伊藤忠商事の年表を並べると、同じ会社の名前が何度も出てくる。
デサント、ほけんの窓口、ファミリーマート、大建工業、アイチコーポレーション。一度出資した相手の持ち分を、何年もかけて上げている。買って終わり、ではない。
いちばん長いのがデサントで、2009年12月から2025年1月まで、15年1か月かかっている。
24.6%から始めて、15年かけて全部買った
1回目は2009年12月21日。伊藤忠商事はデサント株式を116万8千株追加取得し、保有は1,890万5千株になった。発行済株式の24.6%、総議決権の25.2%である。発表資料には、海外戦略の推進や物流・生産のバックアップなど、強固なパートナーシップを構築するためと書かれている。
2回目は2019年1月31日。1株2,800円で最大721万株を買う公開買付けを発表した。出資比率は30.44%から最大40.00%へ。買付代金は201億8,800万円。買付期間は2019年1月31日から3月14日までの30営業日だった。
3回目は2024年10月。1株4,350円の公開買付けに3,134万1,290株の応募があり、買付け後の株券等所有割合は85.92%になった。買付前は44.44%である。
そして2025年1月24日、デサントは上場廃止になった。最終売買日は1月23日、株式併合の効力発生日は1月28日。1株に併合された比率は1,199万8,587株に1株だった。
「この価格で、この期間に、これだけ買います」と公表して、市場の外でまとめて株を買い集めること。価格と株数と期間が必ず公表されるので、その会社をどれくらいの値打ちと見たかが、数字で残ります。
24.6%(2009年)、40.00%(2019年)、85.92%(2024年)、そして上場廃止(2025年)。15年1か月を4回に分けている
事業稼働チャート
段階を踏んだのは、デサントだけではない
同じ形が、ほかにもある。
ほけんの窓口グループ。2014年7月に発行済株式の24.2%を取得して持分法適用会社にした。当時は全国約500店舗である。5年後の2019年10月、追加取得で出資比率を57.7%へ上げて連結子会社にした。このときは全国約740店舗、42社257商品を扱い、契約件数は224万件になっていた。
ファミリーマート。2018年4月にユニー・ファミリーマートホールディングスへ1株11,000円で公開買付けを実施し、1,093万9,800株を取得して出資比率を41.45%から50.10%へ。買付総額は約1,203億円。2年後の2020年7月、今度はファミリーマートへ1株2,300円の公開買付けを行い、約2億5,256万株を約5,800億円で取得した。同年11月に上場を廃止している。
大建工業。2023年8月、1株3,000円の公開買付けで出資比率36.34%から完全子会社化し、上場を廃止した。買付額は約249億円である。
アイチコーポレーション。2025年5月の資本業務提携に続いて、2026年4月に株式を追加取得した。2029年度に海外売上比率20%、売上高150億円を目指すと公表している。
どの会社も、最初から全部を買っていない。まず2割から4割を持ち、何年か一緒にやってから、次の段を上がっている。
未確認事業年表
- 2009.12デサント株式を追加取得116万8千株を追加取得し持株比率24.6%へ。スポーツアパレル事業での連携を強化した継続中
- 2011.06コロンビアのDrummond炭鉱に出資米Drummond社の炭鉱・鉄道・港湾権益に20%出資。投資額は約15億2,350万ドル。脱炭素方針により2021年に権益を譲渡した役目を終えた
- 2012.12米Doleのアジア青果物・加工食品事業を買収16億8,500万ドル(約1,350億円)で取得。アジアのバナナ販売シェアは25%、パイナップルは42%継続中
- 2014.07ほけんの窓口グループへ出資発行済株式の24.2%を取得し持分法適用会社化。全国約500店舗を展開する来店型保険ショップ最大手との資本提携継続中
- 2015.01CITIC・CPグループとの戦略的業務・資本提携タイCPグループと折半で中国CITICへ約1兆2,000億円を共同出資。中国・アジアでの3社連携の枠組みを構築した継続中
