会社の形を、7年で3回まとめている
LINEヤフーの41件を並べていて、まず目についたのは事業ではなく会社そのものの形だった。7年のあいだに3回、まとめ直している。
1回目は2019年10月。ヤフー株式会社が持株会社体制へ移り、Zホールディングスへ商号を変えた。2回目は2021年3月1日、ZホールディングスとLINEの経営統合が完了。従業員2.3万人、延べ利用者3億超の規模になった。3回目は2023年10月、Zホールディングス・LINE・ヤフーなど5社のグループ内再編が完了し、LINEヤフー株式会社が発足している。
1996年1月に設立されたときのこの会社は、ソフトバンクと米ヤフーの2社による合弁だった。30年で、器のほうが何度も作り替えられている。
事業稼働チャート
ここまでは、よくある大企業の再編の話に見えます。
けれど年表を先へ進めると、まったく逆向きの動きが、同じ時期に走っていることに気づきました。
まとめる一方で、いちばん育った事業を、自分の外へ出している。この2つが同時に起きているところが、41件でいちばん面白い部分でした。
いちばん育った事業を、自分の外に出した
2018年6月、ソフトバンクとの共同出資でPay株式会社が設立された。翌月にPayPay株式会社へ商号を変え、2018年10月にQRコード決済を開始している。
そして2026年3月12日、PayPayは米国ナスダックへ上場した。ティッカーはPAYP。公開価格は1米国預託株式(ADS)あたり16ドル、売り出しは合計54,987,214株である。
日本の会社の株を、そのままアメリカの市場では売買できません。そこで現地の銀行が日本の株を預かり、その預かり証にあたるものを発行します。これがADS(American Depositary Share)です。アメリカの投資家は、この預かり証をドルで売り買いします。
設立から上場まで7年9か月。親会社の中に置き続けるのではなく、外の市場に出した。同じことは、ほかでも起きている。2024年12月には子会社のLINE Pay Taiwan Limitedが台湾証券取引所へ上場した。
手放し方は上場だけではない。2023年6月、LINE証券の証券サービスは提供を終え、150万口座超の資産を野村證券へ次へ渡した。2025年2月にはPayPay証券の株式を、ソフトバンクとLINEヤフーからPayPayへ移している。証券は決済会社の下へ、という置き直しである。
事業を「自分の会社の中」に置き続ける必要はありません。
LINEヤフーは、育った事業を上場させ(PayPay・LINE Pay Taiwan)、合わない事業は続けてくれる相手へ渡し(LINE証券)、近い事業どうしはまとめ直しています(PayPay証券)。
器を選び直すことは、あきらめではなく、事業を伸ばすための打ち手です。どこに置けばいちばん伸びるか、という問いのほうが先にあります。
4,400万人の決済を畳んで、7,400万人へ寄せた
この会社には、国内の決済サービスが2つあった。LINE PayとPayPayである。
2024年6月13日、「日本国内における『LINE Pay』サービス終了に関するお知らせ」が出た。この時点で国内登録者数は4,400万人を超えていた(2024年5月時点)。送金・送付は2024年9月上旬、チャージは2025年3月下旬に順を追って終え、2025年4月30日に国内サービスの提供を終えた。
2つあるものを1つに寄せる判断である。そして寄せた先の到達点が、2026年7月2日の発表だった。
国内月間利用者数1億ユーザーの「LINE」と登録ユーザー7,400万人を抱える「PayPay」のアカウント連携を2026年夏より開始
トーク上でのPayPay残高送金、グループでの割り勘、LINEミニアプリ版PayPay、PayPayアプリ上へのLINEの友だちリスト表示、LINEポイントとPayPayポイントの統合。4,400万人ぶんの決済を畳んだ2年後に、1億人のアプリと7,400万人の決済がつながった。
未確認事業年表
- 1996.01ヤフー株式会社 設立ソフトバンクと米ヤフーの2社による合弁として設立。同年4月に日本語ポータルYahoo! JAPANを開いた継続中
- 1999.09ヤフオク・Yahoo!ショッピング開始2サービスを同月に開始。広告に次ぐ収益柱となるコマース領域へ本格的に入った継続中
- 2001.09Yahoo! BB 開始ソフトバンクグループのADSL接続サービスとして開始。広告以外の通信・会員課金領域へ広げた継続中
- 2002.11検索連動型広告 開始検索キーワードに連動する広告商品を開始し、主力事業へ育てた継続中
- 2004.04Yahoo!知恵袋 開始利用者同士が質問と回答を投稿するQ&Aサービス。検索流入を支える投稿型コンテンツになった継続中
- 2011.06LINE 提供開始NHN Japanがメッセージアプリを開始。2025年12月に国内月間利用者数1億を突破した継続中
- 2012.04アスクルと業務・資本提携同年10月に個人向け通販LOHACOを共同で開始し、日用品EC領域へ2社体制で参入した継続中
- 2012.11LINE GAME 開始LINE上のゲームプラットフォーム。同年の公式アカウント、LINE@と合わせて事業の柱を足した継続中
- 2013.03LINE Plus Corporation 設立海外展開の拠点として韓国に設立。2014年9月に完全子会社化し、タイ・台湾などへ広げた継続中
- 2013.07LINE NEWS 開始LINE上のニュース配信サービス。同年4月のLINE占いと合わせ、2つのコンテンツ事業を始めた継続中
- 2015.01ワイジェイカードの株式取得現PayPayカードの株式を取得しクレジットカード事業へ参入。金融領域で1社目となった継続中
- 2015.04LINEギフト 開始LINE上で贈り物を送れるサービス。同年6月にはLINE MUSICも開始した継続中
- 2016.02一休の株式取得宿泊・レストラン予約の一休を公開買付けで買収し子会社化。買収規模は約1,000億円継続中
