同じ会社を、2回持ち替えた
三菱商事の新規事業を10年ぶん並べていて、いちばん目を引いたのはローソンだった。
2016年9月、三菱商事はローソンの子会社化を発表する。それまで持分法適用会社だった約33%を、TOBで50.1%まで引き上げた。金額は約1,440億円。
それから8年後の2024年2月、今度はKDDIとの共同経営が発表される。KDDIが約4,971億円を投じてローソン株を取得し、三菱商事とKDDIが議決権を50%ずつ持つ形に変わった。
事業そのものは同じコンビニである。変わったのは、誰と、どういう比率で持つか。商社の新規事業とは、こういうものなのかもしれない。
未確認事業年表
- 2016.09ローソンの子会社化を発表約1,440億円。持分法適用会社から出資比率50.1%の連結子会社へいま続いている
- 2018.10ローソン銀行 業務開始店舗ATM網を土台にした銀行。決済のプラットフォーム化を狙ういま続いている
- 2019.09MC Digital 設立AI・データ技術で新サービスを作るテクノロジー子会社。資本金1億円いま続いている
- 2020.03Eneco 買収完了オランダの総合エネルギー会社。約41億ユーロ、三菱商事80%・中部電力20%いま続いている
- 2021.03Industry One 設立NTTと組んだ産業DXの新会社。三菱商事51%・NTT 49%いま続いている
- 2021.12洋上風力3海域の事業者に選定能代・三種・男鹿沖、由利本荘沖、銚子沖。第1ラウンドで3海域次へ渡した
- 2023.04波方ターミナル アンモニア協議会 設置既存LPGタンクを転換し、国内の受入ハブをつくる枠組みいま続いている
- 2023.06Eneco Diamond Hydrogen 設立欧州グリーン水素の製造・販売の新会社いま続いている
- 2024.02ローソンのKDDIとの共同経営を発表KDDIの買付総額約4,971億円。議決権を50%ずつ持つ形へいま続いている
- 2024.02米レイクチャールズ クリーンアンモニア出光興産・Promanと。年産約120万トン、2030年度までの生産開始を目指すいま続いている
- 2024.09ExxonMobil Baytown 水素・アンモニア年産クリーン水素約90万トン、アンモニア100万トン超の拠点に参画検討いま続いている
- 2025.05MCグローバルイノベーション 設立専門のCVC運営会社。全社で計1,000億円規模の投資を想定いま続いている
- 2025.08洋上風力3海域の開発取り止めを公表資材高・インフレ・為替・金利上昇を理由に、事業計画の策定が困難と説明次へ渡した
同じ会社を、8年のあいだに2回も持ち替えている。私はこれを見たとき、商社という業態の面白さを思い知りました。
事業会社にいると、新規事業は「ゼロから作るもの」だと無意識に思ってしまいます。でも三菱商事の記録を読むと、そうではない選択肢がずっと具体的に見えてきます。
買う。半分渡す。連合を組む。そして、持ち方そのものを作り替える。誰と、どの比率で持つか。それ自体が打ち手になるのだということです。
技術は自社で、事業は合弁で
DXまわりの動きにも、はっきりした順序がある。
2019年9月、三菱商事は自社100%のMC Digitalを設立した。資本金1億円の小さな会社である。ここでAIとデータの技術を内製化した。
その1年半後の2021年3月、NTTと組んでIndustry Oneを設立する。資本金9億円、三菱商事51%・NTT49%。食品流通の在庫最適化から着手した。
まず自分たちだけで技術を持ち、そのうえで外と組んで事業にする。いきなり大手と合弁を組むのではなく、自社に技術者を抱えるところから始めた順序は、覚えておく価値があると思う。
出資比率がおおむね20〜50%だと持分法適用会社、50%超だと子会社になります。子会社になると売上や費用がまるごと自社の決算に合算されるため、見える景色が大きく変わります。ローソンが2016年に持分法から子会社へ移ったのは、この境界を越えたということです。
DXやAIの新規事業を立ち上げるなら、「まず自社100%の小さな会社で技術者を抱えてから、外と組む」という順序を検討してみてください。
三菱商事は2019年に資本金1億円のMC Digitalを自社100%で作り、その1年半後にNTTと組んでIndustry Oneを設立しています。
いきなり大手と合弁を組むと、技術も人も相手側に寄ります。詳しいほうが主導権を持つからです。この順序を踏んだかどうかは、3年後の合弁会社の中身にはっきり出ます。
洋上風力3海域について
2021年12月、三菱商事を中心とする企業連合が、国内洋上風力の第1ラウンドで3海域すべての事業者に選ばれた。
そして2025年8月27日、この3海域の開発を取り止めることが公表された。理由として挙げられたのは、資材価格の上昇、インフレ、為替、金利上昇であり、「実行可能な事業計画の策定が困難」という説明だった。
この件は制度の議論にも接続していて、資源エネルギー庁の審議会でも取り上げられている。損失については「過年度に大部分を計上済みで、追加は限定的」とされ、具体額は公表されていない。
4年前に3海域を取り、4年後に事業計画を見直した。その間に世界の資材価格と金利が動いた。長期のインフラ事業が、外部環境で書き換わることの記録として残しておきたい。
エネルギーは、単独では組まない
三菱商事のエネルギー新領域を並べると、単独出資の案件がほとんど出てこない。
2020年のEneco買収(約41億ユーロ、約5,000億円)も三菱商事80%・中部電力20%の共同。クリーンアンモニアは出光興産、Proman、ExxonMobilと組み、国内の受入拠点である波方ターミナルも複数社の協議会でつくっている。
アンモニアや水素は、作るところから運ぶところ、受け入れるところまで揃わないと商売にならない。1社でその全部を持つのは無理だから、最初から連合で設計している。
CVCは後発だった
専門のCVC運営会社であるMCグローバルイノベーションが設立されたのは、2025年5月である。
トヨタが2017年、パナソニックがBeeEdgeで2018年、ソニーが2016年。事業会社のCVCとしては、かなり後発になる。
ただし規模は小さくない。全社で計1,000億円規模の投資を想定しているとされる。遅れて入るぶん、大きく張る。商社らしいといえば商社らしい。
担当者の視点で見ると
商社の記録は業種が特殊に見えるが、順序の話はどの業種でも使える。
いちばん実務的なのはDXの立ち上げ方だと思う。三菱商事は2019年9月に、自社100%・資本金1億円のMC Digitalを作った。小さい会社である。ここでAIとデータの技術を内製化し、その1年半後の2021年3月に、NTTと組んでIndustry One(三菱商事51%・NTT49%)を設立した。
いきなり大手と合弁を組むと、技術も人も相手側に寄る。意思決定の速さでも、詳しいほうが主導権を持つ。まず自社に技術者を抱えて、そのうえで外と組む。この順序を踏んだかどうかは、3年後の合弁会社の中身に出てくる。
もうひとつ、事業の形が「連鎖」になっている領域では、単独で始めること自体が設計ミスになる。アンモニアや水素は、作るところ・運ぶところ・受け入れるところが揃わないと商売として成立しない。だからEneco買収も中部電力と80対20で組み、波方ターミナルも複数社の協議会でつくっている。自分の企画が連鎖型かどうかは、着手前に判別できる。