楽天が金融に入った6つの入口のうち、5つは「買う」だった
楽天グループの42件を並べていて、いちばん形がはっきり出たのは金融への入り方だった。証券、電子マネー、銀行、生命保険、損害保険。この5つは、どれも自分で立ち上げていない。すでにある会社を買って、その事業に入っている。
順に並べるとこうなる。2003年11月、楽天証券の前身を子会社化して証券事業へ。2009年2月、イーバンク銀行を子会社化して銀行事業へ(2010年2月に楽天銀行へ商号変更)。2010年1月、ビットワレットを子会社化して電子マネー事業へ(のちの楽天Edy)。2012年10月、アイリオ生命保険を子会社化して生命保険事業へ(2013年4月に楽天生命保険へ商号変更)。2018年3月、朝日火災海上保険を子会社化して損害保険事業へ(同年5月に楽天損害保険へ商号変更)。
自分で立ち上げたのは、2005年6月に発行を始めた楽天カードだけである。
ある会社の株を、過半数など「決められる割合」まで買って、自分のグループに入れることです。事業をゼロから作るのと違い、免許・人・お客さんが最初から付いてきます。金融のように免許が要る事業では、この入り方が近道になることがあります。
買った対象は金融だけではない。2000年12月にインフォシークを完全子会社化してポータル事業へ、2011年11月にカナダのKobo社を約3億1,500万米ドル(約236億円)で完全子会社化して電子書籍事業へ、2014年2月にViber Mediaを9億米ドル(約935億円)で、同年10月に米Ebatesを約1,000億円で取得している。2015年1月にはヴィッセル神戸の全株式を取得し、2019年9月には台湾のプロ野球球団を取得した。
事業稼働チャート
42件を並べて、はじめに思ったのはここでした。
「新しい事業をつくる」と「新しい事業に入る」は、同じではないということです。
楽天は、入りたい場所に会社があるなら、その会社を買って入っています。免許も、人も、お客さんも、最初から付いてくる。時間を、お金で買っているという言い方が、いちばん近いと思いました。
育った持ち分は、外へ渡している
買って入った事業は、そのまま100%で抱え続けてはいない。2023年からの3年で、育った金融事業の持ち分が続けて動いている。
2023年4月21日、楽天銀行が東京証券取引所プライム市場に上場した。子会社を市場に出す形である。
2023年11月9日、楽天証券ホールディングスが楽天証券の普通株式29.0007%をみずほ証券へ譲渡すると発表した。譲渡金額は870億円。発表資料には、この取得後の楽天証券に対する楽天証券HDの出資比率は51%になる、と書かれている。
2024年11月13日、みずほフィナンシャルグループが楽天カードの普通株式14.99%を1,649億97百万円で取得すると発表した。実行予定日は2024年12月1日である。
この2件を足すと約2,520億円になる。
「何%を渡すか」は、金額とセットで決まっています。
楽天の記録では、29.0007%が870億円、14.99%が1,649億97百万円。比率が小さいほうが、金額は大きい。渡す相手の会社が、そのとき何%の価値をどう見ていたかが、そのまま数字に出ています。
自分の会社の持ち分を考えるとき、比率だけを見て話すと足りません。比率 × そのときの評価額で、はじめて意味が決まります。
2026年10月、3つがひとつにまとまる
2026年5月20日、フィンテック事業再編の最終合意が発表された。楽天銀行が株式交付によって、楽天カードと楽天証券ホールディングスを子会社化する。効力発生日は2026年10月1日の予定である。
発表資料には、見込むシナジーの金額が書かれている。
2028年3月期に年間約330億円、中期的に年間約850億円以上の経常利益ベースでのシナジー効果
内訳も示されていて、資金調達の柔軟化と調達コストの最適化で年間約530億円以上、マーケティングの連携強化で年間約320億円以上とされている。
2003年11月に証券会社を買って金融へ入ってから、2026年10月にひとつへまとめるまで、およそ23年である。
未確認事業年表
- 1997.02株式会社エム・ディー・エム 設立楽天市場の運営会社として設立。従業員6人でのスタート。1999年6月に楽天株式会社へ、2021年4月に楽天グループ株式会社へ商号変更継続中
- 1997.05楽天市場 開設13店舗でのスタート。テナント型のオンラインショッピングモール。2011年12月に年間流通総額1兆円、2022年1月にEC流通総額5兆円を突破継続中
