旭化成の年表35件を、中身で分けてみた。
ヘルスケア13件、住宅8件、素材とエレクトロニクス9件、次へ渡すことと統合5件。
目を引いたのは、医薬の3件の金額だった。約1,432億円、約1,739億円、約1,431億円。2019年・2024年・2026年と、同じくらいの規模の買収を重ねている。
医薬で3回、同じくらいの規模の買収を重ねた
2019年11月、米国のVeloxis Pharmaceuticalsを買うと決めた。デンマークの上場会社に公開買付けをかけ、総額は約89億デンマーククローネ(約1,432億円)。2020年3月3日に100%子会社になった。発表では、米国の医薬品市場の事業基盤を得ると書いている。
2024年5月、スウェーデンのCalliditas Therapeuticsを買うと発表した。総額は約118億スウェーデンクローナ(約1,739億円)、1株あたり208スウェーデンクローナ。7月18日に公開買付けを始め、9月に子会社になった。
2026年2月、ドイツのAicuris Anti-infective Curesを買うと発表した。取得価額は約780百万ユーロ(約1,431億円)。4月に買収を完了した。
3つの国の、3つの通貨の買収だが、円に直すとどれも1,400億円台から1,700億円台におさまる。一度に大きく賭けるのではなく、同じくらいの大きさの一歩を、間をあけて3回踏んでいる。
上場している会社の株を、期間・価格・株数を公表して、市場の外でまとめて買い集める方法です。Veloxis と Calliditas はこの方法で買っています。
事業稼働チャート
2026年9月、3つの会社を一つの名前にした
2026年9月30日、米国のVeloxisとスウェーデンのCalliditasの社名を「Asahi Kasei Therapeutics」に変えると発表した。日本では4月1日に旭化成ファーマが「旭化成セラピューティクス」へ社名を変えており、日本・米国・欧州の主な医薬の拠点が、同じ名前で動く形になる。4月に買ったAicurisは、2027年以降に社名を変える予定だ。
同じ発表で、2030年度に医薬事業の売上高3,000億円を目指すこと、2025〜2027年度の3年間で約400億円のライセンス導入費用を計画していることも書いている。
買った会社の名前をすぐには変えず、3社目を買い終えたあとで一つにまとめる。買う順番と、束ねる時期を分けているのが、この年表の特徴だ。
医療機器とバイオプロセスでも、小さな買収を続けた
医薬のほかに、ヘルスケアには2つの流れがある。1つは米国の医療機器子会社ZOLL Medicalの買収4件だ。2015年のイスラエルKyma(約35百万米ドル)、2019年の米Cardiac Science、2021年の米Respicardia、そして2021年のイスラエルItamar(総額約538百万米ドル、約592億円)。
もう1つは、ウイルス除去フィルター「プラノバ」の周りの3件だ。2019年にオーストリアのViruSure、2021年に米国のBionique、2022年に米国のBionova Scientificを買い、製薬会社向けの試験や製造の受託へ広げた。
2024年10月にはDiveRadGel、2025年5月にはHers HeAlth Technologiesと、社内から生まれたヘルスケアのベンチャーも2社立ち上げている。
医薬で3回、医療機器で4回、バイオプロセスで3回。ヘルスケアの13件は、大きさの違う買収を、それぞれの流れで重ねた記録になっている
旭化成の新規事業 年表
- 2015.08米Polyporeを買収しセパレータを強化電池用セパレータを手がける米Polypore Internationalの買収を完了し、100%子会社にした。医療・工業用膜の事業は買収の直前に3Mへ渡され、旭化成はバッテリーセパレータの会社として受け入れた。継続中
- 2015.09ZOLLがイスラエルKymaを買収米国の医療機器子会社ZOLL Medicalが、肺の水分量の変化を高周波で測る技術を持つイスラエルのKyma Medical Technologiesを約35百万米ドルで買収する契約を結んだ。継続中
- 2018.02スウェーデンSenseairの株式を取得旭化成エレクトロニクスが、CO2などを測るNDIR方式ガスセンサモジュールのSenseairの株式を取得する契約を結んだ。2016年から共同開発してきた相手で、90%超の取得で子会社になる。継続中
- 2018.07米Sageを約700百万米ドルで買収自動車のシートファブリックで世界首位のシェアを持つ米Sage Automotive Interiorsを、現金約700百万米ドル(約791億円)で買収すると決めた。9月27日に100%子会社となった。継続中
- 2018.11米Ericksonを買収し北米住宅へ旭化成ホームズが、戸建住宅の壁や屋根をパネルにして供給する米アリゾナ州のErickson Framing Operationsを買収する契約を結んだ。年間3,000棟相当以上を供給する会社。継続中
