NEWFOR
NEWFOR / 記事一覧 / #023 三菱UFJ FG

育てる、出資する、買う。
三菱UFJがスタートアップに
近づいた11年

40件の記録を並べると、この会社がスタートアップに関わる入口は5通りあります。育てる、出資する、買う、組む、顧客として支える。そして出資は、いきなり全部ではありません。15.13%から92.45%へ、19.9%から94.0%へ。段階の踏み方が、はっきり記録に残っています。

Soichiro2026年8月28日じっくり読んで 約8分
記録した新規事業
39件
2008年10月のモルガン・スタンレーへの出資から、2026年5月のApps in ChatGPTまで、公開情報から拾って年表に並べた件数です
いま続いているもの
33件
40件のうち、公開情報で継続が確認できるもの。役目を終えた、または次へ渡したものが7件あります
スタートアップへの入口
5通り
育てる(育成プログラム)、出資する(CVC)、買う(子会社化)、組む(提携)、顧客として支える(法人サービス)の5つです
初号ファンドの規模
500億円
2026年2月3日に事業を始めたアルテミスベンチャーズが、2026年4月に設立を予定する「アルテミス1号」の想定規模です
この記事はこんな方に
  • これから資金調達を考えている経営者へ。大手銀行がスタートアップに近づく入口を、5通りに整理します
  • 大手と組むか迷っている方へ。出資が15.13%から92.45%まで段階を踏んだ実例を、日付と比率で追えます
  • いま調達の市況を知りたい方へ。日本のスタートアップの年間調達額と、そこへ入る500億円ファンドの話を読めます
3行でいうと
  1. 三菱UFJ FGがスタートアップに関わる入口は5通りある。2015年に国内の銀行として初の育成プログラムを始め、2019年1月にCVC専業のMUFG Innovation Partnersを資本金5億円で設立、2022年12月にカンムを子会社化し、2024年5月には法人向けのMUFGスタートアップキットを出した。
  2. 出資は段階を踏んでいる。ウェルスナビは公開買付け前の所有割合が15.13%で、2025年1月21日の結果発表では1株1,950円・買付総額約908億円で92.45%に達した。インドネシアのバンクダナモンも2017年12月の19.9%から2019年4月の94.0%へ、3段階で上げている。
  3. 2026年2月3日、市場部門発のアルテミスベンチャーズが事業を始めた。2025年10月27日設立で、ミッド・レイターステージが投資対象。初号ファンドは2026年4月に総額500億円規模を想定している。同社の資料は、日本のスタートアップの年間資金調達額を約8,000億円、過去10年で約10倍と説明している。

銀行がスタートアップに近づく入口は、5つある

三菱UFJ FGの40件を並べていて、いちばん整理しがいがあったのはスタートアップとの関わり方だった。ばらばらに見えた記録が、数えてみると5通りに分かれる。

1つめは育てる。2015年、国内の銀行として初のスタートアップ育成プログラム「MUFG Digitalアクセラレータ」を始めた。1期あたり約5社を採択し、第6期まで実施している。

2つめは出資する。2019年1月、CVC専業のファンド運営会社「MUFG Innovation Partners」を資本金5億円で設立した。2024年9月には生成AIのSakana AIへ出資し、本邦事業会社で最大の投資家になっている。

3つめは買う。2022年12月にプリペイド「バンドルカード」のカンムを子会社化し、2025年1月にはウェルスナビを公開買付けで子会社化した。

4つめは組む。2019年2月に米Akamaiと決済ネットワーク会社を共同設立し、2024年6月にリクルートと法人口座開設の仲介などで協業、2026年5月にはGoogleとリテール領域のAIエージェントで提携している。

5つめは顧客として支える。2024年5月の「MUFGスタートアップキット」は、口座開設や決済、ファクタリング、株主管理といったグループ各社の機能を、創業期の会社向けにまとめたものだ。

CHART

事業稼働チャート

三菱UFJ FGが2008年以降に始めた主な動きと、その期間
モルガン・スタンレーへの出資2008–
タイ・アユタヤ銀行2013–
MUFG Digitalアクセラレータ2015–2021
Japan Digital Design2017–
バンクダナモン(尼)2017–
MUFG AI Studio2018–
豪CFSGAM(資産運用)2018–
MUFG Innovation Partners(CVC)2019–
Global Open Network(GO-NET)2019–2022
auカブコム証券(KDDIと)2019–2024
MUFGユニオンバンク(米)2008–2022
配車Grabへの出資2020–
Money Canvas2021–
MUFGトレーディング2022–
カンム(バンドルカード)2022–
Progmat(デジタル資産基盤)2023–
豪Link Administration2023–
MUFGスタートアップキット2024–
Sakana AIへの出資2024–
ウェルスナビ2025–
金融ブランド エムット2025–
アルテミスベンチャーズ2026–
2008201120142017202020232026
継続中役目を終えた
新規事業マニアの解説

