何を選んだかが見えます。この記録がどう受け取られたのかを、みんなで確かめる場所です。

NEWFOR MEMO
新規事業マニアのメモ ─ 自分が担当だったら

この会社の記録から学べるのは、新規事業のつくり方ではなく「既存事業の整理が、新規事業の前提になる」という順序だと思う。

国内コンビニに3.2兆円を入れられるのは、その前に百貨店とスーパーを手放したからだ。手放す判断のほうが、はじめる判断より難しく、そして時間がかかる。

もうひとつ。7payが3か月で終わり、7NOWが8年かけて全国に届いた。この差は能力の差ではなく、事業の形の差だと思う。一発で全国に出すしかないものと、1店舗ずつ増やせるもの。自分が担当なら、企画の段階で「これは小さく試せる形か」を必ず確認する。

最後に、2024年10月9日と10日の並びは、教材として強い。外から買収を提案されると、社内の構造改革が一気に動く。平時に通らなかった案が、そのときだけ通る。皮肉だが、これは新規事業担当にとっても他人事ではない。

新規事業マニア
40代 / 事業開発
20代でスタートアップを立ち上げ、1社を上場企業へ売却。その後、外資系コンサルティングファーム、通信大手、大手人材グループ、国内大手ITサービスの中で、社員として新規事業の立ち上げに携わる。並行して顧問として10社近くの新規事業を担当。事業立ち上げ歴20年の、大の新規事業マニア。
20年 事業立ち上げ歴1社 上場企業へ売却4社 事業会社の中で立ち上げ10社 顧問として担当