- 1998.07楽天スーパーオークション 開始個人間オークション事業へ参入。のちの楽天オークション。2016年10月31日に提供を終えた役目を終えた
- 2000.04日本証券業協会へ株式を店頭登録創業3年での株式公開。2013年12月に東京証券取引所一部へ市場変更継続中
- 2000.12インフォシーク 完全子会社化ポータル事業へ参入し100%取得。2003年9月に吸収合併し、検索とメディアの機能を本体へ統合した役目を終えた
- 2001.03楽天トラベル 開始宿泊予約事業へ参入。2003年9月にマイトリップ・ネットを完全子会社化。2024年8月にJAL楽パック利用500万人を突破継続中
- 2003.11楽天証券の前身を子会社化オンライン証券事業へ参入。2025年11月に1,300万口座、2024年6月に預り資産残高30兆円を突破継続中
- 2004.10株式会社楽天野球団 設立プロ野球参入。同年11月に東北楽天ゴールデンイーグルスの新規参入が承認され、2013年11月に日本シリーズ初優勝継続中
- 2005.06楽天カード 発行開始クレジットカード事業へ参入。2023年12月に発行枚数3,000万枚、同年9月にショッピング取扱高20兆円を突破継続中
- 2008.05台湾楽天市場 開始EC事業として初の海外展開。2015年1月に台湾楽天カードの発行、2021年1月に台湾の銀行事業も開始継続中
- 2009.02イーバンク銀行 子会社化銀行事業へ参入。2010年2月に楽天銀行へ商号変更。2025年5月に1,700万口座、同年12月に預金残高13兆円を突破継続中
- 2010.01ビットワレット 子会社化電子マネー事業へ参入。2009年11月の資本提携を経て子会社化し、のちに楽天Edyへ商号変更した継続中
- 2011.11Kobo社 買収カナダの電子書籍事業者を約3億1,500万米ドル(約236億円)で100%取得。2012年7月に楽天Kobo電子書籍ストアを開始継続中
- 2012.10アイリオ生命保険 子会社化生命保険事業へ参入。2013年4月に楽天生命保険へ商号変更し、2017年7月には楽天生命技術ラボを設立した継続中
- 2014.02Viber Media 買収無料通話アプリ運営会社を9億米ドル(約935億円)で取得。当時の世界登録ユーザーは約2億8,000万人継続中
- 2014.10Ebates 完全子会社化米国最大級のキャッシュバックサイトを約1,000億円で100%取得。のちにRakuten Rewardsへ改称した継続中
- 2014.10楽天モバイル 開始MVNOとして移動体通信事業へ参入。2017年11月にはFREETELの国内MVNO事業を承継し回線数を拡大した継続中
- 2015.01ヴィッセル神戸 全株式取得Jリーグクラブ運営へ参入。2023年11月にJ1リーグ初優勝、2024年12月に連覇を果たした継続中
- 2016.10楽天ペイ 提供開始スマホ決済事業へ参入。1億人を超える楽天会員が実店舗で決済可能に。2018年7月には国際カードブランドの登録にも対応継続中
- 2018.03朝日火災海上保険 子会社化損害保険事業へ参入。同年4月に100%取得を完了し、5月に楽天損害保険へ商号変更した継続中
- 2018.10楽天でんき 提供開始小売電気事業へ参入。2017年2月の小売電気事業者登録を経て開始。2020年10月には楽天ガスも開始した継続中
- 2019.07楽天メディカルへ追加出資がん光免疫療法の開発会社へ1億米ドルを追加出資。増資後の出資比率は22.6%継続中
- 2019.09台湾プロ野球球団 取得ラミゴ モンキーズの全株式取得に基本合意。楽天モンキーズとして運営し、2025年10月に台湾シリーズ優勝継続中
- 2019.10楽天モバイル 携帯キャリア事業開始2018年4月の1.7GHz帯認定を受け第4のキャリアとして参入。2025年12月に1,000万回線を突破した継続中
- 2020.03AST & Science 出資衛星通信企業にリードインベスターとして出資。2025年4月に低軌道衛星とスマホの直接通話試験に成功した継続中
- 2020.04楽天モバイル 本格サービス開始Rakuten UN-LIMIT 2.0を月額2,980円(税別)で提供開始。先着300万名に開通日から1年間無料の特典を付けた継続中