5つ並べてみて、順番に意味があると思いました。

2015年は「育てる」から入っています。お金を出すのでも買うのでもなく、場を用意するところから始めている。

そのあとにCVC、子会社化、そして2026年の500億円ファンドと続きます。近づき方が、年を追うごとに重くなっている。この順番は、組む側から見ても読みどころだと思いました。

出資は、いきなり全部ではない

この会社の出資の仕方には、はっきりした型がある。一度に全部を取らない。

ウェルスナビの例がわかりやすい。2025年1月21日に出た公開買付けの結果によれば、買付け前の所有割合は15.13%だった。そこへ1株1,950円で公開買付けを実施し、46,563,404株の応募を全数買い付けた。買付総額は約908億円。結果、所有割合は92.45%になった。

用語公開買付け(TOB)こうかいかいつけ

上場している会社の株を買い集めたいとき、「1株いくらで、何株買います」と広く公表して募る方法です。市場でこっそり買い集めるのではなく、条件を先に示して手を挙げてもらいます。株主にとっては、売るか持ち続けるかを自分で選べる仕組みです。

同じ型は海外でも使われている。インドネシアのバンクダナモンは、2017年12月に19.9%を取得して「第1段階が完了」と発表され、2019年4月に追加取得で94.0%まで引き上げて連結子会社化した。発表資料には「第3段階」と書かれている。段階を数えながら進んでいる。

実務のコツ

大手からの出資は、比率で意味が変わります。

三菱UFJ FGの記録では、15.13%(ウェルスナビ・公開買付け前)、19.9%(バンクダナモン・第1段階)、49.0%(Progmat)、80%(GO-NET)、92.45%(ウェルスナビ・買付け後)と、案件ごとに比率が違います。

最初の比率は、最後の比率ではありません。いま何%を渡すかを考えるとき、その先に段階があることも一緒に置いて話すと、交渉の景色が変わります。

500億円のファンドが、2026年に動き出す

2026年2月3日、三菱UFJ銀行が設立した「株式会社アルテミスベンチャーズ」が事業を始めた。設立は2025年10月27日である。

投資の対象は日本のグロース企業、つまりミッド・レイターステージのスタートアップ。三菱UFJ銀行と三菱UFJ信託銀行が無限責任組合員となり、国内外の投資家からのLP出資も予定している。初号ファンド「アルテミス1号投資事業有限責任組合」は2026年4月の設立を予定し、総額500億円規模を想定している。

