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デンソーはエンジン部品を次へ渡し、
オランダの農業会社を
3社続けて買った

36件の記録を並べると、この会社は入る場所と出る場所を同時に動かしています。買ったのはオランダの農業会社3社と半導体。渡したのはフューエルポンプとスパークプラグ。そして合弁でつくった5社は、出資比率が1社残らず公表されています。

Soichiro2026年9月6日じっくり読んで 約8分
記録した新規事業
36件
2006年3月の米国再保険子会社の設立から、2026年8月のRE-CORE開始まで、公開情報から拾って年表に並べた件数です
いま続いているもの
31件
36件のうち、公開情報で継続が確認できるもの。役目を終えた、または次へ渡したものが5件あります
買ったオランダの農業会社
3社
セルトン(2023年8月)、アクシア(2025年7月)、FoodVentures(2026年4月)。3社とも発表資料に創業年と売上が書かれています
出資比率を公表した合弁
5社
TDモバイル、BluE Nexus、J-QuAD DYNAMICS、MIRISE Technologies、デンソーアグリテックソリューションズ。5社とも比率が発表されています
この記事はこんな方に
  • 大手と合弁をつくろうとしている経営者へ。デンソーが結んだ5社の出資比率を、資本金と人数つきで並べます
  • 大手に買われる可能性を考えている方へ。買われた3社の創業年・売上・従業員数まで、発表資料の数字で追えます
  • 本業の外へ出る順番を知りたい方へ。何を渡して何を買ったかが、同じ年表の上で見比べられます
3行でいうと
  1. デンソーはオランダの農業会社を3社続けて買っている。2023年8月1日に施設園芸のセルトン(1896年創業、2022年売上8,450万ユーロ、正社員123人)の全株式、2025年7月4日にトマト中心の種苗メーカーであるアクシア(2010年創業、2024年売上4,800万ユーロ、従業員132名)の全株式、2026年4月2日には営農コンサルティングのFoodVentures(2010年設立、2024年売上290万ユーロ、従業員22名)を連結子会社にした。
  2. 同じ時期に、エンジンまわりの部品は次へ渡している。2022年1月にフューエルポンプの開発・生産・販売を愛三工業へ譲渡する契約を締結し、同年8月1日に移管した。2025年9月1日には、スパークプラグと排気センサー(O2センサー・空燃比センサー)の2事業を日本特殊陶業へ譲渡する契約を締結している。実行の時期は、各国・地域の競争法当局の承認取得などが完了次第とされた。
  3. 合弁でつくった会社は、出資比率が公表されている。TDモバイルは豊田通商51%・デンソー49%(資本金4億9,000万円)、BluE Nexusはアイシン精機と50対50(資本金5,000万円)、J-QuAD DYNAMICSはデンソー65%(資本金5,000万円)、MIRISE Technologiesはデンソー51%・トヨタ49%(資本金5,000万円)、デンソーアグリテックソリューションズはデンソー51%・セルトン49%(資本金7,000万円)である。

オランダの農業会社を、3社続けて買っている

デンソーの36件を並べていて、いちばん目を引いたのは買った相手の国と業種だった。自動車部品の会社が、オランダの農業会社を3社続けて買っている。

1社目はセルトン。2023年8月1日、施設園芸ソリューションの開発・販売を手がけるオランダの会社の全株式を取得した。発表資料には1896年創業、2022年の売上高8,450万ユーロ、正社員123人と書かれている。「125年以上の歴史を持ち、施設園芸分野において世界トップクラスの先進技術」を持つ会社である。

2社目はアクシア。2025年7月4日、トマトを中心に高品質な野菜品種の育種・開発を専門とする種苗メーカーの全株式を取得した。2010年創業、2024年の売上高4,800万ユーロ、従業員132名。

3社目はFoodVentures。2026年4月2日、オランダの営農コンサルティング企業を連結子会社にした。2010年設立、2024年の売上高290万ユーロ、従業員22名と、3社のなかではいちばん小さい。

用語施設園芸しせつえんげい

ビニールハウスやガラス温室のように、屋根と壁のある建物の中で野菜や花を育てるやり方です。外の天気に左右されにくく、温度・湿度・水やりを機械で細かく調整できます。ここを自動化する技術は、工場の生産ラインを制御する技術と考え方が近いため、自動車部品の会社が入ってくる余地があります。

買う前に、組んでいる。2020年6月、デンソーはセルトンと合弁でデンソーアグリテックソリューションズを設立した。資本金7,000万円、出資はデンソー51%・セルトン49%。その3年後に、相手の会社そのものを買っている。

