三菱電機の年表25件を並べて、最初に目についたのは日付のほうだった。
25件のうち20件が、2024年4月から2026年8月までの2年5か月に入っている。それより前の22年間は5件である。
その20件を、渡した側と買った側に分けると、方向がはっきりする。
渡した5件は、すべて日本の事業だった
2024年4月以降に次へ渡したものは5件ある。
2024年4月、配電用変圧器事業。名古屋製作所で手がける開発・設計・製造・販売・保守を日立産機システムへ段階的に渡すと発表し、2026年に渡し終えた。
2024年6月、物流子会社。三菱電機ロジスティクスの株式14,652,000株(66.6%)を572億76百万円でセイノーホールディングスへ。2024年10月に渡し終えている。
2025年7月、保険代理店。三菱電機保険サービスの株式をマーシュジャパンへ。2025年11月4日付で完了した。
2025年11月、モータ・ポンプ事業。愛知・新城とタイ・バンコクの2拠点で手がける三相モータ・IPMモータ、産業用ポンプ・ダイカスト事業を荏原製作所へ。2026年中に渡し終える予定とした。
2026年7月、FA産業機器子会社。ホイストなどを手がける三菱電機FA産業機器の株式を、フィンランドのKonecranesへ。完了後はKonecranesが70%、三菱電機が30%を持つ形である。
5件に共通するのは、渡したのがどれも三菱電機が日本で育ててきた事業だということである。変圧器、物流、保険、モータ、ホイスト(モータ・ポンプ事業はタイ・バンコクの拠点を含む)。相手は国内の会社が4件、海外の会社が1件だが、渡した側の中身はいずれも日本発の事業だった。
事業をいちどに渡すのではなく、製造や保守など機能ごとに順番を決めて、数年かけて相手へ移していく渡し方です。配電用変圧器事業は2024年4月に発表し、2026年に渡し終えるまで2年かけています。
渡す発表と、渡し終える日は別である。年表には「発表した月」と「完了した月」の両方を書いておく。三菱電機の5件は、発表から完了まで4か月(保険・物流)から2年(変圧器)まで幅がある。
事業稼働チャート
買った15件のうち、10件が海外の会社
同じ2年5か月に、買った・出資した・合弁を組んだものは15件ある。そのうち10件が海外の会社である。
米国が5件。2024年6月のPente Networks(企業向けのプライベートLTE/5G)、2024年10月のFormic(産業用ロボットの月額制)、2025年9月のNozomi Networks(制御システム向けセキュリティ)、2026年1月のLucend(データセンターの電力・水・CO2をAIで分析)、2026年8月のPCI Energy Solutions(エネルギー事業者向けの最適化ソフト)。
アイルランドが2件。2025年4月のAscension Lifts(ダブリン)と2026年4月のInfinity Lifts(エニス)。どちらも昇降機の新設販売・据付・保守の会社で、UAE・ドバイのAGMELCO Elevator(2025年11月)を足すと、昇降機の保守会社だけで3件になる。
残りは、2024年4月のフランス・AIRCALO(水空調)と、2024年11月のニュージーランド・Zenno Astronautics(超伝導技術で人工衛星の姿勢制御)。
金額が本人の発表に載っているのは2件。Nozomi Networksは既存持分7.0%を除く93.0%を約883百万米ドル(2025年9月10日発表、完了予定2025年中)。PCI Energy Solutionsは全持分を1,400百万米ドル(2026年8月20日発表)。どちらも円換算の記載はない。
渡した5件は日本の事業、買った15件のうち10件は海外の会社。2年5か月の年表は、この2つの向きでできている
未確認事業年表
- 2002.10DRAM事業をエルピーダへ譲渡DRAM事業をエルピーダメモリへ渡すことで基本合意し、あわせて日立製作所とのシステムLSI事業を1つにした新会社の設立も発表した。役目を終えた
- 2003.10東芝と合弁でTMEICを設立東芝と共同出資し、パワーエレクトロニクス事業を1つにした東芝三菱電機産業システム(TMEIC)を設立。出資比率は東芝50%・三菱電機50%、資本金150億円とした。継続中
