NECの年表31件を並べると、金額のついた記録が4つ出てくる。
すべて、海外の会社を買った記録である。英国、デンマーク、スイス、アメリカ。そして4件とも、作っているのはハードではなくソフトウェアだ。
金額を並べると、こうなる。713億円、1,360億円、2,360億円、4,417億円。合計8,850億円。
2018年、713億円。英国の「警察と税」のソフト会社
2018年1月9日、NECは英Northgate Public Servicesを買収すると発表した。売り手は投資ファンドのCinven、取得価額は4億7,500万ポンド(約713億円)である。
何をしている会社かというと、発表資料の言葉で「英国を中心に公共分野向けのソフトウェア事業やサービス事業を展開」しており、強みは警察業務、税徴収・社会保障給付、公営住宅管理の領域。従業員は英国とインドに約1,400名。
取得の完了予定は、発表から3週間ほどあとの2018年1月末と書かれている。
外国の会社を買うとき、契約の金額は現地の通貨で決まります。日本の発表に出てくる「約◯億円」は、その時点のレートで換算した参考値です。KMDは1デンマーク・クローネ=17円、CSGは1米ドル=153円で計算されています。レートが動けば、円の金額も動きます。
海外のM&Aで出てくる「約◯億円」は、現地通貨の金額を、ある日のレートで換算した数字である。社内で使うときは、現地通貨の金額と換算レートを併記しておくと、あとで数字が合わなくなったときに説明ができる。
事業稼働チャート
1年後、1,360億円。デンマークの「行政」のソフト会社
2019年1月8日、NECはデンマーク最大手のIT企業KMDの買収を発表した。
取得価額は80億デンマーク・クローネ(約1,360億円)。換算は1デンマーク・クローネ=17円と明記されている。
KMDは「パブリック分野向けソフトウェア、ITサービスの提供」を手がける会社で、売上高は約56億デンマーク・クローネ(約958億円、2017年12月期)、従業員は約3,200名。
前の年の英Northgateと、やっていることがよく似ている。どちらも、国や自治体の仕事を動かすソフトウェアである。
1年のあいだに、英国の公共ソフトとデンマークの行政ソフトが、同じ会社の傘下に並んだ
未確認事業年表
- 2010.04半導体事業をルネサスへ統合NECエレクトロニクスとルネサステクノロジが合併。売上約7,000億円で世界3位の半導体会社となり、自社単独での半導体事業を終えた役目を終えた
- 2011.01パソコン事業でレノボと合弁Lenovo NEC Holdingsを6月に設立。出資比率はレノボ51%、NEC49%で、国内シェア合計26%の最大グループとなった継続中
- 2013.07スマートフォンの提供を終えたNECカシオモバイルは2012年度売上約1,400億円、出荷約290万台。2013年7月に新規開発を中止し生産・販売を終えた役目を終えた
- 2014.01BIGLOBEを日本産業パートナーズへ譲渡保有株式78.0%を投資ファンド傘下の特別目的会社へ譲渡。売上841億円、会員約300万のISP事業を2014年3月末に手放した役目を終えた
- 2016.03携帯電話端末の開発事業を終えた2009年発足のNECモバイルコミュニケーションズを3月1日にNEC本体へ統合し、3月24日に解散した役目を終えた
- 2016.07レノボ合弁の持株比率を引き下げLenovo NEC Holdings普通株式の90%にあたる44,100株を譲渡し議決権を49%から33.4%へ。譲渡益は連結約200億円継続中
- 2018.01英Northgate Public Servicesを買収投資ファンドCinvenから4億7,500万ポンド、約713億円で取得。英国の公共機関向けITサービス事業に参入した継続中
- 2018.04AI企業dotDataを米国に設立データ分析の自動化技術をカーブアウトし米国に新会社を設立。2019年10月にシリーズAで2,300万ドルを調達した継続中
- 2018.06NEC Xをシリコンバレーに設立7月に米カリフォルニア州サンタクララで始動。最短1年で新事業を生むアクセラレータープログラムを開始した継続中
- 2018.08リチウムイオン電池事業を譲渡NECエナジーデバイスを中国Envision傘下へ、AESC株式49%分を日産へ2019年3月に譲渡。営業利益約100億円を計上した役目を終えた
- 2018.10顔認証ソリューション for オフィスNeoFace顔情報マネジメントサービスを月額5万円、登録1,000人までで提供開始した継続中
- 2019.01デンマークKMDを買収80億デンマーク・クローネ、約1,360億円で取得。売上約958億円、従業員約3,200名の同国最大手ITで欧州の行政DXへ継続中
- 2019.04照明事業をホタルクスへ承継NECライティングの照明事業を会社分割で新会社へ承継。資本金4億円で日本みらいキャピタルが95%、NECは5%を保有した役目を終えた
- 2020.03映像ディスプレイ事業をシャープと合弁化NECディスプレイソリューションズ株式の66%をシャープへ譲渡しNEC保有は34%に。売上973億円、従業員約950名の事業役目を終えた
- 2020.06NTTと資本業務提携NTTがNEC株13,023,600株、発行済株式の4.8%を取得。O-RAN準拠の光・無線ICT製品を共同開発する継続中