- 2016.06LINE広告 開始LINE上の広告配信サービス。同月のLINE TODAY、11月のLINEリサーチと合わせて広げた継続中
- 2016.07LINE 米国・東京市場へ上場ニューヨーク証券取引所と東京証券取引所の2市場へ同時に上場した継続中
- 2018.02ジャパンネット銀行の株式取得現PayPay銀行の株式を取得し銀行事業への関与を強化。2021年4月にPayPay銀行へ商号を変えた継続中
- 2018.06PayPay株式会社 設立ソフトバンクとの共同出資でPay株式会社を設立し、同年7月にPayPay株式会社へ商号を変えた継続中
- 2018.10PayPay サービス開始QRコード決済を開始。口座数4,000万超のYahoo!ウォレット基盤を活用して立ち上げた継続中
- 2019.10持株会社化とZホールディングス発足ヤフーが持ち株会社体制へ移行し商号を変更。会社の形を変えた1回目にあたる継続中
- 2019.10PayPayフリマ 開始フリマアプリを開始。同月にビッグデータ活用のヤフー・データソリューションも始めた継続中
- 2019.11ZOZOの株式取得公開買付けでZOZOの議決権50.1%を約4,007億円で取得し連結子会社化した継続中
- 2019.12Yahoo!ブログ 提供終了2019年2月に終了を発表し、同年12月15日に提供を終えた。投稿はほかのサービスへ移せるようにした役目を終えた
- 2020.03出前館への資本業務提携LINEとNAVER系ファンドが計約300億円を出資。LINEの議決権比率は35.87%となった継続中
- 2020.10LINE BK 開始(タイ)タイでLINE上のバンキングサービスを開始。2021年4月に台湾、6月にインドネシアへ広げた継続中
- 2021.03ZホールディングスとLINEの統合3月1日に経営統合が完了。従業員2.3万人、延べ利用者3億超の規模となった。形を変えた2回目継続中
- 2021.04Z Venture Capital 事業開始YJキャピタルとLINE Venturesが合併し始動。300億円規模の新ファンドを組成した継続中
- 2021.11LINE VOOM 開始LINE上の動画プラットフォーム。同年3月のLINEスキマニと合わせ、2つの新サービスを始めた継続中
- 2023.06LINE証券の証券事業を野村へ移管いちかぶなど証券サービスの提供を終え、150万口座超の資産を野村證券へ次へ渡した役目を終えた
- 2023.10LINEヤフー株式会社 発足Zホールディングス、LINE、ヤフーなど5社のグループ内再編が完了。形を変えた3回目継続中
- 2023.11LYPプレミアム 開始Yahoo!プレミアムをリブランドし、LINE関連特典を統合した会員サービスへ移した継続中
- 2024.06LINE Pay 国内サービスの終了を発表6月13日発表。国内登録者4,400万人超のLINE Payは2025年4月30日に提供を終えた役目を終えた
- 2024.07SeekAI 全社導入社内文書を横断検索するRAG活用ツールを全従業員へ本格導入。年間70〜80万時間の削減を見込む継続中
- 2024.12LINE Pay Taiwan 台湾市場へ上場子会社のLINE Pay Taiwan Limitedが台湾証券取引所へ上場した継続中
- 2025.01ZVC2号投資事業組合 組成Z Venture CapitalがAI・ディープテックなどを対象に300億円規模の新ファンドを組成した継続中
- 2025.02PayPay証券の株式をPayPayへ譲渡2月10日発表。ソフトバンクとLINEヤフーが持つ株式をPayPayが取得し、決済会社の下へ移した継続中
- 2025.04Yahoo! JAPANとLINEに生成AIYahoo! JAPANアプリのAIアシスタント機能と、LINE AI・LINE AIトークサジェストを始めた継続中
- 2026.01トレタの株式取得飲食店向け予約管理サービスのトレタの株式を取得し子会社化へ。累計19,000店舗超が使う継続中
- 2026.03PayPayが米国ナスダックへ上場3月12日に上場。ティッカーはPAYP、公開価格は1米国預託株式あたり16ドルとなった継続中
- 2026.07LINEとPayPayのアカウント連携7月2日発表。国内月間利用者1億のLINEと登録7,400万人のPayPayをつなぎ、2026年夏から順次始める継続中
数字だけ見ると、4,400万人を手放したように見えます。
でも年表の順番で読むと、違う絵になります。畳んだのは看板で、そこにいた方々は、寄せた先で使い続けられるようにしてある。
2024年に発表して、2025年4月に終えて、2026年に1億人とつなぐ。2年がかりの引っ越しだったという読み方が、いちばん近いと思いました。
挑戦する人の視点で見ると
LINEヤフーの41件から持ち帰れるものは、「事業をどこに置くか」を何度でも問い直していいということだと思う。
この会社は、会社の形を7年で3回まとめた。同時に、いちばん育ったPayPayをナスダックへ出し、LINE Pay Taiwanを台湾へ出し、LINE証券を野村へ渡した。まとめることと、手放すことは、反対の行動に見えて、どちらも「いちばん伸びる場所へ置き直す」という一つの動きである。
これから起業する方に効くのは、たぶん時間の見え方のほうだ。PayPayは設立から上場まで7年9か月かかっている。2018年10月にサービスを始めたとき、8年後にニューヨークの市場に名前が並ぶことは、まだどこにも書かれていない。1996年に合弁で始まった会社が、30年後に1億人のアプリを持っていることも同じである。
もうひとつ。この会社が2つの決済を1つに寄せたとき、消したのは看板であって、使っている方ではなかった。自分の事業が誰かの事業と重なったとき、どちらを残すかより、そこにいる方をどこへ連れていくかを先に決める。41件の記録は、その順番で読むといちばん正確だと思う。