1か月違いで、2つのことが起きた
2023年2月7日、三菱重工は三菱航空機が進めてきた国産ジェット旅客機の開発活動を終えると決議した。半世紀ぶりの国産旅客機として2008年に事業化を決め、名前をMRJからスペースジェットへ変えながら続けてきた開発である。
その1か月後、2023年3月7日。同じ会社が、種子島から新しい機体を打ち上げている。JAXAと共同開発した新型基幹ロケット、H3の試験機1号機だ。
1号機は目指した軌道に届かなかった。翌2024年2月17日、試験機2号機で打ち上げに成功している。そこから先は速い。2025年10月26日には新型無人補給機HTV-X1を国際宇宙ステーションへ運び、2026年7月には、ispaceの新型月着陸船ULTRAを2028年に打ち上げる輸送サービス契約を結んだ。
事業稼働チャート
この2つを別々のニュースとして読むと、たぶん見誤ります。
旅客機の開発が区切りを迎えた月と、ロケットが飛んだ月は、1か月しか離れていません。同じ会社の、同じ「日本の空を自分たちの手で飛ばす」という仕事です。
行き先が、空から宇宙に変わった。私はそう読んでいます。やってきたことは、どこへも消えていません。
会社を13回つくって、8回たたみ直している
46件の記録を並べていて、いちばん目につくのは事業そのものではない。この会社は、事業を動かす「器」のほうを、何度も作り替えている。
年表の中で「設立」「分社」「発足」と書かれている動きが13回。「統合」「完全子会社化」「非公開化」と書かれている動きが8回ある。つくっては寄せ直し、また分ける。この往復が14年のあいだずっと続いている。
いちばん分かりやすいのが火力発電だ。2014年2月、日立と事業を統合した合弁会社「三菱日立パワーシステムズ」が発足した。国内9社・海外49社の計58社体制である。2020年9月、日立の持ち分を取得して出資比率を100%とし、社名を三菱パワーに変えた。そして2021年10月1日、その三菱パワーを本体へ統合した。
合弁でつくり、完全子会社にし、最後は本体に戻す。7年で3つの形を通っている。
会社の中のひとつの事業を切り出して、別の会社にすること。判断を早くしたり、その事業だけの採用や給与の仕組みを作れる利点があります。一方で、本体との連携は弱くなりやすく、あとから本体へ戻す例も少なくありません。
分社の側も同じくらい多い。2016年10月に空調・冷熱を三菱重工サーマルシステムズへ、2018年1月に船舶事業を三菱造船と三菱重工海洋鉄構の2社へ、2021年9月に艦艇・官公庁船を三菱重工マリタイムシステムズへ。それぞれ資本金も従業員数も違う、別々の器として立てられている。
ここは実務でいちばん効く話だと思います。
新規事業を始めるとき、私たちは「何をやるか」から考えます。でも三菱重工の記録を見ると、先に「どの器でやるか」を決めているように見えるのです。
本体の中でやるのか、分社するのか、合弁にするのか。器が違えば、決められる人も、使えるお金も、採れる人も変わります。企画書に器の話が1行も入っていないなら、そこは書き足したほうがいいと思います。
合弁は、解くときに何を受け取るかで決まる
合弁の出口についても、この会社の記録は具体的だ。
2020年10月、三菱重工はMHIヴェスタス・オフショア・ウィンドの保有株50%をヴェスタスへ渡した。そのときの対価が現金ではない。ヴェスタス本体の株式約500万株、2.5%分である。洋上風車をつくる合弁からは離れつつ、その分野で世界最大手になった相手の株主として残った形になる。
2021年2月には、三菱重工70%・ヴェスタス30%出資の販売会社MHIヴェスタスジャパンが営業を始めている。つくる側からは離れ、日本で売る側としては組み続けている。
2025年11月には、1980年代から11カ国に4,200基を納めてきた国内の陸上風力発電設備事業を、電源開発へ渡すことで合意した。2026年4月1日の完了を目指している。
合弁を始めるときに、「解くときに何を受け取るか」を先に書いておいてください。
現金で受け取るのか、相手の株で受け取るのか、事業だけを渡して販売権は残すのか。三菱重工の洋上風力は、株で受け取って、販売会社としては組み続ける形にしています。
始めるときの出資比率は必ず議論されるのに、解くときの受け取り方は、たいてい議論されません。ここが後から効いてきます。
2023年以降、行き先がひとつに寄っている
