6年前に出資した相手へ、自分で買った会社の60%を渡した
三井物産の37件を並べていて、いちばん形がはっきり出たのは動物のクスリだった。6年で3回お金を入れ、最後にひとつへつないでいる。
1回目は2020年2月。売上高世界第5位の動物用医薬品企業、フランスのCeva Santé Animaleへ出資参画した。同社は110カ国超で事業を展開している。
2回目は2022年9月。ブラジル4位のOuro Fino Saúde Animalの株式29.44%を取得した。
3回目は2022年12月。住友ファーマアニマルヘルスの全株式100%を取得した。日本の動物用医薬品市場で75年の歴史を持つ会社である。
そして2026年5月8日。その日本の会社(BAH)の保有株式60%を、6年前に出資したCevaへ譲渡し、合弁のセバ物産アニマルヘルスにすると発表した。発表資料には、Cevaの2025年の売上高は19.2億ユーロと書かれている。
相手の会社の株を一部だけ持って、仲間に入ることです。過半を取って子会社にするのとちがい、経営は相手が続けます。まず少し持って様子を見る、という入り方で、そのあと増やすことも、逆に自分の持ち物を相手へ預けることもあります。
買った会社を、そのまま抱え続けてはいない。いちばん詳しい相手に、過半を預けているという形である。
事業稼働チャート
37件を並べて、はじめに思ったのはここでした。
2020年に少し出資した相手が、2026年には自分の会社を任せる相手になっています。
出資は、その場かぎりの取引ではないということだと思いました。1回目に渡した数%が、6年後の話し合いの入口になっている。組む側から見ると、ここは読みどころです。
持ち分は、上げるときも下げるときもある
この会社の記録でおもしろいのは、持ち分を毎回動かしていることだ。
上げた例。チリの車両管理事業Mitta社は、2021年に60%出資したあと、2025年6月に残る全株式を取得して100%にした。約2万7,000台の車両と約1,100名の従業員を擁する会社である。欧州のタンクターミナルITC Rubis社も、2025年4月に残り50%を約1億3,500万ユーロ(約219億円)で買って100%にしている。
下げた例。陸上養殖のFRDジャパンは、2017年4月に9億円を出資して株式80%を取得した。ところが2023年7月、総額210億円の増資のうち78.5億円を引き受けた結果、持分は希薄化後50.4%になっている。金額は足しているのに、比率は下がっている。
追加でお金を入れても、比率が下がることがあります。
FRDジャパンの例では、三井物産は78.5億円を追加で出しました。それでも他の投資家も入る総額210億円の増資だったため、80%から50.4%へ下がっています。
自分の会社に大手が追加出資してくれるとき、「いくら入るか」と「比率がどう動くか」は別の話です。両方を同じ紙に書いて確かめてください。
案件の金額は、84億円から3,000億円まである
商社の記録を読むとき、金額の幅を知っておくと景色が変わる。
いちばん小さいところでは、2016年3月のメルカリへの出資参画が約84億円。第三者割当増資を引き受けてリード投資家として参画し、取締役1名を派遣した。総合商社として初のシェアリングエコノミー投資である。2017年12月のPreferred Networksへの出資は約5億円だった。
中くらいのところでは、2023年4月にルクセンブルクのAlvotech社の転換社債を6,275万ドル(約86億円)で取得、2024年1月に量子コンピュータのQuantinuumへ5,000万ドル(約72億円)で参画している。
大きいところでは、2018年11月にIHH Healthcareの株式16%を約2,300億円で追加取得して持分32.9%の筆頭株主に。2025年3月には西豪州ローズリッジ鉄鉱石事業の持分15%を、印紙税込み20億300万ドル(約3,000億円)で取得する譲渡契約を締結した。
約5億円から約3,000億円まで。同じ会社が、同じ年表の中で600倍の幅を使い分けている
未確認事業年表
- 2016.03メルカリへ出資参画第三者割当増資を約84億円で引き受けリード投資家として参画。取締役1名を派遣し、総合商社初のシェアリングエコノミー投資となった継続中
- 2016.03不動産アセットマネジメント統括会社を設立三井物産アセットマネジメント・ホールディングスを100%出資で設立。2020年までに2,000億〜3,000億円規模の投資を計画した継続中
