2025年6月、建機の位置が被災地の地図になった
2025年6月27日、コマツはひとつの取り組みを発表した。大規模な災害が起きたとき、自社の建設機械がいまどこにあるかを、一般社団法人日本建設機械施工協会を通じて国土交通省へ無償で渡すというものである。
対象になるのは、被災地を中心とする約100キロメートル四方のエリアにあり、所有者が参加に同意した建機。渡すのは緯度・経度、機種・型式、標準バケット容量、データ取得日時で、24時間ごとに集めて更新し、7日間続ける。災害の規模によっては期間を縮めたり延ばしたりする。
この位置情報がどこから来ているかというと、Komtrax(コムトラックス)という仕組みである。機械の位置や稼働状況を遠隔で把握するもので、同じ発表にこう書いてある。「現在約25万2千台のKomtrax装備車両が国内で稼動しています」。
そのKomtraxを、コマツが建設機械へ標準で載せ始めたのは2001年7月だった。
事業稼働チャート
この記事では、コマツの41件を「1本の幹から数える」やり方で読んでみます。
2001年に始まったのは、機械を売ることでも、新しい機械をつくることでもありません。「いま、うちの機械がどこで何をしているか」を測り始めたことです。
24年後、その測り続けたものが、災害の現場で「どこに重機があるか」を答える地図になっています。始めたときには、たぶん誰も、この使い道を書いていません。
建設機械に通信機を積んで、その機械の位置・稼働時間・燃料の残りなどを離れた場所から見られるようにする仕組みです。もともとは持ち主が自分の機械の様子を知るためのものでしたが、機械の台数が増えると、その集まりが日本中の重機の分布を示す地図としても読めるようになりました。
無人ダンプは、世界初から1,000台まで18年かかっている
幹から伸びた枝のうち、いちばん太いのが無人ダンプだ。
2008年1月、コマツは鉱山向けの無人ダンプトラック運行システム(AHS)を世界で初めて商用導入した。最初の現場はチリで、相手はコデルコである。2017年末までの累計運搬量は15億トンだった。
そこから9年たった2026年4月22日、コマツは累計導入台数が1,000台に達したと発表した。超大型の無人ダンプを1,000台動かした会社は、これが世界で初めてになる。累計運搬量は115億トン。2024年の社会的インパクトは、世界全体で約24億ドルと試算している。
2008年から2026年まで、18年である。
「世界初」と「1,000台」の間の18年を、企画書に書いておいてください。
新規事業の説明では、世界初の日と、いまの数字だけが並びます。その間にどれだけの年数があったかは、たいてい省かれます。
コマツの無人ダンプは、2008年に1つ目の現場が動き、2017年末で15億トン、2026年に1,000台・115億トンです。最初の1台と1,000台目のあいだには、18年ぶんの現場がある。そこを飛ばさずに書けると、社内での時間の交渉がしやすくなると思います。
測ったデータが、売り物の形を変えていった
Komtraxの枝は、鉱山だけに伸びたわけではない。
2013年4月、コマツはトプコンと共同開発したICTブルドーザー「iMC」を発表した。ブレード(土を押す刃)が自動で動く世界初の建機で、同年6月に北米から売り始めている。
2015年2月にはスマートコンストラクションを開始した。測量から施工、検査までを3次元データでつなぐ仕組みで、ここで商う対象が変わる。機械そのものではなく、現場のつくり方を売る形になった。
2017年7月、NTTドコモ・SAPジャパン・オプティムとの4社で、建設生産のプロセスをつなぐIoT基盤LANDLOGを企画し、10月に提供を始めた。この基盤は2021年にEARTHBRAINへ引き継がれている。
そのEARTHBRAINは、2021年7月1日に発足した。出資はコマツ54.5%、ドコモ35.5%、ソニー5%、NRI5%で、資本金は153.7億円。建設業向けのデジタルソリューションを開発・提供する会社である。
未確認事業年表
- 2001.07Komtraxを建機に標準搭載開始機械の位置や稼働状況を遠隔で把握する仕組み。2025年時点で国内約25万2千台が動く事業基盤に育った継続中
- 2008.01無人ダンプ運行システムAHSを市場導入鉱山向け無人ダンプの運行システムを世界で初めて商用導入。チリのコデルコで稼働を始めた継続中
- 2008.06ハイブリッド油圧ショベルを投入旋回時の回生エネルギーを蓄えて使う油圧ショベルを、世界で初めて市場導入した継続中
- 2013.04ICTブルドーザーiMCを発表トプコンと共同開発。世界初の全自動ブレード制御を持つD61EXi/PXi-23を6月に北米から売り始めた継続中