46件のうち20件が、2023年以降の3年半に集まっている。そしてその行き先は、はっきり2つに寄っている。データセンターの電源と、宇宙輸送だ。
データセンターのほうは順を追える。2023年10月、北米で産業用電源システムを手がける米コンセントリック社の全株式を取得した。2025年5月16日、テキサス州ダラスに事業拠点を置いた。2025年7月には世界250件超の導入実績を持つ米モディウス社のDCIM基盤と、自社の発電・受配電・冷却技術を組み合わせる提携を発表した。2026年3月、横浜のYokohama Hardtech Hubで、ソフトバンクのAITRASを組み合わせたAI-RANの実証を始めている。
発電機をつくってきた会社が、電気を売るのではなく、電気を大量に食う建物ごと請け負う側へ動いている。
未確認事業年表
- 2012.12米P&Wの中小型ガスタービン事業を買収航空エンジン大手P&Wの中小型ガスタービン部門PWPSを買収。従業員約430人と航空転用ガスタービン1,700台超の納入実績を引き継ぎ、伊ターボデン社も傘下に加えた継続中
- 2014.02三菱日立パワーシステムズが発足日立と火力発電システム事業を統合した合弁会社が発足。国内9社、海外49社の計58社体制で世界首位を目指したが、2020年に日立との合弁を解消した役目を終えた
- 2016.10三菱重工サーマルシステムズを設立空調・冷熱事業を分社し全額出資の新会社として10月1日に営業を開始。資本金120億円、従業員約600人でターボ冷凍機や輸送用冷凍機、ヒートポンプを手がける継続中
- 2017.01ユニキャリアを完全子会社化M-FETがニチユ三菱フォークリフトの議決権を51%に高め、保有するユニキャリア株65%を同社へ移して完全子会社化。物流機器事業の統合作業を加速した継続中
- 2017.10三菱ロジスネクストが営業を開始ニチユ三菱フォークリフトとユニキャリアが合併して発足。資本金約48億9,000万円、従業員1万600人でフォークリフト世界3位の総合物流機器メーカーとなった継続中
- 2017.10NTTデータMHIシステムズを設立情報システム事業でNTTデータと合弁会社を設立し10月1日に発足。出資はNTTデータ51%、三菱重工49%で、資本金4,000万円、従業員は約930人となった継続中
- 2018.01三菱造船と三菱重工海洋鉄構を分社船舶事業を2社に分割し1月1日に発足。三菱造船は資本金30億円・従業員約900人、三菱重工海洋鉄構は資本金3億円・約600人で役割を分けた継続中
- 2018.01仏フラマトム社への出資を完了原子炉機器を手がける仏フラマトムに19.5%を出資して手続きを完了。仏EDFやアレバと組み、第三世代炉ATMEA1の世界展開で連携する体制をつくった継続中
- 2019.06ボンバルディアのCRJ事業を取得カナダのボンバルディアから小型旅客機CRJの整備・顧客支援・型式証明事業を取得する契約を締結。対価は現金5億5,000万米ドルと約2億米ドルの債務引き受け継続中
- 2019.10プライメタルズを完全子会社化へシーメンスが保有する製鉄機械合弁プライメタルズ株49%を取得し、三菱日立製鉄機械の100%子会社とすることで合意。2020年初めの完了を目指した継続中
- 2020.06MHI RJ Aviationが事業を開始ボンバルディアからのCRJ事業取得を完了し、6月1日にMHI RJ Aviation Groupとして始動。取得額5億5,000万米ドルの案件で整備・顧客支援事業に参入した継続中
- 2020.09三菱パワーへ社名変更し100%子会社化日立が持つ三菱日立パワーシステムズ株を取得して出資比率100%とし、9月1日付で三菱パワーへ社名を変更。同社は2021年10月に三菱重工本体へ統合された役目を終えた
- 2020.10洋上風力合弁の持分をヴェスタスへ譲渡MHIヴェスタス・オフショア・ウィンドの保有株50%を譲渡し、対価としてヴェスタス株約500万株(2.5%)を取得。2020年に洋上風車の合弁を終えた役目を終えた
- 2020.10共創空間Yokohama Hardtech Hubを開設横浜製作所内に延床面積約2万平方メートルの共創空間を開設。天井高8メートル超のクレーンや試験設備を開放し、スタートアップや自治体との連携拠点とした継続中