- 2017.05ヤナセをTOBで子会社化1株540円で公開買付けを実施し連結子会社化。輸入車ディーラー最大手を取り込みアフターセールス事業を広げた継続中
- 2018.04ユニー・ファミリーマートHDへのTOB1株11,000円で1,093万9,800株を取得し出資比率を41.45%から50.10%へ。買付総額は約1,203億円継続中
- 2019.01デサントへの公開買付け1株2,800円で最大721万株を取得し出資比率を30.44%から40.00%へ。買付総額は約201億8,800万円継続中
- 2019.02中古スマホのBelongを設立100%子会社として設立。2020年8月にECサイト「にこスマ」を開設し携帯端末のオンライン流通事業へ参入した継続中
- 2019.10ほけんの窓口グループを連結子会社化追加取得で出資比率57.7%へ。全国約740店舗で42社257商品を扱い、契約件数は224万件継続中
- 2020.05伊藤忠テクノロジーベンチャーズ5号ファンドを設立ファンド規模100億円のうち伊藤忠商事が20億円を出資。アーリーステージのスタートアップ投資を担う継続中
- 2020.07ファミリーマートを完全子会社化1株2,300円のTOBで約2億5,256万株を取得。買付総額は約5,800億円。同年11月に上場を廃止した継続中
- 2021.08ファミマ店頭のメディア事業で新会社を設立資本金9億9,000万円、ファミリーマート70%・伊藤忠30%の出資。2022年春までに3,000店へデジタルサイネージを設置継続中
- 2022.08蓄電池メーカーのパワーエックスへ出資シリーズAの第三者割当増資を引受。伊藤忠は蓄電池システムを累計500MWh超販売した実績を持つ継続中
- 2023.01資源循環のecommitへ出資2022年3月の業務提携に続く出資。衣料品回収サービスを共同展開し繊維の循環網を構築する継続中
- 2023.02伊藤忠サイバー&インテリジェンスを設立100%子会社として設立。国内外約200社のグループ会社へサイバーセキュリティ支援と人材育成を提供する継続中
- 2023.03国産混合SAFのサプライチェーンを構築フィンランドNeste社からニートSAFを輸入し富士石油と国内で混合。羽田・成田・中部の3空港で供給を開始した継続中
- 2023.05オリエンタル白石と資本業務提携第三者割当増資で1,631万964株を引き受け議決権12%の筆頭株主に。国内70万超の橋梁の更新需要を取り込む継続中
- 2023.07北米で再生可能エネルギーファンドを設立Overland Capital Partners, L.P.を組成。ファンド規模は約20億ドル継続中
- 2023.08大建工業へのTOBを実施1株3,000円で公開買付け。出資比率36.34%から完全子会社化し上場廃止。買付額は約249億円継続中
- 2024.03アニメ事業へ参入スカパーJSATの事業分割で発足したスカパー・ピクチャーズへ出資。資本金等は20億円継続中
- 2024.05ビッグモーターの事業を承継する新会社WECARSを発足伊藤忠商事、伊藤忠エネクス、J-WILLパートナーズの共同出資で設立。全国約240店舗を運営する継続中
- 2024.09デサントを完全子会社化するTOBを開始1株4,350円で全株取得を目指す。BSインベストメントの保有比率は44.44%継続中
- 2024.09日本初の系統用蓄電池専業ファンドを運営開始東京都蓄電所投資事業有限責任組合を組成し11者から80億円超を調達。英Gore Street Capitalとの合弁が運営継続中
- 2024.10米メイプロ社へ出資健康食品素材の開発から製造・販売までを手掛ける同社の25%を子会社経由で取得し持分法適用会社化した継続中
- 2025.01NEON Group Limitedと資本業務提携没入体験型エキシビションを世界80都市超で展開し累計来場者は1,600万人継続中