CHART

事業稼働チャート

デンソーが2006年以降に始めた主な動きと、その期間
米国に再保険子会社2006–
TDモバイル(豊田通商と)2009–
デンソーテン(旧富士通テン)2017–
NSITEXE(半導体IP)2017–
BluE Nexus(アイシンと)2018–
J-QuAD DYNAMICS(4社で)2018–
MIRISE Technologies(トヨタと)2019–
デンソーアグリテック(セルトンと)2020–
ジェコーを完全子会社化2020–
JASM(TSMC・ソニーと)へ出資2022–
セルトンを完全子会社化2023–
Silicon Carbide LLCへ出資2023–
SOEC水素製造に参入2024–
NTTデータと包括提携2024–
アクシアを完全子会社化2025–
FoodVenturesを子会社化2026–
200620102014201820222026
継続中役目を終えた
新規事業マニアの解説

36件を並べて、はじめに思ったのはここでした。

いきなり買ってはいません。まず合弁で組んで、3年一緒にやってから買っています。

セルトンとは2020年に合弁、2023年に全株式取得。相手を先に知ってから、値段の話をしているという順番に見えました。組む側から見ても、ここは読みどころだと思います。

同じ時期に、エンジン部品は次へ渡している

入る話だけではない。同じ年表の上で、エンジンまわりの部品が外へ出ていっている。

2022年1月、フューエルポンプの開発・生産・販売を愛三工業へ譲渡する契約を締結した。米KDMK社の全株式を含め、2022年8月1日に移管している。

2025年9月1日、スパークプラグと排気センサー(O2センサー・空燃比センサー)の2事業を日本特殊陶業へ譲渡する契約を締結した。発表資料は、電動車の普及とパワートレインの多様化への対応を理由に挙げ、両社が「技術・品質へのこだわり」という価値観を共有していると書いている。実行の時期は、各国・地域の競争法当局の承認取得などが完了次第とされた。

2025年11月には、カーエアコン配管を手がけるデンソーエアシステムズの全株式を、マルヤス工業へ譲渡する検討を始めている。

実務のコツ

大手が外へ出す事業には、受け取り手が先に決まっています。

デンソーの記録では、フューエルポンプは愛三工業、スパークプラグと排気センサーは日本特殊陶業、カーエアコン配管はマルヤス工業。いずれも、その分野をすでにやっている会社です。

「大手が手放す」と聞くと需要がなくなった話に見えますが、渡した先では本業になります。自分の会社が、いま誰かの「中心ではない事業」を受け取れる位置にいないか。この年表は、その確かめ方を教えてくれます。

合弁の持ち分は、5社とも公表されている

デンソーは合弁会社をよくつくる。そして出資比率を、発表資料にきちんと書いている。並べるとこうなる。

2009年4月設立のTDモバイルは、豊田通商51%・デンソー49%。資本金4億9,000万円、従業員は約1,300人だった。

2018年12月に設立を決めたBluE Nexusは、アイシン精機と50対50。資本金5,000万円で、電動化の駆動モジュールを開発・販売する。

同じ2018年12月に決めたJ-QuAD DYNAMICSは、アイシン精機・アドヴィックス・ジェイテクトとの4社。デンソーが65%を持ち、資本金5,000万円、発足時の人員は約170人だった。

2020年4月に設立したMIRISE Technologiesは、デンソー51%・トヨタ49%。資本金5,000万円で、車載半導体の研究・先行開発を担う。

2020年6月のデンソーアグリテックソリューションズは、デンソー51%・セルトン49%。資本金7,000万円である。

50対50、65%、51%と49%。同じ会社が、相手と目的によって比率を変えている

5社を見比べると、比率は毎回ちがう。技術を持ち寄る相手とは50対50、自分が仕様を決める場面では過半。相手の国の商流に入るときは51%。「うちはいつも◯%です」という会社ではない。