- 2020.10ノルウェーHydrogenPro社に出資水電解装置メーカーの新規発行株を引き受けて出資。同社は9,000kW級(水素製造能力4.4トン/日)を持ち、10万kW級への大型化を進めている継続中
- 2021.01米インフィニウム社に出資CO2と再生可能エネルギーから合成燃料をつくる技術に出資。アマゾンの気候変動対策基金など3社とともに引き受け、航空や船舶向けの脱炭素燃料領域に入った継続中
- 2021.02MHIヴェスタスジャパンが営業開始三菱重工70%、ヴェスタス30%出資の販売会社が2月1日に営業を開始。陸上・洋上の風力発電設備の国内販売と関連する技術サポートを手がける継続中
- 2021.08工作機械事業を日本電産へ譲渡した2021年2月5日の契約に基づき、三菱重工工作機械の株式譲渡を8月2日に完了。中国とインドの現地法人も含め、2021年に工作機械事業を譲渡した役目を終えた
- 2021.09三菱重工マリタイムシステムズを設立艦艇・官公庁船を担う新事業会社を資本金5億円の全額出資で設立。本社を岡山県玉野市に置き、2021年10月1日から営業を開始した継続中
- 2021.09ドバイ地下鉄の運行会社に参画仏ケオリス70%、三菱重工エンジニアリング25%、三菱商事5%出資の運行会社が発足。従業員1,850人で2路線90キロのドバイメトロを最長15年運営する継続中
- 2021.10三菱パワーを三菱重工に統合した火力発電を担う三菱パワーを10月1日付で本体へ統合。2020年9月の完全子会社化から1年でグループ体制を一本化し、同社は独立法人としての事業を終えた役目を終えた
- 2022.11三社電機製作所と資本業務提携パワー半導体に強い三社電機製作所の普通株式133万5,000株、議決権比率10.04%を取得。エネルギー転換と社会インフラのスマート化で共同開発を進める継続中
- 2022.11三菱重工エンジニアリングを統合子会社の三菱重工エンジニアリングを吸収分割で本体に統合すると発表し、2023年4月1日に実施。社長直轄組織としてエナジートランジション事業を加速した役目を終えた
- 2022.12三菱電機と発電機事業の統合を検討発電機事業を統合する合弁会社の設立へ詳細協議を開始することで基本合意。三菱電機が過半、三菱重工が少数を出資する形を想定し、2社で世界競争力を高める継続中
- 2023.02スペースジェットの開発を終えた三菱航空機が進めてきた国産リージョナルジェットの開発活動を2月7日付で終了すると決議。2023年に開発を終え、連結・個別とも業績への影響は軽微とした役目を終えた
- 2023.03H3ロケット試験機1号機を打ち上げJAXAと共同開発した新型基幹ロケットの試験機1号機を3月7日に打ち上げた。2024年2月17日の試験機2号機で打ち上げに成功し、輸送サービスを本格化した継続中
- 2023.10米テラパワー社と高速炉で協力を拡大ナトリウム冷却高速炉の覚書を拡大し、電気出力34.5万kWのNatriumと日本の65万kW級実証炉の開発で情報交換や許認可戦略の支援を進める継続中
- 2023.10米コンセントリック社の買収を完了北米で産業用電源システムを手がける同社の全株式100%をオンポイント・グループから取得し10月2日に完了。データセンター向け電源事業の基盤とした継続中
- 2023.11米エレメントエナジー社に出資2019年にシリコンバレーで創業した蓄電技術の新興企業に出資し覚書も締結。新品・中古電池の制御技術を組み合わせ、需要家向け電力ソリューションを開発する継続中
- 2024.02米ファーボエナジー社に出資次世代地熱技術を持つ米企業へ、デボン・エナジーなど2社と共同で出資。ユタ州で建設中のCape Station事業を通じ、地熱発電の事業化を後押しする継続中
- 2024.10米コロマ社に出資し天然水素へ地下の天然水素を探査する新興企業に米国子会社を通じて出資。アマゾンの気候誓約基金やユナイテッド航空の基金など4社が並ぶ株主に加わった継続中
- 2024.12合弁MI LNGをMILESへ社名変更今治造船との合弁会社を2025年1月1日付でMILESへ改称。2013年4月設立の同社はLNG船設計から一般商船、液化CO2輸送船の設計まで領域を広げた継続中
- 2025.05米ダラスにデータセンター事業拠点米国子会社MHIAの一部門として5月16日にテキサス州ダラスへ新拠点を設置。2023年に買収したコンセントリック社と合わせ、次世代電源の開発を進める継続中
