9社と組んでいて、服をつくる会社が1社もない
ファーストリテイリングの41件を並べていて、いちばん目についたのは事業そのものではなかった。この会社が誰かと組むときの、相手の顔ぶれである。
合弁と提携を数えると9社になる。海外へ出るときに組んだのが3社。2004年12月に韓国でロッテショッピングと合弁のFRL Koreaを設立し、2008年8月にシンガポールでウイングタイ社と合弁を組み、2010年7月にバングラデシュでグラミン銀行と合弁をつくった。ここは、現地で売るための相手である。
問題は残りの6社だ。2006年6月に東レ、2015年9月にアクセンチュア、2016年に島精機製作所、2018年9月にGoogle、2018年10月にダイフク、2026年3月にザイマックスグループ。
素材メーカー、コンサルティング会社、編み機メーカー、検索の会社、物流機器の会社、不動産管理の会社。服そのものをつくる会社は、1社も入っていない。
事業稼働チャート
ここは、書き写していて手が止まりました。
アパレルの新規事業だと思って読み始めると、出てくる相手が糸と、編み機と、倉庫と、検索なんです。
服の会社と組んで服をつくるのではなく、服をつくる手前の道具を持っている会社と組んでいる。そう読むと、9社の並びが1本につながって見えてきます。
編み機の会社とは、資本金4億円の会社をつくっている
6社のうち、いちばん具体的なのが島精機製作所との組み方だ。
2016年10月27日、ファーストリテイリングは合弁会社「株式会社イノベーションファクトリー」の発足を公表した。設立は2015年12月、所在地は和歌山県和歌山市、資本金は400百万円、出資は島精機製作所51%・ファーストリテイリング49%。
相手をどう紹介しているかが、この発表のいちばん面白いところである。島精機製作所は「コンピュータ横編機の分野では世界シェアNo.1の編み機製造のパイオニア」と書かれている。新会社の目的は「ニット生産技術を活用した新しい生産システムの確立に向け、ニット商品の共同開発および製造」で、ユニクロを中心としたグループのホールガーメント製品を生産する。
編み機で、袖も身頃も一続きに、縫い目のない状態で1着まるごと編み上げる技術です。ふつうのニットは、パーツを別々に編んでから人が縫い合わせます。まるごと編めると縫う工程が要らなくなり、裁断で出る布の切れ端も減ります。
この合弁は、4年後に持ち方が変わっている。2020年9月16日、出資比率を入れ替えてファーストリテイリング51%・島精機49%とし、会社を有明本部の近郊へ移した。移転後の稼働は2021年春である。
組む相手を探すとき、「同じ業界の会社」から先に見ないでください。
ファーストリテイリングが国内で組んだ6社は、素材・IT・編み機・検索・物流機器・不動産管理です。自分たちの商品と同じものをつくっている会社は、1社もありません。
自社が弱いのは、たいてい商品そのものではなく、そこへ至る手前の工程です。そこを持っている会社は、たいてい別の業界にいます。
2017年、この会社は自分の業種を名乗り直した
なぜ相手がこの顔ぶれになるのか。2017年から2018年の発表に、答えが書いてある。
2017年2月、商品と商売の機能を六本木の本部から有明のUNIQLO CITY TOKYOへ移した。いわゆる有明プロジェクトである。そして2018年9月19日、Googleとの協業を強化する発表の中で、この会社は自分たちのことをこう書いた。
お客様を深く理解し、お客様が求めているものだけを作り、最適な形でお届けするための、情報を中心とした「情報製造小売業」へと生まれ変わるためのプロジェクト
組む相手は、Google CloudのASL(Advanced Solutions Lab)チーム。日本で初めてのパートナーシップとして、「世界最先端の機械学習や画像認識技術を使った、商品のトレンドや具体的な需要の予測」に取り組むとしている。
その翌月、2018年10月9日にはダイフクと中長期の物流パートナーシップを結んだ。相手は「マテリアルハンドリング(マテハン)システムで世界トップクラス」と紹介され、掲げた取り組みは4つ。最新鋭の自動化設備の導入、特別チームの編成、一気通貫した自動化設備導入の推進、物流システム開発の協働である。
未確認事業年表
- 1998.10フリースを1,900円で全国投入1,900円のフリースを主力に据え、11月に原宿店を開業。ユニクロを全国ブランドへ押し上げた継続中
- 1999.04上海に生産管理事務所を開設中国での生産管理を担う拠点を開き、生産の自社管理を本格化させた継続中
- 2000.10インターネット通販事業を開始自社ECを立ち上げ、店舗以外の売り場をつくった。2017年3月に機能を全面刷新した継続中