- 2025.03伊藤忠テクノロジーベンチャーズ6号ファンドを組成ファンド規模161億円で過去最大。伊藤忠商事は25億円を出資。AI・ヘルスケア・脱炭素・宇宙分野へ投資継続中
- 2025.04タイCPグループとの相互出資を解消2014年から10年超続いた資本関係を解消した。CITICを含む3社の戦略的業務提携の枠組みは継続する役目を終えた
- 2025.08プレミアグループと資本業務提携債権残高8,000億円超のオートローン大手と提携。2025年2月にタイEastern Commercial Leasing株を共同取得済み継続中
- 2025.09セブン銀行と資本業務提携1株268円で1億9,170万株を513億7,560万円で取得し議決権16.35%へ。20%まで買い増し持分法適用会社化する継続中
- 2025.10IPコンテンツ中核会社アイライツポートを設立100%子会社として設立。スカパー・ピクチャーズの持分を17%から49%へ引き上げ持分法適用会社化した継続中
- 2026.03IT機器の循環型ビジネスを構築米ERI社へ一部出資し2026年4月に合弁ERI Japanを設立予定。世界のITAD市場は2024年で約184億ドル継続中
- 2026.04アイチコーポレーション株式を追加取得2025年5月の資本業務提携に続く追加取得。2029年度に海外売上比率20%、売上高150億円を目指す継続中
- 2026.08米Aviation Capital Groupの共同経営に参画航空機リース大手の共同経営へ参画。保有・管理する機材規模は500機超とされる継続中
- 2026.08電通総研へTOBを実施し資本業務提携1株2,880円で公開買付けを実施し、最大2,152億円で出資比率を最大38.22%へ。買付開始は2026年11月上旬を目途とする。ITサービス領域ではCTCと業務提携契約を結んだ継続中
- 2026.09JR東日本と不動産新会社を設立へ9月17日発表。「JR東日本伊藤忠不動産開発」を10月1日に発足。資本金106億98百万円、JR東日本60%・伊藤忠商事40%継続中
7回のTOBで、いくら払ったか
年表の中で公開買付けは7回ある。ヤナセ(2017年)、ユニー・ファミリーマートHD(2018年)、デサント(2019年)、ファミリーマート(2020年)、大建工業(2023年)、デサント(2024年)、電通総研(2026年)。
公表されている買付総額を並べると、大建工業の約249億円から、ファミリーマートの約5,800億円まである。デサントの2019年は201億8,800万円、ユニー・ファミリーマートHDの2018年は約1,203億円だった。
いちばん新しいのが2026年8月31日の電通総研。1株2,880円で公開買付けを実施し、買付予定総額は最大2,152億円、取得後の出資比率は最大38.22%になると発表した。買付開始は2026年11月上旬を目途としている。あわせて、ITサービス領域で電通総研と伊藤忠テクノソリューションズが業務提携契約を結んでいる。
ここまでの3つを、ひとつにまとめると
出資比率38.22%というのは、デサントでいえば2019年の40.00%とほぼ同じ高さです。いまは1段目、ということかもしれません。この会社の年表を見るかぎり、1段目で終わった例のほうが少ないからです。
挑戦する人の視点で見ると
伊藤忠商事の36件から持ち帰れるものは、「最初の比率は、最後の比率ではない」ということだと思う。
2009年にデサントの24.6%を持ったとき、15年後に全部買うところまでは決まっていない。けれど、24.6%を持っていなければ、そのあとの3回はどれも始まらなかった。
出資を受ける側から見ると、これは怖い話にも、心強い話にもなる。24.2%で入ってきた相手が5年後に57.7%になることもあれば、10年続いた相互出資が解消されることもある。2025年4月、タイCPグループとの相互出資は解消された。ただし、CITICを含む3社の戦略的業務提携の枠組みは続いている。資本が離れても、仕事が続く形もある。
だから、話をするときに聞くべきなのは「何%ですか」だけではないと思う。次に何が起きたら、比率が動くのか。そこまで話しておけると、5年後に驚かずに済む。