- 2020.11西友 株式取得総合スーパーの株式20%を取得しリアル店舗のDXへ関与。2023年5月に保有株式をKKRへ譲渡した役目を終えた
- 2021.03日本郵政グループと資本・業務提携第三者割当増資で1,499億99百万円の出資を受け、日本郵政の出資比率は8.32%。物流・モバイル・DXの3分野で協業継続中
- 2021.07JP楽天ロジスティクス 設立日本郵便との物流合弁会社。出資比率は日本郵便50.1%、楽天グループ49.9%継続中
- 2021.08アルティオスター 完全子会社化無線アクセスネットワーク仮想化技術を持つ米国企業を100%取得。企業価値は10億米ドル継続中
- 2022.01楽天シンフォニー 設立楽天モバイルの新設分割により資本金1億円で設立。Open RAN基盤のグローバル外販事業を担う継続中
- 2022.02Rakuten NFT 提供開始NFTマーケットプレイス事業へ参入。2025年9月30日にみんなのチケットへ刷新した役目を終えた
- 2023.04楽天銀行 東証プライム市場 上場子会社の新規上場。公開価格1,400円に対し初値1,856円。グループの資金調達手段を広げた継続中
- 2023.11楽天証券株式をみずほ証券へ追加譲渡普通株式約29.01%を870億円で譲渡し、楽天証券HDの出資比率は51%となった継続中
- 2024.11楽天カードとみずほFGの資本業務提携みずほFGが楽天カード普通株式の14.99%を約1,649億97百万円で取得。同月にみずほ楽天カードの提供も開始した継続中
- 2026.03Rakuten AI 3.0 提供開始2024年3月公開の日本語LLMから続く自社開発シリーズの第3世代。2026年3月17日に提供を開始した継続中
- 2026.05フィンテック事業再編 最終合意楽天銀行が株式交付で楽天カードと楽天証券HDを子会社化。2026年10月1日効力発生、年間約850億円以上のシナジーを見込む継続中
- 2026.08ジェイフロンティアとオンライン診療で連携オンライン診療・服薬指導の普及に向けた連携を開始。1億超の楽天会員基盤を医療領域へつなぐ継続中
- 2026.08楽天ふるさと住民 新設を発表2027年春に開設するポータル。ふるさと納税の利用者と自治体を継続的につなぐ仕組みへ広げる継続中
- 2026.08新オンラインストア「楽天ラクヨコ」を開設8月25日に若年層向けの直販オンラインストアを開設。ファッションや雑貨など約6万商品を数百円からの価格帯で扱う継続中
- 2026.08楽天シンフォニーがボリビアVIVAと覚書ボリビアで25年以上事業を続ける通信大手Nuevatel PCSと戦略的協業の覚書を締結。Open RANやクラウド基盤、AIを使ったデジタル基盤の導入を検討する継続中
- 2026.09楽天越境EC(中国)有限公司を杭州に設立9月16日発表。2026年8月24日に中国浙江省杭州市へ設立した新会社で、「楽天市場」への中国事業者の出店誘致と運営サポートを担う。資本金・出資比率の記載なし継続中
この記事でいちばん実用的だと思ったのは、順番でした。
買って入る。育てる。持ち分を渡す。まとめ直す。この4つが、同じ会社の同じ年表に、日付つきで全部並んでいます。
大手と話すとき、相手がいまどの段階の話をしているのかで、渡すものも、返ってくるものも変わります。「買収」という一言の中に、23年ぶんの段階があるということだと思いました。
挑戦する人の視点で見ると
楽天グループの42件から持ち帰れるものは、「大手は、入りたい場所に会社があるなら、それを買って入る」ということだと思う。
証券・電子マネー・銀行・生保・損保の5つとも、そうやって入っている。つまり、いま自分がやっている事業は、誰かにとっての「入口」になり得る。買われるという話は、遠い会社の話ではなく、免許や顧客基盤を持っている会社ならどこにでもある話である。
もうひとつは、渡し方だ。29.0007%で870億円、14.99%で1,649億97百万円。渡した比率は一度きりではなく、上場させたり、一部を譲ったり、最後にひとつへまとめ直したりしている。持ち分は、一度決めたら終わりのものではない。
最後に、時間の話。1997年2月に従業員6人で設立され、同年5月に13店舗で楽天市場を開いた会社が、いま金融をひとつへまとめようとしている。入口を買い、育て、渡し、まとめる。その全部に、29年かかっている。いま目の前にある大手の姿は、その年数の先にあるものだと思って眺めると、少し違って見えると思う。