- 2015.08伊デロンギの空調子会社を買収デロンギ・インダストリアル傘下のデルクリマを約902億円で買収し、クリマベネタなどを傘下に収めて冷凍空調事業を新興国へ広げた。継続中
- 2019.05米ICONICSを完全子会社化1986年設立の米ICONICS, Inc.の株式を追加取得して100%子会社とし、SCADA製品の開発・販売・サービスの体制を強めた。継続中
- 2023.06英ICONICS UKを買収1996年設立・従業員56名の英ICONICS UK, Ltd.の全株式を取得し、SCADAソフトウエアの英国での販売とクラウドアプリ開発の体制を広げた。継続中
- 2024.04仏AIRCALOを買収し水空調へ完全子会社2社を通じ、フランス・ボルドーに本社を置き水空調システムを手がけるAIRCALOの全株式を取得し、欧州の水空調事業を強めた。継続中
- 2024.04配電用変圧器事業を日立産機へ譲渡名古屋製作所で手がける配電用変圧器の開発・設計・製造・販売・保守を日立産機システムへ段階的に譲渡すると発表し、2026年に譲渡を終えた。役目を終えた
- 2024.05アイシンと電動化製品で合弁へアイシンと基本合意し、駆動モーターや電力変換器の設計・開発・製造・販売を担う合弁会社を、三菱電機66%・アイシン34%の出資比率で設立することにした。継続中
- 2024.06米Pente Networksへ出資企業向けのプライベートLTE/5G導入を進めるIaaSを提供する米国発の新興企業Pente Networks Inc.へ出資した。継続中
- 2024.06物流子会社をセイノーHDへ譲渡三菱電機ロジスティクスの株式14,652,000株(66.6%)を572億76百万円でセイノーホールディングスへ譲渡し、2024年10月に譲渡を終えた。役目を終えた
- 2024.10ヴィスコ・テクノロジーズを子会社化ヴィスコ・テクノロジーズ株式5,525,002株(92.65%)を1株1,100円で取得する公開買付けを成立させ、同社を連結子会社とした。継続中
- 2024.10米Formicへ出資しロボット定額へMEイノベーションファンドの第8号案件として、産業用ロボットを月額制で提供する米Formic Technologies Inc.へ出資した。継続中
- 2024.11NZ Zennoへ出資し衛星姿勢制御MEイノベーションファンドの第9号案件として、超伝導技術で人工衛星の姿勢制御装置を開発するニュージーランド発Zenno Astronautics Ltd.へ出資した。継続中
- 2025.04愛Ascension Liftsを買収スウェーデンの100%子会社Motum ABを通じ、アイルランド・ダブリンで昇降機の新設販売・据付・保守を手がけるAscension Lifts社の全株式を取得した。継続中
- 2025.07保険代理店をマーシュへ譲渡総合保険代理店の三菱電機保険サービスの株式をマーシュジャパンへ譲渡する契約を結び、2025年11月4日付で譲渡を終えた。役目を終えた
- 2025.09米Nozomiを883百万ドルで買収制御システム向けセキュリティ大手の米Nozomi Networksの株式93.0%を約883百万米ドルで取得し、完全子会社とする契約を結んだ。継続中
- 2025.11モータ・ポンプ事業を荏原へ譲渡愛知・新城とタイ・バンコクの2拠点で手がける三相モータ・IPMモータ、産業用ポンプ・ダイカスト事業を荏原製作所へ渡すことで合意し、2026年中に譲渡を終える予定とした。役目を終えた
- 2025.11UAE AGMELCOを完全子会社化中東で昇降機の販売・据付・保守・リニューアルを手がけるUAE・ドバイのAGMELCO Elevator社の全株式を取得し、完全子会社とした。継続中
- 2026.01米Lucendへ出資しDC最適化MEイノベーションファンドの第14号案件として、データセンターの電力・水の使用状況やCO2排出量をAIで分析する米国発Lucendへ出資した。継続中
- 2026.03東芝・ロームと半導体統合協議ローム、東芝デバイス&ストレージ、日本産業パートナーズ、TBJホールディングスと、各社のパワー半導体事業を1つにする協議を始める基本合意書を結んだ。継続中
