2026年3月期のソフトバンクグループの決算を、まず数字だけ並べる。売上高7兆7,987億円。税引前利益6兆1,349億円。親会社の所有者に帰属する純利益5兆22億円。
この純利益は、日本企業として過去最高である。
ただ、この記事で見たいのは金額そのものではない。その5兆円が、どこから出てきたのかのほうだ。
- ソフトバンク・ビジョン・ファンド事業 ── 6兆4,446億円
- 持株会社投資事業 ── 4,721億円のマイナス
- ソフトバンク(国内通信) ── 9,650億円
- AIコンピューティング(Armなど) ── 1,373億円のマイナス
ビジョン・ファンド事業の6兆4,446億円が、ほぼ全てである。そしてこの中身をもう一段開けると、OpenAI関連の投資利益が6兆4,655億円と記されている。セグメントの利益より、1件の投資から出た利益のほうが大きい。
ここは、はっきり書いておいたほうがいいと思います。
日本企業の最高益は、事業を運営して稼いだお金ではありません。持っている株式の評価が上がったことによる利益です。売って現金になったわけでもありません。
そして前の年、同じセグメントは1,150億円のマイナスでした。1年で6兆5,000億円以上、振れています。
これを「たまたま当たった」と読むこともできます。ただ私は、この振れ幅こそがこの会社の設計そのものだと思っています。順番に見ていきます。
事業稼働チャート
売上の9割は、いまも通信が作っている
振れる会社という印象とは裏腹に、グループの売上の内訳はきわめて安定している。
国内通信を担うソフトバンク株式会社の2026年3月期は、売上高7兆387億円、営業利益1兆426億円。前の期は売上6兆5,443億円、営業利益9,890億円だった。毎年、着実に増えている。
グループ連結の売上7兆7,987億円に対して、このソフトバンクのセグメント売上は7兆409億円。約90%である。
ところが利益で見ると景色が変わる。グループの税引前利益6兆1,349億円に対して、ソフトバンクのセグメント利益は9,650億円。16%ほどにしかならない。
会社を事業のかたまりごとに区切って、それぞれの売上と利益を開示する単位のこと。ソフトバンクグループは「ソフトバンク(国内通信)」「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」「持株会社投資事業」「AIコンピューティング」などに分けて開示しています。どこで稼いでいる会社なのかは、この区分を見ると分かります。
この二階建ての構造が、私にはこの会社の一番の要点に見えます。
一階に、毎年1兆円を安定して稼ぐ通信事業がある。売上の9割を作り、利益もぶれない。
二階に、年で数兆円振れる投資事業がある。ある年はマイナス、ある年は6兆円。
一階があるから、二階であれだけ大きく張れる。逆に言えば、一階のない会社があの張り方を真似すると、まったく違う結果になります。
自社の「一階」がどれだけ強いかを、先に数字で押さえてください。新規事業にいくら張れるかは、意志ではなく既存事業のキャッシュが決めています。
社内で予算を通すときも、「新規事業に○億円ください」より「本業の営業キャッシュフロー○億円のうち○%を、3年間このテーマに配分します」のほうが、話が具体的になります。
ソフトバンクグループは2018年12月に通信子会社を上場させています。一階を独立させて、二階が動きやすい形にしたとも読めます。
45年、ずっと同じことをしている
年表を1981年から並べると、この会社の輪郭がはっきりしてくる。
1995年、COMDEXを約8億ドルで取得。2001年に譲渡している。同じ年に米Ziff-Davisを約18億ドルで取得。2000年に雑誌部門を7.8億ドル、ZDNetを16億ドルで分割して譲渡している。
2000年、創業間もないアリババへ2,000万ドル、日本円で約20億円を出資。この持分は2016年以降に段階的に売却され、2022年3月期には4兆6,000億円規模の売却益、2024年3月期にも1兆2,000億円規模の売却益を計上した。
2013年、Supercellへ15.3億ドルを出して51%を取得。2016年6月にテンセントへ約7,700億円で譲渡。同じ2013年に約1.8兆円で取得したSprintは、2020年4月にT-Mobile USと統合し、運営する立場から株主の立場に変わった。
2017年に33億ドルで取得したFortressは2024年5月に譲渡。同じ2017年に取得したBoston Dynamicsは2021年に現代自動車グループへ80%を渡し、2026年7月に残る持分の譲渡でも合意している。
手放した事業の多くは、売った先で今日も動いている。この会社の記録では、譲渡は事業の終わりではなく、担い手が変わったことを意味している。
他の11社の年表を作ってきて、この会社だけ明らかに違うのは「手放した件数の多さ」です。
ただ、並べているうちに印象が変わりました。手放し方が、どれも似ているのです。その事業が一番評価される相手に、一番評価されるタイミングで渡している。ゲーム会社はゲーム会社へ、ロボット会社は自動車メーカーへ、投資運用会社は政府系ファンドへ。
