2013年7月2日、売れたのは16品だった
2018年7月2日、メルカリは提供開始から5年の節目に、数字をまとめた発表をしている。そこに、いちばん最初の日のことが書いてある。
2013年7月2日。この日に取引されたのは「わずか16品」、金額は「総額約2万円」だった。
同じ発表に、5年後の数字が並んでいる。ダウンロード数は2018年3月31日時点で日本7,100万、米国3,750万、世界合計1億800万。1日の平均流通総額は約10億円を超え、1時間あたりの取引回数は約6,400回。この5年間で取引された件数は累計約2.8億回である。
そして2026年6月18日、メルカリは米国でグローバルアプリの提供を始めたと発表した。そこに書かれている数字が「40億品を超える」。初日の16品から数えて、13年が経っている。
事業稼働チャート
この記事では、メルカリを「数字の会社」として読んでみます。
16品、500万、6,000万、1億800万、2,000万人、2,260万人、2,300万人、900億円、40億品。年表を並べていて気づくのは、この会社の発表には、ほぼ必ず数字が入っていることです。
しかも、その数字の置き場所が決まっています。新しい事業を出すときの発表に、いまの利用者数が添えてある。次の章で、そこを見ていきます。
新しい事業を出すたびに、「いま何人いるか」を添えている
2014年9月16日、メルカリは米国版の提供開始を発表した。この発表の題は、米国版のことだけではない。日本での累計500万ダウンロードと、米国版のローンチが、ひとつの発表になっている。米国子会社はその年の3月にサンフランシスコに設けられ、9月12日(現地時間)にiOSとAndroidで始まった。
2017年3月16日の英国版の発表も同じ形だ。「昨年12月には日米合計6,000万ダウンロード(内訳:日本4,000万、アメリカ2,000万)を突破」と書いたうえで、3月15日(現地時間)に英国で始めたと続けている。
2021年10月7日、メルカリShopsの本格提供の発表には「月間利用者2,000万人超」。2023年11月13日、スポットワークのメルカリ ハロの発表には「月間利用者は約2,260万人」。2024年2月15日、ビットコイン決済の発表には「月間2,300万人」。
社内で新しい企画を通すとき、メルカリのこの型はそのまま使えると思います。
「何をやるか」の前に、「いまここに何人いるか」を1行置く。米国版なら500万ダウンロード、メルカリShopsなら月間2,000万人、ハロなら月間約2,260万人。
新規事業の企画書は、たいてい市場規模の話から始まります。でも社内でいちばん強い数字は、その会社がすでに持っている数字です。外の市場より、手元の人数のほうが、決める人には近いところにあります。
2019年から、数え方の単位が変わっている
数字の伸ばし方には、途中で切り替わったところがある。
2019年11月15日、メルカリはBuyeeと連携して越境販売を始めた。世界100以上の国・地域へ、日本のメルカリの品を売れるようにする仕組みである。ここまでは、国ごとにアプリを出す形だった。米国版が2014年、英国版が2017年である。
2025年9月30日、メルカリは「メルカリ グローバルアプリ」を台湾・香港で始めた。国ごとの別アプリではなく、日本のメルカリとメルカリShopsの品を海外から買える、世界共通のアプリという形をとっている。この発表に添えられた数字が「年間900億円を超える規模」の越境取引だ。目標は「3年以内に50以上、中長期的には100以上の国や地域へ展開」。
そして2026年6月17日(米国時間)、同じアプリの米国での提供が始まった。台湾・香港に次ぐ3つ目である。数字は「40億品を超える」出品、目標は「2028年までに50以上」「中長期的には100以上の国と地域」。
国境をまたいで、ものを売り買いする通販のことです。難しいのは商品を送ることそのものより、言葉・お金の払い方・関税などの手続きでした。メルカリのグローバルアプリは、そこをアプリ側でまとめて引き受け、買う人が日本のメルカリと同じように買える形にしています。
器のほうも、この間ずっと増えている。2017年11月20日にメルペイ、2018年7月2日にメルペイコネクト、2021年1月28日にソウゾウ、2021年4月28日にメルコイン、2021年7月2日にBassetを子会社化、2022年5月11日にインドの開発拠点。決済、EC支援、暗号資産、開発。数字が増えるのに合わせて、それを扱う会社を別に立てている。
未確認事業年表
- 2013.07フリマアプリ メルカリ を提供開始7月2日の初日に売れたのは16品、総額で約2万円。5年後の累計取引数は約2.8億回になった継続中