この発表の中に、市況の数字がある。

日本のスタートアップの年間資金調達額は約8,000億円。過去10年間で約10倍に増加している

8,000億円の市場に、1本で500億円規模のファンドが加わる、という話である。しかも狙いは創業期ではなく、もう少し先まで進んだ会社だ。

TIMELINE

未確認事業年表

三菱UFJ FGが公開情報で発表した新規事業を、始めた順に
  • 2008.10モルガン・スタンレーへ出資リーマン危機下で総額90億米ドルを払い込み、転換型優先株など2種で構成。潜在議決権ベース約21%を保有する筆頭株主となった継続中
  • 2013.07タイ・アユタヤ銀行の買収を決定1株39タイバーツで公開買付を実施し、発行済株式の最大約75%を取得する計画。取得総額は約5,600億円を見込み同年12月に子会社化継続中
  • 2015MUFG Digitalアクセラレータ開始国内の銀行として初のスタートアップ育成プログラム。1期あたり約5社を採択し第6期まで実施。第6期をもって提供を終えた役目を終えた
  • 2017.07Japan Digital Design設立100%出資のデジタル戦略子会社。資本金30億円で、金融のUI/UX設計やデータ分析、先端技術の研究開発を担う継続中
  • 2017.12バンクダナモンへ戦略出資インドネシア大手商業銀行の株式19.9%を取得し第1段階が完了。以降3段階に分けて出資比率を引き上げる計画を公表した継続中
  • 2018.04MUFG AI Studioの新設グループ独自のAIモデル開発・研究を目的とする組織を4月27日に設置。内外のリソースを集約し実装を速めた継続中
  • 2018.10豪CFSGAMの買収を決定コロニアル・ファースト・ステートの資産運用子会社9社を100%取得。取得額は約40億豪ドル、運用資産は約2,100億豪ドル継続中
  • 2019.01MUFG Innovation Partners設立CVC専業のファンド運営会社。資本金5億円で発足し、1号ファンドの出資約束金額は200億円継続中
  • 2019.02Global Open Networkを共同設立米Akamaiと決済ネットワーク会社を設立。出資比率はMUFG80%、Akamai20%、資本金2億5千万円。2022年に提供を終えた役目を終えた
  • 2019.02カブドットコム証券をKDDIと共同運営KDDI側が49%、三菱UFJ証券HDが51%を保有する体制へ移行。2025年1月にMUFGが100%を取得し共同運営を終えた役目を終えた
  • 2019.03DVBバンクの航空機金融事業を買収独DVB銀行から航空機ファイナンス関連事業を譲り受け。対象の貸出債権は約56億ユーロ、約7,163億円規模継続中
  • 2019.04バンクダナモンを子会社化追加取得で出資比率を94.0%へ引き上げ連結子会社化。第3段階の取得額は約3,970億円継続中
  • 2020.02配車大手Grabへ出資東南アジアのスーパーアプリ運営会社へ最大7億600万米ドル(約783億円)を出資。339都市の顧客基盤で金融サービスを共同展開する継続中
  • 2020.09大阪に会員制イノベーション拠点観光とイノベーションの新結合を掲げる共創拠点を約300坪で開設。参画企業17社、パートナー4団体で2021年2月に稼働した継続中
  • 2021.09MUFGユニオンバンクの譲渡を決定米U.S. Bancorpへ譲渡する契約を締結。対価は総額約176億米ドルで、USB発行済株式の約2.9%も受領する構成とした役目を終えた
  • 2021.12Money Canvas提供開始資産形成の総合サポートサービスを開始。株式や投資信託など複数社の商品を集約し、2022年4月に保険も追加した継続中
  • 2022.02GO-NETの事業停止を決定2019年4月設立、2021年4月に事業開始した高速決済ネットワーク。黒字化が見込めず開始1年たらずで提供を終えた役目を終えた
  • 2022.07MUFGトレーディング設立三菱UFJ銀行が100%出資し7月1日付で登記。商品の購入・売却を通じた貿易金融サービスの提供を手がける継続中
  • 2022.08Animoca Brands日本法人へ出資Web3・NFT領域の協業に向け2,250万米ドルを出資。2021年10月設立の日本法人と組み国内のNFT事業を開拓する継続中
  • 2022.11Home Creditの比・尼2社を買収フィリピン社を100%、インドネシア社を85.0%取得する契約を締結。総額596百万ユーロ、約870億円継続中
  • 2022.12MUFGユニオンバンクを譲渡米U.S. Bancorpへの譲渡が完了。対価として現金55億米ドルとUSB株式約4,400万株(発行済の約3%)を受領した役目を終えた
  • 2022.12Akulakuへ2億米ドル出資インドネシア発のBNPL・デジタル金融事業者へ2億米ドル(約260億円)を出資。東南アジアのリテール金融を強化した継続中
  • 2022.12カンムを子会社化プリペイド「バンドルカード」を手がけるフィンテック企業の株式を取得。アプリの累計ダウンロードは600万件超継続中
  • 2023.02ジャパン・メタバース経済圏オープンなメタバース基盤の構築へ10社で基本合意書を締結。異なるメタバース間の相互運用によるエコシステム形成を目指す継続中
  • 2023.06PT Mandala Multifinanceを買収インドネシアの二輪車ローン大手の株式80.6%を約660億円で取得する契約を締結。三菱UFJ銀行が70.6%、ADMFが10%を保有継続中
  • 2023.10Progmat設立デジタルアセットの共通基盤会社を8社共同で設立。三菱UFJ信託銀行が49.0%を出資し、資本金は1億円継続中
  • 2023.12豪Link Administrationを買収株主名簿管理などを手がける豪上場企業を1株2.10豪ドル、総額1,110百万豪ドルで100%取得する契約を締結した継続中
  • 2024.05MUFGスタートアップキット口座開設や決済、ファクタリング、株主管理などグループ各社の支援サービスを一括案内。5月16日に提供開始継続中
  • 2024.06リクルートとの協業開始法人口座開設の仲介などで協業。オンライン融資Biz LENDINGは申込から実行まで最短2営業日で提供する継続中
  • 2024.09Sakana AIへ出資生成AI開発企業へ出資し本邦事業会社で最大の投資家に。同社は2023年7月設立、約1年で企業価値10億ドルを超えた継続中
  • 2024.11auじぶん銀行株式をKDDIへ譲渡保有する22%をKDDI側へ譲渡し、同時にauカブコム証券の49%を取得。2025年1月末に完了した役目を終えた
  • 2025.01ウェルスナビをTOBで子会社化1株1,950円で公開買付を実施し、所有割合は92.45%に到達。ロボアドバイザーによる資産運用サービスを取り込んだ継続中
  • 2025.02MSと共同のクレジット新会社設立三菱UFJモルガン・スタンレー証券が100%出資し2月17日に登記。金銭の貸付や債務保証、金銭債権の譲受を手がける継続中
  • 2025.05金融ブランド エムット 始動銀行口座アプリを軸にグループの金融サービスを束ねる新ブランド。2025年6月2日に始動した継続中
  • 2025.10デジタルアセット事業を開始債券セキュリティトークンの取り扱いを開始し、デジタル証券取引サービスASTOMOを提供。スマホから10万円で投資できる継続中
  • 2026.02アルテミスベンチャーズ事業開始市場部門発のベンチャー投資会社が始動。2025年10月27日に登記し、総額500億円規模のファンド組成を想定する継続中
  • 2026.03エムットの資産形成新会社を設立へ三菱UFJ eスマート証券とウェルスナビを2027年度中に経営統合。2026年度第1四半期をめどに中間持株会社を設立する継続中
  • 2026.05Googleとの戦略的提携リテール領域でAIエージェントを使う購買・決済支援などで協業。YouTube Premiumの3ヶ月無料提供なども実施する継続中
  • 2026.05Apps in ChatGPTで金融体験ChatGPT上で口座残高や取引明細を対話的に確認できるサービスを5月28日に開始。マネーツリーと共同で提供する継続中
新規事業マニアの解説