- 2001.09英国へ進出しロンドンに出店海外1号市場として英国へ。2007年11月にオックスフォードストリート311を旗艦店として開いた継続中
- 2002.09中国1号店を上海に出店中国本土へ初進出。2010年5月に南京西路へ世界4番目のグローバル旗艦店を構えた継続中
- 2002.11食品事業 SKIP を開始野菜の生産販売へ参入。約1年半後の2004年4月に提供を終えた役目を終えた
- 2004.01セオリー運営会社へ出資Theoryを手がけるリンク・インターナショナルへ出資。5年後に完全子会社化へ進んだ継続中
- 2004.02ナショナルスタンダードを子会社化婦人服の同社を子会社化したが、約2年後の2006年5月に次へ渡した役目を終えた
- 2004.12米国にデザイン研究拠点を設立ニューヨークにUNIQLO Design Studio, New York, Inc.を設立。海外初のデザイン拠点継続中
- 2004.12韓国でロッテとの合弁を設立ロッテショッピングとの合弁でFRL Koreaを設立し、2005年9月にソウルで1号店を開いた継続中
- 2005.03靴チェーンのワンゾーンを子会社化靴事業へ参入するため子会社化。2010年4月に事業をユニクロへ移した役目を終えた
- 2005.05コントワー・デ・コトニエを傘下に運営する仏ネルソンフィナンスの経営権を取得。2006年2月に日本1号店を開いた継続中
- 2005.09アスペジの日本法人を取得伊ASPESIの日本での販売子会社を取得したが、約3年後の2008年7月に提供を終えた役目を終えた
- 2005.09米国・香港へ同時に進出ニュージャージーに米国1号店、尖沙咀に香港1号店を出店した継続中
- 2005.11持株会社体制へ移行ユニクロ事業の強化と新規事業の拡大を狙って移行。以後の買収を支える器になった継続中
- 2006.02プリンセス タム・タムを買収ランジェリーを展開する仏プティ・ヴィクルを買収。同月にコントワーの日本1号店も開いた継続中
- 2006.03株式会社ジーユーを設立資本金4億5,000万円の100%子会社として設立。ユニクロより低い価格帯のカジュアル衣料を担う継続中
- 2006.06東レと戦略的パートナーシップ素材開発で包括提携。2010年7月に第2期5年、2015年11月に第3期5年計画へ延長した継続中
- 2006.10ジーユー1号店を出店千葉県市川市に1号店。2009年3月の990円ジーンズが話題になり低価格業態として定着した継続中
- 2006.11ニューヨークに世界旗艦店1号ソーホー ニューヨークに世界初のグローバル旗艦店を開業。2016年9月に改装して再開業した継続中
- 2007.04UT STORE HARAJUKUを開業Tシャツ専門店として原宿に1号店。UTを独立した商品ラインへ育てる起点になった継続中
- 2007.12フランス1号店をパリ郊外に出店ラ・デファンスに1号店。2009年10月にパリ オペラをグローバル旗艦店として開いた継続中
- 2008.08シンガポールで合弁会社を設立ウイングタイ社と合弁を組み、2009年4月にタンピニーズ・ワンで1号店を開いた継続中
- 2008.093社を統合しGOVリテイリング発足ジーユー・ワンゾーン・ビューカンパニーを合併。靴事業は2010年4月にユニクロへ移した役目を終えた
- 2009.03リンク・セオリーを完全子会社化公開買付けで子会社化。2004年1月の出資から5年で完全取得に至った継続中
- 2010.07グラミン銀行と合弁を設立バングラデシュでソーシャルビジネスを開始。初年度250人、3年目に1,500人の雇用創出を掲げた継続中
- 2010.09キャビンの婦人服事業を再編リンク・セオリー・ジャパンへ吸収合併。Za-Ziなどは2011年初めまでに提供を終えた役目を終えた
- 2012.12J Brandを買収米プレミアムデニムの株式80.1%を約3億ドルで取得。2021年8月に運営会社の清算を決めた役目を終えた
- 2013.09ジーユー海外1号店を上海に出店ジーユー初の海外店。2014年9月に台湾、2017年3月に香港へ広げた継続中
- 2015.09アクセンチュアと合弁ウェアレクス設立9月1日設立。国内を中心に約50名体制で始め、モバイルとクラウドの活用を強めた継続中
- 2016.10島精機と合弁で新会社を発足2015年12月設立のイノベーションファクトリー。資本金400百万円、島精機51%・ファストリ49%継続中
- 2017.02有明本部を稼働し有明プロジェクトUNIQLO CITY TOKYOへ商品・商売の機能を移し、情報製造小売業への転換を掲げた継続中