- 2019.06ZOLLが米Cardiac Scienceを買収ZOLL Medicalが、AED(自動体外式除細動器)の「Powerheart」を持つ米Cardiac Scienceを買収する契約を結んだ。AEDの品ぞろえと管理システムを広げる。継続中
- 2019.10オーストリアViruSureを買収旭化成メディカルが、製薬会社向けにウイルス安全性の試験を受託するオーストリアのViruSureを買収した。ウイルス除去フィルター「プラノバ」の周りに事業を広げる。継続中
- 2019.11米Veloxisを約1,432億円で買収へ米国の製薬会社Veloxis Pharmaceuticalsを、公開買付けで総額約89億デンマーククローネ(約1,432億円)で買収すると決めた。2020年3月3日に100%子会社となった。継続中
- 2020.03SageがAdientの内装ファブリック事業を買収子会社のSageが、欧州を中心とする米Adientの自動車内装ファブリック事業を175百万米ドル(約188億円)で買収する契約を結んだ。継続中
- 2020.09米Austinの工事会社3社を買収旭化成ホームズが、米アリゾナ州で住宅の電気・基礎・空調の工事を行うAustinの3社の持分100%を取得した。2018年のEricksonと組み合わせる。継続中
- 2021.04ZOLLが米Respicardiaを買収ZOLL Medicalが、中枢性睡眠時無呼吸症向けの植え込み型神経刺激デバイス「remedē System」を持つ米Respicardiaを買収した。継続中
- 2021.04豪McDonald Jonesを子会社化へ旭化成ホームズが40%を持つ豪州の戸建住宅会社McDonald Jones Homesの株式を追加で取得し、持分80%の子会社にする契約を結んだ。2017年7月からの資本提携を深めた。継続中
- 2021.09ZOLLがItamarを約538百万米ドルで買収へZOLL Medicalが、睡眠時無呼吸症の診断機器を手がけるイスラエルのItamar Medicalの全株式を、総額約538百万米ドル(約592億円)で取得する最終合意を結んだ。継続中
- 2021.09中国で乾式セパレータの合弁を設立子会社のPolyporeが、中国の上海恩捷(SEMCORP)とリチウムイオン電池用の乾式セパレータの合弁会社を設立した。出資はSEMCORP51%・Polypore49%。継続中
- 2021.11米Brewerの配管工事会社を買収旭化成ホームズが、米アリゾナ州で住宅などの配管工事を行うBrewerの5社の持分100%を取得した。Erickson・Austinに続く北米の施工会社の買収。継続中
- 2021.12米Bioniqueを買収し試験受託を米国へ旭化成メディカルが、マイコプラズマ試験の受託サービスを行う米ニューヨーク州のBionique Testing Laboratoriesを買収した。米国でのバイオセーフティ事業の拠点にする。継続中
- 2022.04米Bionova Scientificを買収へ旭化成メディカルが、抗体医薬品の製造プロセス開発とGMP製造を受託する米Bionova Scientificを買収する契約を結んだ。2019年のViruSure、2021年のBioniqueに続く3件目。継続中
- 2022.05社内ベンチャーのコネプラを設立旭化成と旭化成ホームズが、社内ベンチャーから生まれた株式会社コネプラを設立した。マンションのコミュニティづくりや運営の支援、アプリ開発を手がける。継続中
- 2022.11米Focusの施工会社5社を買収旭化成ホームズが、米ネバダ州で配管・躯体・電気・基礎などの工事を行うFocusの5社の持分100%を取得した。従業員数は1,518名。継続中
- 2023.02豪Ardenを買収しビクトリア州へ旭化成ホームズが、豪州子会社NXT Building Group(旧McDonald Jones)を通じて、ビクトリア州の戸建住宅会社Arden Homesの株式100%を取得した。継続中
- 2023.10旭化成パックスの事業を次へ渡す100%子会社の旭化成パックスの容器事業をアァルピィ東プラへ譲渡し、フィルム事業は会社分割して住友ベークライトに株式の90%を渡す契約を結んだ。旭化成パックスは清算を決めた。役目を終えた
- 2024.05スウェーデンCalliditasを約1,739億円で買収へスウェーデンの製薬企業Calliditas Therapeuticsを、公開買付けで総額約118億スウェーデンクローナ(約1,739億円)で買収すると発表した。9月に子会社となった。継続中
- 2024.09米ODC Constructionを買収旭化成ホームズが、米フロリダ州で住宅の躯体・基礎工事を請け負うODC Constructionの持分100%を取得した。北米の施工会社の買収は5件目。継続中
- 2024.09診断薬事業を長瀬産業へ旭化成ファーマが、診断薬事業と大仁医薬工場・大仁統括センターを長瀬産業へ譲渡する最終契約を結んだ。従業員の雇用は長瀬産業傘下の新会社で続く。役目を終えた
- 2024.10スピンアウトのDiveRadGelを設立旭化成発のスピンアウトベンチャーDiveRadGelを設立した。DDS基剤「ソナノス」を使ったがんワクチン事業を担い、医師主導治験での臨床試験入りを目指す。継続中