TIMELINE

未確認事業年表

デンソーが公開情報で発表した新規事業を、始めた順に
  • 2006.03米国に再保険子会社を設立ハワイに再保険子会社を設立。資本金は300万米ドル(約3億5,000万円)の100%出資で、グループの海上保険などを引き受ける継続中
  • 2008.12TDモバイルの設立を発表豊田通商と携帯電話販売の合弁会社の設立を12月11日に発表。設立日は2009年4月1日で、資本金4億9,000万円、出資は豊田通商51%・デンソー49%、従業員約1,300人継続中
  • 2017.04富士通テンの取得契約を締結富士通から株式188万6,000株を取得する契約を4月28日に締結。株式譲渡の実行は2017年10月2日で、同年11月にデンソーテンへ社名変更した継続中
  • 2017.09NSITEXE を設立自動運転向け半導体IPを開発する100%子会社を東京都港区に設立。資本金1億円、発足時の人員は55人継続中
  • 2018.12J-QuAD DYNAMICS を設立アイシン精機・アドヴィックス・ジェイテクトと合弁で設立を決定。資本金5,000万円、出資はデンソー65%で発足時の人員は約170人継続中
  • 2018.12BluE Nexus を設立アイシン精機と電動化の駆動モジュールを開発・販売する合弁会社の設立を決定。資本金5,000万円、出資比率は50対50継続中
  • 2019.04トヨタの電子部品事業を取得トヨタの電子部品の生産・開発機能をデンソーへ集約する譲渡契約の締結に合意。2020年4月1日に一括で承継した継続中
  • 2019.12MIRISE Technologies を発足トヨタと車載半導体の研究・先行開発を担う合弁会社を2020年4月1日に設立。資本金5,000万円、出資はデンソー51%・トヨタ49%継続中
  • 2020.06デンソーアグリテックソリューションズ設立オランダのセルトンと施設園芸の合弁会社を設立。資本金7,000万円、出資はデンソー51%・セルトン49%継続中
  • 2020.12ジェコーを完全子会社化株式交換で完全子会社化すると発表。持株比率は35.21%から100%へ。ジェコーの連結売上高は259億円、従業員684人継続中
  • 2021.05都市航空モビリティに参入ハネウェルとの提携を拡大し、電動航空機向けモーターとインバーターの共同開発に着手した継続中
  • 2021.06Seurat Technologies へ出資金属積層造形を手がける米企業のシリーズBラウンドに出資。70年超の量産ノウハウと組み合わせ実用化を目指す継続中
  • 2022.01フューエルポンプ事業を譲渡愛三工業へ開発・生産・販売を譲渡する契約を締結。米KDMK社の全株式を含め、2022年8月1日に移管し譲渡した役目を終えた
  • 2022.02JASM へ出資TSMCとソニーが熊本に設立した半導体受託生産会社へ3億5,000万米ドルを出資し10%超を保有。月産5万5,000枚を計画する継続中
  • 2022.04USJC と車載パワー半導体で協業ユナイテッド・セミコンダクター・ジャパンと協業し、国内初となる300mmウエハーでのIGBT生産に着手した継続中
  • 2023.08セルトンを完全子会社化1896年創業のオランダの施設園芸大手の全株式を取得。2022年の売上高は8,450万ユーロ、従業員123人継続中
  • 2023.10Silicon Carbide LLC へ出資米コヒレント傘下でSiC基板を手がける会社へ5億米ドル(約745億円)を出資し12.5%を保有した継続中
  • 2023.12ASRA に参画車載SoCを研究開発する技術研究組合に、自動車・半導体など12社の一員として参画。2030年以降の量産車への搭載を目指す継続中
  • 2024.03KJ Bio を設立カミチクグループと微細藻類の合弁会社を熊本県天草市に設立。資本金1,000万円で3月1日に事業開始した継続中
  • 2024.06NTTデータと包括提携車載ソフトウェア領域での包括提携に基本合意。2030年までに両社で3,000人規模のソフトウェア開発体制を整備する継続中
  • 2024.08SOEC 水素製造事業に本格参入英セレス・パワーとSOECセルスタックの製造ライセンス契約を締結。同月にはJERAとの共同実証でも合意し、2件を相次いで発表した継続中
  • 2024.09ニッパ株式を譲渡保有するグループ会社ニッパの全株式を日本みらいキャピタル傘下の会社へ譲渡。持分は36.37%、従業員275人で9月30日に実行した役目を終えた
  • 2024.10米Quadric とAI半導体で契約米スタートアップとNPU IPの開発ライセンス契約を締結。ISO26262 ASIL D 対応の自社RISC-Vプロセッサと組み合わせる継続中
  • 2025.05ロームと半導体で戦略提携2024年9月の検討開始を経て、アナログICなど半導体分野での戦略的パートナーシップ構築に基本合意した継続中
  • 2025.06BlueRebirth協議会を設立自動車の再生材利用拡大を目指す協議会を発起人7社で設立。設立時の参画は約30社継続中
  • 2025.07アクシアを完全子会社化オランダのトマト種苗メーカーの全株式を取得。2010年創業で2024年の売上高は4,800万ユーロ、従業員は132人継続中
  • 2025.08インドでデジタル基盤事業を開始ドリームインキュベータと統合デジタルプラットフォームのインド社会実装を開始。実施期間は2025年7月から2027年11月まで継続中
  • 2025.09スパークプラグ事業を譲渡内燃機関向けスパークプラグと排気センサの2事業を日本特殊陶業へ譲渡する契約を締結した役目を終えた
  • 2025.09JERAとSOEC水素製造を実証JERA新名古屋火力発電所で、国内初となる発電所内でのSOEC水素製造実証を開始。電解電力は200kW継続中
  • 2025.11カーエアコン配管事業の譲渡を検討デンソーエアシステムズの全株式をマルヤス工業へ譲渡する検討を開始。同社は1974年設立で愛知県安城市に本社を置く役目を終えた
  • 2025.12メディアテックとSoC共同開発次世代の車載SoCについて共同開発契約を10月31日付で締結。デンソーが要求仕様と基本設計を担う2社分担とする継続中
  • 2026.03ネクストコアテクノロジーズへ出資鉄系アモルファス合金のモーターコアを手がける京都府宇治市の企業へ出資。BEV・PHEV・HEVの3方式で効率の向上を目指す継続中
  • 2026.03地域CO2循環型e-メタン供給を実証東邦ガス、アイシンと国内初の実証を開始。3社が愛知県内の3拠点を結び、工場排ガス由来のCO2を都市ガス網で再利用する継続中
  • 2026.04ローム株式取得の提案を取り下げ3月に表明したローム株式の取得提案を取り下げた。2025年5月に基本合意した戦略的パートナーシップは継続する役目を終えた
  • 2026.04FoodVentures を子会社化オランダの農業コンサルティング会社の株式を取得し連結子会社化。2023年のセルトン、2025年のアクシアに続く農業分野で3社目の買収継続中
  • 2026.08RE-CORE を開始STATION Ai と製造業向けオープンイノベーション支援プログラムを開始。Fusion では3カ月の伴走支援を提供する継続中
新規事業マニアの解説