- 2018.09Googleとの協業を強化Google CloudのASLチームと日本初のパートナーシップ。機械学習と画像認識で需要を予測する継続中
- 2018.10ダイフクと物流で包括提携マテハン世界トップクラスの同社と戦略的グローバルパートナーシップ。4つの取り組みを掲げた継続中
- 2019.10インド1号店をニューデリーに出店アンビエンスモールに約1,000坪・3フロアの1号店。年内に首都圏で計3店舗を計画した継続中
- 2019.12ベトナム1号店をホーチミンに出店ベトナムへ初進出。2019年はデンマーク・イタリア・インドと合わせ1年で4カ国に入った継続中
- 2020.09イノベーションファクトリーを子会社化出資比率を入れ替えファストリ51%・島精機49%に。有明本部近郊へ移り2021年春に稼働した継続中
- 2021.01UNIQLO Payを開始アプリのQRコード決済として1月19日に開始。決済手段の多様化を受け2026年1月に提供を終えた役目を終えた
- 2022.09RE.UNIQLO STUDIOを開始修理とリメイクを担う店内工房。1号店はロンドンのリージェントストリート店に構えた継続中
- 2024.09ジーユー米国1号店を出店ニューヨークに常設1号店。2022年10月の期間限定店を経て本格出店に進んだ継続中
- 2026.03ファーストリテイリング・プロパティ稼働2025年12月26日設立、ファストリ75%・ザイマックス25%。商業・複合施設の企画設計と管理運営を担う継続中
さかのぼると、2015年9月1日にアクセンチュアとの合弁「株式会社ウェアレクス」を設立している。国内を中心に約50名体制で始め、モバイルやクラウドを使って既存の事業をデジタル化し、実店舗とデジタル店舗の境をなくすことを目的に掲げていた。
3年ぶんの発表を並べると、順番がはっきりします。
2015年にITの会社と組み、2016年に編み機の会社と組み、2017年に本部を移し、2018年に検索の会社と物流の会社と組む。
そのうえで自分の業種を「情報製造小売業」と言い直しています。先に相手を揃えてから、名乗りを変えている。順番が逆でないところに、この会社らしさがあると思いました。
買ったブランドと、自分でつくったブランド
41件のうち8件が、役目を終えたか、次へ渡したものである。そしてその多くが、外から買ってきたブランドだ。
2004年2月に子会社化したナショナルスタンダードは2006年5月に次へ渡し、2005年9月に取得したアスペジの日本法人は2008年7月に提供を終えた。2005年3月に子会社化した靴のワンゾーンは、2010年4月に事業をユニクロへ移している。2012年12月に株式80.1%を約3億ドルで取得した米プレミアムデニムのJ Brandは、2021年8月に運営会社の清算を決めた。
続いているものもある。2004年1月に出資したセオリーの運営会社は、5年後の2009年3月に公開買付けで完全子会社化した。2005年5月のコントワー・デ・コトニエ、2006年2月のプリンセス タム・タムも傘下に入っている。
その一方で、この会社が自分でゼロからつくったブランドが1つある。ジーユーだ。
2006年3月、資本金4億5,000万円の100%子会社として設立。同年10月に千葉県市川市で1号店を開き、2009年3月の990円ジーンズで広く知られるようになった。2013年9月に上海で海外1号店、2014年9月に台湾、2017年3月に香港。そして2024年9月、ニューヨークに米国1号店を開いている。1号店から18年である。
担当者の視点で見ると
ファーストリテイリングの41件から持ち帰れるものは、「弱いところを持っている会社を、業界の外から連れてくる」という組み方だと思う。
服の会社が服の会社と組めば、できるのは服である。だがこの会社が組んだ相手は、糸をつくる東レ、ニットをまるごと編む島精機、需要を読むGoogle、倉庫を動かすダイフク、店を入れる建物を扱うザイマックス。できるのは服ではなく、服のつくり方と届け方だ。
もうひとつ。1998年10月の1,900円のフリースから数えて、この会社は28年ぶんの記録を持っている。その間に買ったブランドのいくつかは役目を終え、自分でつくったジーユーは18年かけて米国まで届いた。買うのと、つくるのとでは、時間の流れ方が違う。企画書に書くべきなのは、たぶんその違いのほうだと思う。
最後に、名乗り方の話。この会社は2018年の発表で、自分たちを「情報製造小売業」と書いた。業種の名前は、外から与えられるものではなく、自分で言い直していいものらしい。ただしこの会社は、言い直す前に相手を揃えている。そこは真似する順番を間違えないほうがいいと思う。