- 2024.11Hondaとカナダでセパレータの合弁へカナダでリチウムイオン電池用セパレータを作る会社にHondaのカナダ法人が25%を出資する株主間契約を結んだ。Hondaは出資とその他の資金で約4億1700万カナダドルを拠出する予定。継続中
- 2025.05ヘルスケアベンチャーHers HeAlthを設立旭化成ファーマが、初のヘルスケアベンチャーとしてHers HeAlth Technologiesを設立した。骨密度検査を希望する人と医療機関をつなぐ「メディカルほねチェック」の実証から生まれた。継続中
- 2025.08スピンアウトのULTECを設立窒化アルミニウムを使ったウルトラワイドギャップ半導体の技術をもとに、深紫外線レーザーダイオードなどを事業化するスタートアップULTECが、旭化成発のスピンアウトとして設立された。継続中
- 2025.10ライオンの「リード」事業を取得旭化成ホームプロダクツが、ライオンの調理関連品ブランド「リード」と、キッチンペーパーなどの事業を2025年10月31日付で取得した。継続中
- 2025.12旭化成アドバンスを帝人フロンティアと統合へ100%子会社の商社・旭化成アドバンスを帝人フロンティアと統合し、2026年10月1日に帝人80%・旭化成20%の合弁会社にする基本契約を結んだ。役目を終えた
- 2025.12Daramic事業を次へ渡す子会社Polypore傘下の鉛蓄電池用セパレータ「Daramic」事業を、米Kingswood Capital Managementへ譲渡した。2015年に買ったPolyporeの一部を、10年後に渡した形になる。役目を終えた
- 2026.02独Aicurisを約1,431億円で買収ドイツの医薬品開発企業Aicuris Anti-infective Curesを、約780百万ユーロ(約1,431億円)で買収すると発表した。2026年4月に完了した。継続中
- 2026.05TAフロンティアの社名を決定帝人フロンティアと旭化成アドバンスの統合で2026年10月1日に発足する新会社の社名を「TAフロンティア株式会社」に決めた。株主は帝人80%・旭化成20%。継続中
- 2026.05西日本のエチレン統合で出資10%に三井化学・三菱ケミカルと進める西日本のエチレン製造設備の統合で、新しい共同事業体への出資比率を三井化学45%・三菱ケミカル45%・旭化成10%とする前提で検討を進めると発表した。継続中
- 2026.09医薬の3社を一つのブランドに統合米VeloxisとスウェーデンのCalliditasの社名を「Asahi Kasei Therapeutics」に変え、日本の旭化成セラピューティクスとともに一つのグローバル医薬ブランドにすると発表した。継続中
住宅は、北米で施工会社を5回買った
住宅の8件は、旭化成ホームズの海外の記録が中心だ。2018年11月に米アリゾナ州のErickson Framing Operationsを買い、2020年に同じアリゾナ州のAustinの3社、2021年にBrewerの5社、2022年にネバダ州のFocusの5社、2024年にフロリダ州のODC Constructionと、北米の施工会社を5回取得した。いずれも持分100%で、金額の記載はない。
豪州では、2017年7月に資本提携したMcDonald Jones Homesの持分を2021年に80%へ引き上げ、2023年にはビクトリア州のArden Homesを取得した。
ここまでを、ひとつにまとめると
旭化成の35件のうち13件はヘルスケアです。医薬ではVeloxis・Calliditas・Aicuris と、約1,400億〜1,700億円の買収を3回重ね、2026年9月に一つの名前へまとめました。
住宅では、北米の施工会社を5回取得しています。
買ったものの一部を、10年後に次へ渡した
2015年8月、電池用セパレータの米Polyporeを100%子会社にした。このPolyporeの中にあった鉛蓄電池用セパレータ「Daramic」の事業を、2025年12月1日、米Kingswood Capital Managementへ渡した。発表では、成長分野に資源をさらに集めるためと書いている。金額の記載はない。
ほかにも、2023年に旭化成パックスの容器事業とフィルム事業を、2024年に旭化成ファーマの診断薬事業を、それぞれ次の持ち主へ渡した。2025年12月には、商社の旭化成アドバンスを帝人フロンティアと統合し、2026年10月1日に帝人80%・旭化成20%の「TAフロンティア」にすると決めている。
挑戦する人の視点で見ると
旭化成の35件から持ち帰れるのは、大きな買収を「同じ大きさの一歩」として繰り返すという見方だと思う。
医薬の3件は、どれも1,400億円台から1,700億円台。2019年、2024年、2026年と間をあけて重ね、3社目を買い終えた年に一つの名前へまとめた。住宅でも、北米の施工会社を1社ずつ、5回にわけて取得している。
いま自分が担当なら、最初の1件の稟議に「次の1件はいつ、どのくらいの大きさで」を書き添えると思う。1件で終わる挑戦ではなく、続けていく挑戦として説明できるからだ。