- 2026.04愛Infinity Liftsを買収アイルランド・エニスに拠点を置き、自社製を含む複数ブランドで昇降機の新設販売・据付・保守・リニューアルを手がけるInfinity Lifts Limitedを買収した。継続中
- 2026.07インフォステラを完全子会社化衛星向けクラウド地上局サービス「StellarStation」を手がける2016年設立・従業員21名のインフォステラの全株式を取得し、完全子会社とした。継続中
- 2026.07FA産機子会社をKonecranesへホイストなどを手がける子会社の三菱電機FA産業機器について、2026年にフィンランドのKonecranesへ株式を譲渡する契約を結んだ。完了後はKonecranesが70%、三菱電機が30%を持つ形とした。役目を終えた
- 2026.07ソニー半導体とAIビジョン合弁ソニーセミコンダクタソリューションズと合弁会社「アドバンスト ビジョン ソリューションズ」を三菱電機60%・ソニー40%の出資比率で設立し、FA向けAI搭載ビジョンセンサーの開発を始めることにした。継続中
- 2026.08米PCI Energy Solutionsを完全子会社化8月20日合意。北米のエネルギー事業者向けに電力取引や需給計画を支える最適化ソフトを手がける会社の全持分を1,400百万米ドルで取得する。取得割合は100.0%で、完了予定は2026年中。米国市場の発電量の60%が同社の基盤を使っているとしている継続中
国内の5件は、合弁と子会社化に集まる
海外の10件を除いた国内の5件は、買うというより組む形が目立つ。
2024年5月、アイシンと合弁へ。駆動モーターや電力変換器の設計・開発・製造・販売を担う会社を、三菱電機66%・アイシン34%で設立することにした。
2026年3月、東芝・ロームと半導体統合の協議。ローム、東芝デバイス&ストレージ、日本産業パートナーズ、TBJホールディングスと、各社のパワー半導体事業を1つにする協議を始める基本合意書を結んだ。
2026年7月、ソニーセミコンダクタソリューションズと合弁。「アドバンスト ビジョン ソリューションズ」を三菱電機60%・ソニー40%で設立し、FA向けのAI搭載ビジョンセンサーを開発する。
子会社化は2件。2024年10月のヴィスコ・テクノロジーズ(公開買付けで92.65%を1株1,100円で取得)と、2026年7月のインフォステラ(衛星向けクラウド地上局サービス、従業員21名の会社の全株式)である。
小さな出資は、社内ファンドの番号で数えられる
海外の10件のうち4件は、買収ではなく出資である。MEイノベーションファンドの案件として、発表に番号がついている。
2024年10月のFormicが第8号、2024年11月のZenno Astronauticsが第9号、2026年1月のLucendが第14号。番号を見ると、2024年10月から2026年1月までの15か月で、第8号から第14号まで進んでいる。年表に載っていない案件がその間に4件あるということである。
ここまでを、ひとつにまとめると
2024年4月からの2年5か月で、渡したのが5件、どれも日本の事業。買った・出資した・組んだのが15件、そのうち海外が10件です。
金額が発表に載っているのは、渡した側の572億76百万円(物流)と、買った側の約883百万米ドル(Nozomi Networks)、1,400百万米ドル(PCI Energy Solutions)。渡すほうは円で、買うほうは米ドルで書かれています。
挑戦する人の視点で見ると
三菱電機の25件から持ち帰れるのは、「渡す先と買う先を、同じ期間に別の地域で動かせる」ということだと思う。
国内で育てた変圧器や物流や保険を国内の会社へ渡し、その同じ2年5か月で、米国のソフト会社やアイルランドの昇降機会社を買っている。渡すことと買うことを、順番ではなく並行で置いている。
そして、買い方の大きさが3段階ある。社内ファンドの出資(番号つき)、数十名規模の会社の完全子会社化、1,400百万米ドルの買収。同じ年表に、この3つが混ざって並ぶ。
いま自分が担当なら、渡す候補と買う候補を同じ1枚の表に並べるところから始めると思う。三菱電機の年表は、その表を2年5か月ぶん、そのまま公開している記録である。