- 2014.09米国でメルカリの提供を開始3月にサンフランシスコへ子会社を設立し、9月12日(現地時間)に米国版を提供開始。日本500万ダウンロードと同時の発表継続中
- 2016.03約84億円の資金調達を実施三井物産や日本政策投資銀行などから調達。創業以来の調達総額は約126億円になった継続中
- 2016.03地域コミュニティアプリ メルカリ アッテ を開始子会社ソウゾウが3月17日に提供開始。地域の人とものやスキルをやりとりするCtoCアプリだった役目を終えた
- 2017.03英国でメルカリの提供を開始Mercari Europeを通じ3月15日(現地時間)に提供開始。前年12月の日米合計6,000万ダウンロードが背景にあった役目を終えた
- 2017.05本・CD特化アプリ メルカリ カウル を開始ソウゾウが5月9日に提供開始。本やCDをバーコードで出品できるアプリだった役目を終えた
- 2017.11決済子会社 株式会社メルペイ を設立11月20日に金融・決済事業を担う100%子会社として設立した継続中
- 2017.11即時買取サービス メルカリNOW を開始11月27日に開始。1日100万品以上の出品データをもとに査定し、すぐ現金化できる仕組みだった役目を終えた
- 2018.02シェアサイクル メルチャリ を開始ソウゾウが2月27日に福岡市で開始。ポート50カ所・自転車400台超、1分4円で提供した役目を終えた
- 2018.05メルカリ アッテ の提供を終えた5月31日に提供を終えた。グループの経営資源を主力サービスへ集めるためとした役目を終えた
- 2018.06東証マザーズに上場6月19日に新規上場。2013年2月の創業から約5年4カ月だった継続中
- 2018.07株式会社メルペイコネクト を設立メルペイが7月2日に資本金1億円を全額出資して設立。加盟店開拓など法人向けを担う継続中
- 2018.08メルカリNOW の提供を終えた7月21日の発表で示した3サービスのひとつ。8月20日に提供を終えた役目を終えた
- 2018.08teacha の提供を終えたスキルシェアサービス。同じ発表の中で示され、8月21日に提供を終えた役目を終えた
- 2018.08メルカリ メゾンズ の提供を終えたブランド品に特化したサービス。同じ発表の中で示され、8月31日に提供を終えた役目を終えた
- 2018.10マイケル株式会社を完全子会社化10月18日に株式交換で完全子会社とすることを決議した継続中
- 2018.12メルカリ カウル の提供を終えた12月17日に提供を終えた。バーコード出品など主要な機能はメルカリ本体へ移した役目を終えた
- 2018.12英国事業の終了を決めた12月18日に英国子会社2社の解散を決議し、英国での提供を終えた役目を終えた
- 2019.02スマホ決済 メルペイ を提供開始2月13日にiOS先行で提供開始。三井住友カードと連携しiDに対応、全国約90万カ所で使えるようにした継続中
- 2019.06メルチャリ事業を譲渡した6月13日に新設会社neuetへ承継し、事業を次へ渡した役目を終えた
- 2019.07鹿島アントラーズの経営権を取得7月30日に日本製鉄と株式譲渡契約を締結し、発行済株式の61.6%を取得した継続中
- 2019.11越境販売を開始11月15日にBuyeeと連携し、世界100以上の国・地域への越境販売を始めた継続中
- 2020.01Origamiを買収1月23日に発表し、2月25日にメルペイが全株式を取得した継続中
- 2021.01新規事業会社 ソウゾウ を設立1月28日に資本金5,000万円の100%子会社として設立。代表は石川佑樹継続中
- 2021.04暗号資産の子会社 メルコイン を設立4月28日に資本金5,000万円の100%子会社として設立した継続中
- 2021.07ブロックチェーン分析のBassetを子会社化7月2日にメルコインが全株式を取得。暗号資産の資金移動を監視する技術を持つ継続中
- 2021.07メルカリShops をプレオープン7月28日にソウゾウがEC化支援へ参入。初期費用と月額費用は無料、販売手数料は10%とした継続中
- 2021.10メルカリShops の本格提供を開始10月7日にすべての事業者が出店可能に。月間利用者2,000万人超のメルカリ上に開ける形継続中
- 2022.05インドに開発拠点の設立を決定5月11日に発表。ベンガルール市に現地法人を設け、日米事業を支える開発拠点とした継続中
- 2022.06東証プライム市場へ移行6月7日にグロース市場からプライム市場へ移行した継続中
- 2022.11クレジットカード メルカード を開始11月8日にメルペイがJCBブランドで提供開始。年会費は永年無料継続中