この記事でいちばん実用的だと思ったのは、比率の並びでした。

50対50、65%、51%と49%。相手と目的によって、同じ会社が変えています。

交渉の場で「御社はいつも何%ですか」と聞くより、「この案件は、どちらが仕様を決めますか」と聞いたほうが、比率の話は早く進むのだと思いました。

挑戦する人の視点で見ると

デンソーの36件から持ち帰れるものは、「入る場所と出る場所は、同時に動く」ということだと思う。

2022年にフューエルポンプを渡し、2023年にセルトンを買った。2025年にスパークプラグを渡し、同じ年にアクシアを買った。片方だけを見ると「縮んだ」「広げた」に見えるが、並べると入れ替えである。

もうひとつは、買うまでの順番だ。セルトンとは2020年に合弁で組み、2023年に全株式を取得している。いきなり買っていない。3年一緒にやってから買っている。大手と話すとき、最初の一歩が合弁や出資であっても、それはその先の話が無いという意味ではない。

2022年1月に契約したフューエルポンプ事業は、2022年8月1日に愛三工業へ移管しました。2024年9月には、保有していたグループ会社ニッパの全株式(持分36.37%、従業員275人)を日本みらいキャピタル傘下の会社へ譲渡しています。2026年4月には、3月に表明したローム株式の取得提案を取り下げました。2025年5月に基本合意した戦略的パートナーシップは続いています。どれも続いているものと同じ重さで年表に並べています。

最後に、時間の話。2006年3月にハワイへ再保険子会社をつくったところから、2026年8月のRE-CORE開始まで20年5か月ある。その間に半導体へ入り、水素へ入り、農業へ入った。いまのデンソーの形は、その20年で入れ替えられたものだと思って眺めると、少し違って見えると思う。

READERS' VOICE

ここまで読んだ、あなたへ

ひとつ選ぶと、ほかの読者が何を選んだかが、その場で見えます。
この記録がどう受け取られたのかを、みんなで確かめる場所です。

NEWFOR MEMO
新規事業マニアのメモ ─ 自分が担当だったら

自分が担当だったら、この年表から持ち帰るのは「合弁の比率は、相手と目的で変えていい」という一点だと思う。

デンソーの5社は、50対50(BluE Nexus)、65%(J-QuAD DYNAMICS)、51%(MIRISE・アグリテック)、49%(TDモバイル)と全部ちがう。技術を持ち寄る相手とは対等、仕様を自分が決める場面では過半、相手の商流に入るときは51%。決まった型があるわけではない。

もうひとつは買うまでの順番。セルトンとは2020年に合弁、2023年に全株式取得。3年一緒にやってから買っている。最初の出資が小さくても、その先が無いということではない。

最後に入れ替えの速さ。2022年フューエルポンプを愛三工業へ、2025年スパークプラグと排気センサを日本特殊陶業へ。同じ時期にオランダの農業会社を3社。渡した先の会社にとっては、それが本業になっている。

Soichiro新規事業マニア
40代 / 事業開発
新規事業マニア。20代でスタートアップを立ち上げ、1社を上場企業へ売却。その後、外資系コンサルティングファーム、通信大手、大手人材グループ、国内大手ITサービスの中で、社員として新規事業の立ち上げに携わる。並行して顧問として10社近くの新規事業を担当。事業立ち上げ歴20年。名前は、本田宗一郎への敬意から。
20年 事業立ち上げ歴1社 上場企業へ売却4社 事業会社の中で立ち上げ10社 顧問として担当