- 2025.07米モディウス社とDCIMで提携世界250件超の導入実績を持つDCIM基盤OpenDataを、自社の発電・受配電・冷却技術と組み合わせ、データセンター運用を最適化する提供を始めた継続中
- 2025.09三菱ロジスネクストの非公開化を決めた上場子会社の三菱ロジスネクストを完全子会社化する契約を9月30日に締結。2017年設立でフォークリフト世界3位の同社は上場廃止となる予定継続中
- 2025.11国内の陸上風力設備事業を譲渡1980年代から11カ国に4,200基を納入してきた国内の陸上風力発電設備事業を電源開発へ譲渡することで合意。2026年4月1日の完了を目指す役目を終えた
- 2026.01宇宙新会社「日本低軌道社中」に出資三菱電機とともに第三者割当増資を引き受けて出資を完了。2024年7月に三井物産が設立した同社で、ISS後を見据えた商用補給機や日本モジュールを開発する継続中
- 2026.02スイスAST Turbo社を買収三菱重工コンプレッサが2012年創業のスイス企業の全株式を取得。回転機器の据え付けや保守を担うフィールドサービスを欧州・北米・中東で広げる継続中
- 2026.02インドに空調の合弁会社を設立三菱重工サーマルシステムズが販売代理店IAPLと合弁会社を1月22日に設立。ハリヤナ州を拠点にエアコンの製造・販売を担い、地産地消の体制をつくる継続中
- 2026.03ソフトバンクとAI-RANの実証を開始横浜のYokohama Hardtech Hubで、エッジデータセンターDIAVAULTにソフトバンクのAITRASを組み合わせた実証を2社で開始。設備の故障診断AIを検証する継続中
- 2026.04豪州の次期汎用フリゲート事業に参画改もがみ型(基準排水量4,800トン)3隻の契約を締結。2025年8月の機種選定を経て長崎造船所で建造し、1番艦を2029年12月に引き渡す計画継続中
- 2026.06JALと合弁「Aero Breath」を設立JALエンジニアリング51%、三菱重工49%出資、資本金7,900万円で6月1日に設立。県営名古屋空港でリージョナル機の機体整備を2026年度に始める継続中
- 2026.06Preferred Networksと国産AIを共同開発ミッションクリティカル領域で自律AIを積む機械やシステムの共同開発を検討。2014年創業のPFNと組み、2026年度末までの資本業務提携契約を目指す継続中
- 2026.07ispaceの月着陸船をH3で打ち上げへispaceの新型ランダーULTRAを2028年に打ち上げる輸送サービス契約を締結。国産ロケットと国産着陸船を組み合わせ、民間主導の月輸送を進める継続中
- 2026.08Green AIと脱炭素支援で協業ソリューション利用パートナー契約を締結。Green AIの約5,700件の施策データベースで削減ロードマップを描き、三菱重工の製品・技術と組み合わせて中堅・中小企業へ届ける継続中
- 2026.09NECと防衛分野で戦略的提携作戦計画・指揮統制や無人アセットの領域で連携する提携を締結。新たな指揮統制システムの構築に向けて、両社の製品とサービスを組み合わせる継続中
宇宙のほうは、さきほどのH3の流れそのままだ。2026年1月には、三井物産が2024年7月に設立した宇宙新会社「日本低軌道社中」へ、三菱電機とともに出資した。国際宇宙ステーションのあとを見据えた商用補給機や日本モジュールを開発する会社である。
担当者の視点で見ると
三菱重工の記録で持ち帰れるものは、「区切りをつけたあと、そこで得たものがどこへ行くか」を追う視点だと思う。
スペースジェットの開発が終わったニュースだけを見れば、大きな挑戦がひとつ区切りを迎えた話になる。だが同じ会社は、その1か月後にロケットを打ち上げ、3年後には民間の月着陸船を運ぶ契約を結んでいる。2026年6月には、JALエンジニアリングと合弁でリージョナル機の整備会社まで立てた。旅客機そのものではないが、旅客機まわりの仕事は続いている。
器の話も同じだ。三菱パワーは合弁として発足し、完全子会社になり、本体へ統合された。器としては3回形を変えているが、火力発電の仕事は途切れていない。
事業の名前で数えると、続いたか終わったかの二択になる。仕事の中身で数えると、渡された先が見えてくる。新規事業の担当者が社内で説明するとき、この2つの数え方の違いは、そのまま評価の違いになると思う。