- 2017.04サーモンの陸上養殖事業に参画閉鎖循環式陸上養殖のFRDジャパンに9億円を出資し株式80%を取得。年産1,500トン規模の商業化を目指す体制を整えた継続中
- 2017.12Preferred Networksに出資ディープラーニング事業のPreferred Networksへ約5億円を出資。2012年以降の社内イノベーション推進案件としては16件目継続中
- 2018.02初の私募REITの運用を開始三井物産プライベート投資法人の運用を開始。5物件、資産規模約320億円で始動し、機関投資家向け私募REIT事業に参入した継続中
- 2018.06ダイナミックプラスを設立ヤフー、ぴあと需要連動型価格設定の合弁会社を設立。出資比率は三井物産62.6%、ヤフー34.0%、ぴあ3.4%継続中
- 2018.11IHH Healthcare株式を追加取得アジア最大手の民間病院グループの株式16%を約2,300億円で追加取得し、持分32.9%の筆頭株主に。9カ国50病院・1万2千床超継続中
- 2019.06モザンビークLNGの最終投資決断ロブマ沖合エリア1のLNG事業で持分20%を保有し最終投資決断を実行。年産1,200万トン規模の大型案件継続中
- 2019.06Arctic LNG2へ参画ロシア・ヤマル半島のLNG事業に持分10%で参画する持分売買契約を締結。年産1,980万トン規模継続中
- 2020.02仏Ceva Santé Animaleへ出資参画世界5位のアニマルヘルス企業へ出資参画。同社は110カ国超で事業を展開し、3兆円超規模の動物用医薬品市場を取り込む継続中
- 2020.03総合メディカルHD株式を譲渡MBOに伴う公開買付けに応募し2020年3月に保有持分を譲渡。税引後で約90億円の売却益を計上した役目を終えた
- 2021.04モアティーズ炭鉱・ナカラ回廊権益を譲渡モザンビークの炭鉱と鉄道・港湾事業の持分全量をValeへ譲渡する契約を締結。2021年内の完了を予定した役目を終えた
- 2021.08日鉄物産と繊維事業を統合三井物産アイ・ファッションが日鉄物産の繊維事業を吸収分割で承継し、出資比率は50%ずつ。2022年1月に統合した継続中
- 2022.05豪Climate Friendlyへ出資森林再生によるカーボンクレジット創出を手がける豪企業の株式33.7%を取得。豪州最大級のクレジット開発事業者への参画継続中
- 2022.07日米間海底ケーブル会社を設立NTTグループ、JA三井リースとSeren JUNO Networkを設立。出資比率37.5%で、約350Tbps・全長約1万kmを敷設する継続中
- 2022.09ブラジルOuro Finoへ出資ブラジル4位のアニマルヘルス企業の株式29.44%を取得。年約10%成長のブラジル動物薬市場を取り込む継続中
- 2022.12住友ファーマアニマルヘルスを取得動物用医薬品を手がける同社の全株式100%を取得。4兆円超・年約4%成長の世界アニマルヘルス市場での基盤を広げた継続中
- 2023.01りらいあとKDDIエボルバを経営統合公開買付けを通じて2社を経営統合。統合後の議決権比率はKDDI51.0%、三井物産49.0%継続中
- 2023.04Alvotechの転換社債を取得バイオシミラーを開発するルクセンブルクのAlvotech社の転換社債を6,275万ドル(約86億円)で取得。同社は90カ国超で展開継続中
- 2023.07デンマークでe-メタノール事業欧州エナジー社と組み、商業規模で世界初のe-メタノール製造事業へ49%出資。太陽光304MWを活用し年産最大4.2万トンを計画継続中
- 2023.07FRDジャパンへ追加出資総額210億円の増資のうち78.5億円を引き受け、持分は希薄化後50.4%に。年産3,500トン規模の商業プラントを千葉県富津市に建設継続中
- 2023.12インドPinnacle Mobilityへ出資EKAブランドで電動バス等を製造するインド企業へ蘭VDL社と共同出資。同社は電動バス387台を受注し従業員は220名継続中
- 2024.01Quantinuumへ出資量子コンピュータ大手の総額3億ドルの増資に5,000万ドル(約72億円)で参画。日本・アジア太平洋での販売代理店契約も締結継続中