- 2023.03ビットコイン取引サービスを開始メルコインが3月9日に開始。1円から購入でき、本人確認済みなら最短30秒で始められる継続中
- 2023.10メルカリShops で越境販売を開始10月30日に開始。越境EC事業者は新たに39社が加わり計50社になった継続中
- 2023.11スポットワーク事業への参入を発表11月13日に メルカリ ハロ を発表。月間利用者約2,260万人の基盤を生かす形だった役目を終えた
- 2024.02ビットコイン決済に対応メルコインが2月15日に開始。月間2,300万人が使うメルカリで、持っているビットコインを買い物に使える継続中
- 2024.03メルカリ ハロ の提供を開始3月6日に1都3県で開始。16日後の3月21日に登録者数100万人を突破した役目を終えた
- 2025.01メルカリNFT の提供を開始1月28日に開始。購入時の取引手数料は無料、販売時は10%とした継続中
- 2025.01オークション機能の提供を開始1月29日に開始。最初の入札の翌日20時台に購入者が決まる仕組みにした継続中
- 2025.03MVNO メルカリモバイル を開始3月4日にiOS先行で提供開始。docomo回線で2GB月990円、20GB月2,390円。余ったギガを1GB200円から売買できる継続中
- 2025.09メルカリ グローバルアプリ を開始9月30日に台湾・香港で提供開始。越境取引は年間900億円を超える規模になっていた継続中
- 2025.10メルカリ ハロ の提供終了を発表10月に発表し、12月18日に提供を終えた。市場環境とサービスの利用状況から総合的に判断したとしている役目を終えた
- 2026.06米国でグローバルアプリを提供開始6月17日(米国時間)に米国で提供開始。累計40億品を超える出品を海外から買えるようにした継続中
- 2026.07リユースサービス m department を開始7月14日に提供開始。認定事業者88社が参加し、検査・修理・真贋鑑定を経た品を扱う継続中
次へ渡したものにも、同じだけ数字が残っている
44件のうち15件が、役目を終えたか、次へ渡したものである。そしてその15件にも、始まりの日の数字がちゃんと残っている。
2016年3月17日、子会社ソウゾウが地域コミュニティアプリ「メルカリ アッテ」を始めた。当時のリリースには「株式会社ソウゾウ(本社:東京都港区、代表取締役社長:松本龍祐)」とある。アッテは2018年5月31日に提供を終えた。
2018年7月21日、メルカリは3つのサービスについて発表している。メルカリNOWが8月20日、teachaが8月21日、メルカリ メゾンズが8月31日。理由はこう書かれている。「これらのサービスを終了するとともに一部の機能を『メルカリ』のサービスに追加していくなどの経営資源の再配置を行い」。2018年12月17日に提供を終えたメルカリ カウルも、バーコードで出品する機能はメルカリ本体へ移っている。
メルカリ ハロの数字は、いちばんはっきりしている。2024年3月6日に1都3県で始まり、16日後の3月21日に登録者数100万人を突破した。2025年10月に提供終了を発表し、12月18日に提供を終えた。理由は「市場環境の変化やサービスの利用状況などから総合的に判断」とされている。
ここは、読み方を間違えたくないところだと思っています。
16日で100万人という数字は、提供を終えたからといって消える数字ではありません。スキマ時間に働きたい人が、16日で100万人集まったという事実は、そのまま残ります。
ソウゾウという会社の名前も同じです。2016年のアッテのリリースにも、2021年1月28日に設立された新規事業会社のリリースにも、同じ「株式会社ソウゾウ」という名前が載っています。名前は、二度使われています。
担当者の視点で見ると
メルカリの44件から持ち帰れるものは、「自分の手元にある数字を、次の一手の説明に使う」という型だと思う。
この会社は、新しい事業を出すたびに、その時点の利用者数を発表に添えてきた。500万ダウンロードだから米国へ、6,000万ダウンロードだから英国へ、月間2,000万人だからShopsを、月間2,260万人だからスポットワークを。次に何をやるかの根拠を、外の市場ではなく、自分たちがすでに持っている数の中から取り出している。
これは規模の大きい会社の話ではない。初日は16品だった。16品を数えて発表に載せる会社が、13年後に40億品を数えている。数え始めるのに、大きさは要らない。
新規事業の担当になったばかりの方が、いますぐ真似できることがあるとすれば、それは「自分の事業のいちばん小さい数字を、いま記録に残しておくこと」だと思う。5年後の発表で使うのは、たぶんその数字だ。