- 2015.02スマートコンストラクションを開始測量から施工、検査までを3次元データでつなぐ仕組み。建機を売る事業から現場全体へ広げた継続中
- 2016.07米ジョイ・グローバル買収に合意1株28.3ドル、企業価値約28億9,100万ドル。地下鉱山機械を取り込む合意をした継続中
- 2017.04ジョイ・グローバル買収を完了4月5日(現地時間)に完了。取得対価は約28億2,000万ドルで、社名をコマツマイニングに変えた継続中
- 2017.07LANDLOGの共同企画・運用を決定NTTドコモ・SAPジャパン・オプティムとの4社でIoT基盤を企画し10月に提供開始。2021年にEARTHBRAINへ引き継いだ役目を終えた
- 2018.07マレーシアでUMWと販売合弁を設立UMW社と販売合弁をつくりコマツは26%を出資。5カ国の販売を担った役目を終えた
- 2019.02米林業機械TimberProを買収2002年設立の米ウィスコンシン州の林業機械メーカー。4月1日に完了し、伐採機を品ぞろえに加えた継続中
- 2019.07ランドデータバンクを設立INCJや三井住友銀行らと資本金4億円で設立し、コマツは15%を出資。現場データを使う金融機能を担う継続中
- 2020.03電動ミニショベルPC30E-5を投入バッテリー式のミニショベルを国内レンタル向けに市場導入。電動建機事業の第一歩となった継続中
- 2020.10レトロフィットキットをミニショベルへ4月に6トン以上向けで始めた後付けICTキットを、11月から6トン未満へ広げた継続中
- 2021.01米Proterraと電動化の実証を開始米電池メーカーと中小型油圧ショベルの電動化に向けた共同実証を始めた継続中
- 2021.07EARTHBRAINを設立コマツ54.5%、ドコモ35.5%、ソニー5%、NRI5%。資本金153.7億円で7月1日に発足した継続中
- 2021.10地下鉱山機械の電動化でProterraと協業Proterra社の電池を使い、バッテリー式LHDやドリル、ボルターを開発する協業を発表した継続中
- 2022.06スウェーデンBracke Forestを買収1922年創業の育林用アタッチメントメーカー。7月1日に完了し、植林や地拵えの機械を加えた継続中
- 2022.12独GHHグループの買収を発表1960年代創業の地下鉱山機械メーカー。2024年7月1日に完了し、4地域の生産・再生拠点を得た継続中
- 2023.04中央アジアに販売子会社を設立カザフスタンのアスタナに100%出資で設立し8月に営業開始。中央アジア6カ国を担う継続中
- 2023.09電動ミニショベルPC30E-6を発売3トンクラスの電動ミニショベルを10月に国内発売。価格1,200万円、年間50台の販売を目標とした継続中
- 2023.11米電池メーカーABSを買収2019年設立の米ミシガン州のリチウムイオン電池パックメーカー。12月1日に完了した継続中
- 2023.12豪iVolveを買収し運行管理事業を拡大中小鉱山や採石場向けの運行管理システムの会社。大規模鉱山向けと建設向けの間を埋めた継続中
- 2024.05建機の遠隔操作システムを発売EARTHBRAINと共同開発。1台のコックピットから複数の建機を切り替えて操作できる継続中
- 2024.08ヴァーレらとデュアル燃料事業を開始ブラジルのヴァーレ、米カミンズと組み、エタノール混合燃料でCO2を最大70%減らす計画継続中
- 2024.08マレーシアUKHEを完全子会社化UMWが持つ74%を取得し出資比率100%に。2025年に4カ国の販売事業を新しい合弁へ渡した役目を終えた
- 2024.09バッテリー式LHD WX04Bを投入MINExpo 2024で初のバッテリー式LHDを発表。1回の充電で最大4時間稼働する継続中
- 2025.02ブリヂストンと鉱山向け実証を開始タイヤ管理iTrackとKomtrax Plusのデータを組み合わせ、燃費とタイヤの摩耗を抑える実証を始めた継続中
- 2025.04遠隔操作の移動式DXオフィスを発売遠隔操作システムを積んだ車両型オフィス。ベース車両は2種類から選べる継続中
- 2025.05欧州式林業機械を国内で試験導入ハーベスタとフォワーダの2機種を約1年間、北海道・本州・九州で試験導入した継続中
- 2025.06災害時にKomtraxの位置情報を提供日本建設機械施工協会を通じ国土交通省へ無償提供。約100キロ四方が対象で、24時間ごとに更新し7日間続ける継続中
- 2025.06パキスタンに鉱山サービス会社を設立バリック社と5年間で4億4,000万ドルの機械供給で合意し、現地会社を設立した継続中
- 2025.07パワーアグノスティック車両の実証開始動力源を後から替えられる930Eダンプをスウェーデンの鉱山へ納入し、12カ月の実証を始めた継続中