- 2024.04米トラックオークション事業に参入米ネブラスカ州のTaylor & Martin社の全持分100%を取得。1935年設立・従業員約80名継続中
- 2024.06インドの金属リサイクル事業へ出資スクラップ回収・加工を手がけるインドMTC社へ出資参画し持分法適用会社化。同社は国内30カ所超のヤードを運営継続中
- 2024.10外食向け物流事業会社3社を取得米HAVIグループから日本・台湾の外食向け物流事業会社3社の全持分100%を取得することで合意した継続中
- 2025.03豪ローズリッジ鉄鉱石権益を取得西豪州の鉄鉱石事業の持分15%を、印紙税込み20億300万ドル(約3,000億円)で取得する譲渡契約を締結した継続中
- 2025.04低炭素アンモニアに最終投資決断米ルイジアナ州Blue Point事業へ25%出資。年産約140万トン、総事業費約40億ドルのうち約10億ドルを2029年まで順次投資する継続中
- 2025.04欧州タンクターミナルを完全子会社化ITC Rubis社の残り50%を約1億3,500万ユーロ(約219億円)で追加取得し100%子会社化。貯蔵能力は約30万立方メートル継続中
- 2025.06チリの車両管理事業を完全子会社化2021年に60%出資したMitta社の残る全株式を取得し100%子会社化。約2万7,000台の車両と約1,100名の従業員を擁する継続中
- 2025.07英ニグ港湾・鋼材加工事業を取得スコットランドのGEG社を取得。持株会社への出資比率は三井物産51%、商船三井系49%継続中
- 2026.01オマーンの油ガス田権益を譲渡陸上鉱区Block 3&4の20%とBlock 9の5%の権益を英Kistos社へ1億4,800万ドル(約232億円)で譲渡。2026年3月の完了を予定役目を終えた
- 2026.05セバ物産アニマルヘルスを設立アニマルヘルス子会社BAHの持分60%を仏Cevaへ譲渡し合弁会社化。Cevaの2025年売上高は19.2億ユーロで世界5位継続中
- 2026.05曽田香料株式を譲渡東レと共同で保有株式を韓国サムヤン系へ譲渡。三井物産の持分は34%、企業価値は410億円で、2026年7月に譲渡を完了した役目を終えた
- 2026.07Penske Automotiveの非公開化を提案Penske社と共同で浮動株約1,820万株を1株210ドル・総額約38億ドルで取得する非拘束提案を提出。三井物産の持分は約20.3%継続中
- 2026.08デンマークのe-メタノール、販売先を拡大8月20日に発表。合弁の子会社が手がける世界初のe-メタノール製造・販売で、レゴ社やノボノルディスク社への出荷など販売先と用途を広げた継続中
- 2026.09ニュートリノバを連結子会社化オランダの食品素材会社へ追加出資し、持分比率が89%に。高甘味度甘味料と保存料を手がける会社で、持分法適用会社から連結子会社へ移った継続中
この記事でいちばん実用的だと思ったのは、金額の幅でした。
Preferred Networksへの約5億円と、鉄鉱石の約3,000億円が、同じ会社の同じ年表に並んでいます。
商社に話を持っていくとき、「うちは小さいから相手にされない」と思う必要はないのだと思いました。5億円の枠も、84億円の枠も、実際に使われています。
挑戦する人の視点で見ると
三井物産の37件から持ち帰れるものは、「出資は、その回だけの話ではない」ということだと思う。
2020年にCevaへ出資参画したときは、たぶん6年後に自分の会社の60%を預けることまでは決まっていない。けれど、そのときの出資が、6年後に話ができる相手をつくっている。最初に渡した数%は、関係の入口である。
もうひとつは比率の動き方だ。60%から100%へ、50%から100%へ、80%から50.4%へ、100%から40%へ。この会社に「いつもの比率」はない。だから交渉のとき、相手の過去の比率を並べて「御社はいつも何%ですか」と聞いても、答えは出てこない。聞くべきは、この案件でどちらが何を決めるかのほうだと思う。
最後に、時間の話。2016年3月のメルカリ出資から2026年9月のニュートリノバ連結子会社化まで10年6か月ある。その間に陸上養殖、量子コンピュータ、海底ケーブル、e-メタノール、動物のクスリまで届いている。商社の新規事業は「何を作るか」より「どう持つか」の話だと思って眺めると、少し違って見えると思う。