この記事を書きながら、いちばん実用的だと思ったのはここでした。

大手の出す金額と段階を知っておくと、自分がいまどの入口の前に立っているかがわかります。

育成プログラムなのか、CVCの出資なのか、500億円ファンドの射程なのか。入口ごとに、相手が見ている時間の長さが違う。それを先に知っておくのは、たぶん損になりません。

挑戦する人の視点で見ると

三菱UFJ FGの40件から持ち帰れるものは、「大手は1つの入口から来るわけではない」ということだと思う。

育成プログラム、CVC、子会社化、提携、法人サービス。5つの入口はそれぞれ別の部署が、別の目的で開けている。だから「銀行と組む」と一言でいっても、どの入口の話かで、相手の見ている時間も、渡すものも変わる。

もうひとつは、比率の話だ。ウェルスナビは15.13%から92.45%へ、バンクダナモンは19.9%から94.0%へ。最初に渡した比率は、その時点の合意であって、終わりの比率ではない。この年表は、その途中経過を日付つきで見せてくれる数少ない記録である。

2015年に始まったMUFG Digitalアクセラレータは第6期をもって提供を終えました。2019年2月に米Akamaiと設立したGlobal Open Network(GO-NET)は2021年4月に事業を始め、2022年2月に事業停止を決めています。2008年から関わった米MUFGユニオンバンクは2022年12月にU.S. Bancorpへ譲渡しました。どれも続いているものと同じ重さで年表に並べています。

最後に、時間の話。2015年の育成プログラムから2026年の500億円ファンドまで11年かかっている。銀行がスタートアップとの距離を詰めるのに、それだけの年数が使われた。いま目の前にある入口は、11年ぶんの試行の先にできたものだと思って眺めると、少し違って見えると思う。

READERS' VOICE

ここまで読んだ、あなたへ

ひとつ選ぶと、ほかの読者が何を選んだかが、その場で見えます。
この記録がどう受け取られたのかを、みんなで確かめる場所です。

NEWFOR MEMO
新規事業マニアのメモ ─ 自分が担当だったら

自分が担当だったら、この年表から持ち帰るのは「入口は1つではない」という一点だと思う。

三菱UFJ FGは、育てる(2015年アクセラレータ)、出資する(2019年CVC・2024年Sakana AI)、買う(2022年カンム・2025年ウェルスナビ)、組む(2019年Akamai・2024年リクルート・2026年Google)、顧客として支える(2024年スタートアップキット)の5通りでスタートアップに近づいている。相手が来る入口によって、求められるものが違う。

もうひとつは比率。ウェルスナビは15.13%から92.45%、バンクダナモンは19.9%から94.0%。どちらも段階を踏んでいる。最初の1回で決まる話ではない、という実例が2件ある。

最後に規模。2026年4月設立予定のアルテミス1号は総額500億円規模を想定。同社の資料では日本のスタートアップの年間調達額は約8,000億円で、過去10年で約10倍。市場の伸びと、そこへ入ってくる資金の大きさを、同じ資料の中で見られる。

Soichiro新規事業マニア
40代 / 事業開発
新規事業マニア。20代でスタートアップを立ち上げ、1社を上場企業へ売却。その後、外資系コンサルティングファーム、通信大手、大手人材グループ、国内大手ITサービスの中で、社員として新規事業の立ち上げに携わる。並行して顧問として10社近くの新規事業を担当。事業立ち上げ歴20年。名前は、本田宗一郎への敬意から。
20年 事業立ち上げ歴1社 上場企業へ売却4社 事業会社の中で立ち上げ10社 顧問として担当