- 2025.09Applied Intuitionと自律化で提携鉱山機械向けのソフトウェア定義車両・自律化基盤を共同開発する提携を結んだ継続中
- 2025.09ティアフォーらと自律ダンプを開発ティアフォー、EARTHBRAINとの3社で開発。2027年度の実用化を目指す継続中
- 2025.11東南アジア4カ国で販売合弁を拡大タイのBangkok Motor Works社と合弁化。BMWが60%、コマツが40%を出資する継続中
- 2026.02水素燃料電池ショベルの現場実証大林組・岩谷産業と長野の高速道路現場で国内初の実証。ディーゼル機と同等の作業性能を確認した継続中
- 2026.02米SRCの部品再生事業を取得2009年設立の米ケンタッキー州の部品再生会社。再生事業の取扱高は2010年比で約4倍に伸びている継続中
- 2026.03スウェーデンMalwa Forestを買収2009年創業の小型林業機械メーカー。4月1日に完了し、間伐向けの軽量機を加えた継続中
- 2026.04自律ダンプの累計導入が1,000台に超大型無人ダンプの累計導入が業界で初めて1,000台に到達。累計運搬量は115億トン継続中
- 2026.07米AIMと自律施工で戦略提携ブルドーザー・油圧ショベルの自律運転で提携。日本では2027年以降の展開を計画する継続中
- 2026.07シンガポールで本格展開を開始チャンギ空港ターミナル5建設プロジェクトへ導入。総開発面積は約1,080ヘクタール継続中
2024年5月には、EARTHBRAINと共同開発した油圧ショベルの遠隔操作システムを発売した。1つのコックピットから複数の建機を切り替えて操作できる。2025年9月にはティアフォー、EARTHBRAINとの3社で自動運転ダンプの開発を発表し、2027年度の実用化を目指している。
そして2026年7月8日、シンガポールのチャンギ空港ターミナル5の建設プロジェクトで、スマートコンストラクションの本格導入が始まった。総開発面積は約1,080ヘクタール、10.8平方キロメートルである。
ここで、25年ぶんの変化を1行にしてみます。
2001年に売っていたのは建設機械でした。2026年に引き受けているのは、10.8平方キロメートルの現場です。
その間をつないでいるのは、新しい発明というより、測り続けたという事実のように見えます。機械の位置と稼働を25年ぶん持っている会社だから、現場ごと引き受ける話ができる。順番が逆だったら、たぶん難しかったと思います。
買うものにも、同じ筋が通っている
41件のうち10件が、買収や事業の取得である。並べてみると、行き先がはっきり分かれている。
ひとつは地下と鉱山だ。2017年4月に米ジョイ・グローバルの買収を完了し(取得対価は約28億2,000万ドル)、社名をコマツマイニングに変えた。2022年12月に発表した独GHHグループは2024年7月1日に完了し、欧州・南アフリカ・インド・チリの4地域に拠点を得た。2023年12月には豪iVolveを買収し、中小鉱山向けの運行管理を手に入れている。
もうひとつは林業である。2019年2月に米TimberPro、2022年6月にスウェーデンのBracke Forest(1922年創業の育林用アタッチメント)、2026年3月にスウェーデンのMalwa Forest(2009年創業の小型林業機械)。伐る機械、植える機械、間伐の機械と、少しずつ範囲を広げている。
そして3つめが電池だ。2021年1月に米Proterraと電動化の実証を始め、2023年11月には米ミシガン州のリチウムイオン電池パックメーカーABSを買収した。2024年9月には初のバッテリー式LHD「WX04B」を発表している。
担当者の視点で見ると
コマツの41件から持ち帰れるものは、「測り始めた日を、事業の起点として数える」という見方だと思う。
2001年7月にKomtraxを標準搭載したとき、それは新規事業として発表されたわけではない。機械の稼働を管理する仕組みである。だがその後の25年、この会社が始めたことのかなりの部分が、そこから枝分かれしている。無人ダンプも、ICT建機も、スマートコンストラクションも、災害時の位置情報も、「機械がどこで何をしているかを知っている」という一点の上に載っている。
いま自分の担当する事業に、地味に溜まり続けているデータがあるなら、それは25年後の何かの土台かもしれない。大事なのは、使い道が決まる前から測り続けられるかどうかだと思う。
もうひとつ。2025年6月の災害時の位置情報提供は、コマツが単独でやっているのではない。日本建設機械施工協会を通じて国土交通省へ渡す形をとり、参加するかどうかは建機の持ち主が決める。25年かけて集めたデータを外へ出すときに、誰を間に立て、誰に決めてもらうかまで設計されている。データを持つ会社が次に考えることは、たぶんそこだ。