そしてもう一つ。売って得た資金が、次の投資に入っています。これは推測ではなく、直近ではっきり観察できる形で起きました。
NVIDIAを売って、OpenAIを買った
2025年11月、ソフトバンクグループは保有するNVIDIA株を全て譲渡した。金額は58.3億ドル。T-Mobile株も一部を譲渡している。
そして同じ月、OpenAIへ225億ドルを追加で出資している。
OpenAIへの出資は2025年4月の75億ドルから始まり、2026年3月期だけで324億ドルを実行した。2026年2月にはさらに300億ドルの追加出資を決め、4月と7月に各100億ドルを実行済み、10月にもう100億ドルを実行する予定と公表されている。完了時点での累計は646億ドル、持分は約13%になる。
2026年3月期の純利益5兆22億円は、この出資先の評価が上がったことによる。
ソフトバンクグループが自社の価値を説明するときに使う指標。保有している株式の価値を合計し、そこから純有利子負債を引いたものです。2026年3月末で40.1兆円、1株あたり7,029円。借入が保有株式価値に占める比率(LTV)は17.0%と開示されています。
NVIDIA株の譲渡は、当時いろいろな読み方をされました。
ただ年表の中に置いてみると、これまで45年やってきたことと同じに見えます。役割を終えた持分を渡し、そのお金を次に入れる。アリババのときも、Supercellのときも、Sprintのときも、形は同じでした。
違うのは金額の桁だけです。20億円だった出資が、いまは1件で300億ドルになっています。
ただし、持ち続けているものもある
全てを手放しているわけではない。むしろ、持ち続けている事業のほうが、この会社の説明として分かりやすい。
2018年10月に始まったPayPayは、12月4日に「100億円あげちゃうキャンペーン」を開始し、利用が想定を大きく超えて10日後の12月13日に終了している。
その8年後、2026年3月12日にNASDAQへ上場した。公開価格は1ADSあたり16ドル。
- 登録ユーザー数 ── 7,340万人
- 決済取扱高(GMV) ── 19.0兆円(前年比23%増)
- 売上収益 ── 3,807億円(27%増)
- 営業利益 ── 801億円(126%増)
- 上場後のグループ持分 ── 90.7%
2016年に約3.3兆円で取得したArmも手放していない。2023年9月にNASDAQへ再上場させたうえで、923百万株を保有し続けている。発行済株式が10億6,406万株なので、持分はおよそ87%である。Armの2026年3月期の売上高は49.2億ドルで、前の期から23%増えた。
ここが、出口設計の話で一番大事なところだと思っています。
この会社は「売る」と「上場させる」を、別の出口として使い分けています。
売るのは、自分たちが持っている意味が薄れたとき。上場させるのは、持ち続けたいけれど価値をはっきりさせたいときです。ArmもPayPayも上場していますが、持分は9割近く残っています。
出口は「手放す」だけではありません。ここは、社内で新規事業の出口を議論するときにそのまま使える整理だと思います。
いま、四隅を取りにいっている
2025年から2026年にかけての動きは、それまでと質が変わっている。
2025年1月、OpenAI・Oracle・MGXとともにStargateを発表した。4年で5,000億ドルを投じるAIインフラ計画で、ソフトバンクグループが資金面、OpenAIが運営面を担い、孫正義氏が会長に就いた。
2025年3月にはシャープの堺工場を約1,000億円で取得し、受電容量150MW規模のAIデータセンターにする計画を出した。同月に発表したAmpere Computingの取得(65億ドル)は11月に完了。10月にはABBのロボット事業の取得(53.75億ドル、従業員約7,000人)を発表している。8月にはIntelへ20億ドルを出資した。
ソフトバンクグループレポート2026で、孫正義氏はこれらをAIモデル・半導体・AIインフラ・ロボットの4領域と整理し、オセロの四隅にたとえている。そして2042年にNAV1,000兆円を目指すと書いている。
担当者の視点で見ると
この記録から、明日の仕事に持ち帰れることを3つにまとめる。
ひとつ。出口を、始める前に3つ用意しておく。この会社が45年で使ってきた出口は、売る・統合する・上場させる、の3つに整理できる。Supercellは売り、Sprintは統合し、ArmとPayPayは上場させた。企画書に「うまくいったら」と「うまくいかなかったら」の2つしか書いていないなら、選択肢が足りていない。
ふたつ。新規事業の予算は、本業のキャッシュから逆算する。グループの売上の9割は国内通信が作っている。あの張り方ができるのは、一階が毎年1兆円を安定して稼いでいるからだ。自社の一階がいくら稼いでいるかを先に数字で押さえると、社内での説明が変わる。
みっつ。持分を渡すことを、事業の終わりだと考えない。Boston Dynamicsは現代自動車グループのもとで、Supercellはテンセントのもとで、SBエナジーは豊田通商のもとで、いまも動いている。より適した担い手に渡すことは、その事業にとっても悪い話ではない。渡し先を想定しておくと、始めるときの設計そのものが変わる。