- 2020.09BIRD INITIATIVEを6社で設立大林組や伊藤忠テクノソリューションズなど異業種6社と共同出資。資本金は資本準備金を含め6.4億円継続中
- 2020.12スイスAvaloqを買収持株会社の全株式を取得し100%子会社化。買収額は20億5,000万スイスフラン、約2,360億円で金融ソフト事業に参入した継続中
- 2021.09NEC Energy Solutionsを譲渡大型蓄電システムを担う米子会社の全株式100%をLGエナジーソリューションへ譲渡し、12月に手続きを終えた役目を終えた
- 2022.07太平洋横断光海底ケーブルJUNOを受注日米間を結ぶ全長約10,000km、総容量毎秒350テラビットのケーブルを供給する継続中
- 2023.03欧州にAI創薬の統括会社を設立オランダにNEC Bio B.V.を設立し、ノルウェーのNEC OncoImmunityと独NEC Bio Therapeuticsの2社を傘下に置いた継続中
- 2023.12生成AI cotomi で事業化日本語LLMを軸に30万字の長文処理と1,000億パラメータ級モデルを開発。3年で約500億円の関連売上を目指す継続中
- 2024.05DX新ブランド BluStellar価値創造モデルを掲げDX事業を強化。約400人の事業推進組織を設け、2025年までに社内DX人材12,000人を育成する継続中
- 2025.07NESICホールディングスを設立NECネッツエスアイとNECネクサソリューションズの2社を傘下に置く中間持株会社を7月1日に発足させた継続中
- 2025.10米CSG Systems Internationalを買収1株80.7ドル、総額約29億ドル、約4,417億円で完全子会社化。2024年売上11億9,700万ドルの通信向けソフト企業継続中
- 2025.11KDDIとサイバーセキュリティ合弁United Cyber Forceを10月23日に設立し11月28日に事業開始。出資比率はKDDI50%、NEC50%、資本金5,000万円継続中
- 2026.01NECフィールディングをNESIC傘下へ2026年4月1日付でNESICホールディングスの子会社に。全国300カ所超の拠点と24時間365日体制でDX事業を一気通貫化する継続中
- 2026.03光通信衛星コンステレーションの実証衛星日本初の光通信衛星群に向けた小型実証衛星の搭載機器設計を完了。2027年度に地球周回軌道へ打ち上げる計画継続中
- 2026.05軌道間輸送機の実用化プロジェクト宇宙戦略基金を活用しアジア初の軌道間輸送機を開発。2028年度に試作へ着手し、2032年の打ち上げ実証を予定する継続中
- 2026.08SCM AIエージェントを販売開始サプライチェーン業務を自律実行するAIサービス。2026年9月から提供し、価格は年1,800万円(税別)から。5年で100社の導入を目標に掲げる継続中
- 2026.08海外向けネットワーク機器再販事業を譲渡中南米・アジア太平洋・欧州などの再販事業と、一部の国の政府・自治体向けITサービス事業を、Assist Groupらのコンソーシアムへ。2026年度中の完了を見込む役目を終えた
- 2026.09三菱重工業と防衛分野で戦略的提携防衛分野における戦略的提携に向けた覚書を締結。作戦計画・指揮統制、無人アセット、新たな指揮統制システムの構築で協業し、日本の防衛産業基盤強化とデータ・AI主権の確立を目指す継続中
その次は2,360億円。スイスの「銀行」のソフト会社
2020年10月5日、NECはスイスのAvaloqを傘下に置く持株会社WP/AV CH Holdings Iの全株式を取得すると発表した。取得価額は20.5億スイス・フラン(約2,360億円)である。
Avaloqは金融機関向けのソフトウェアとサービスを提供する会社で、金融資産管理ソフトの分野では欧州とアジア太平洋でトップクラスのシェアを持つ。
当初は2021年4月までの完了を予定していたが、実際には前倒しで進み、2020年12月23日に買収完了を発表している。
ここで並びが見えてくる。公共(英国)、行政(デンマーク)、金融(スイス)。いずれも、簡単には乗り換えられない仕事のソフトである。
そして2025年、4,417億円。米国の「通信」のソフト会社
2025年10月29日、NECは米CSG Systems Internationalの完全子会社化を発表した。
対価は1株あたり80.70米ドルの現金。取得価額の総額は約2,887百万米ドル(約4,417億円)で、想定為替レートは1米ドル=153円と開示されている。
CSGは米国のテレコム/ブロードバンド事業者向けソフトウェア企業で、2024年12月期の売上高は1,197,248千米ドル、営業利益は131,333千米ドル。取得の完了予定は2026年中である。
ここまでを、ひとつにまとめると
4件を発表の順に並べると、713億円 → 1,360億円 → 2,360億円 → 4,417億円です。前の件に対して1.9倍、1.7倍、1.9倍。買うたびに、金額がほぼ倍になっています。
そして買った先は、英国の公共、デンマークの行政、スイスの金融、米国の通信。国も分野もばらばらに見えますが、どれも「その組織の仕事そのものを動かしているソフト」です。一度入れたら簡単には外せない種類の事業を、4か国で4つ集めた、と読むこともできます。
同じ期間に、日本のハードは9件を次へ渡している
同じ年表の上に、渡した記録も並んでいる。
起点は2010年4月の半導体だ。NECエレクトロニクスとルネサステクノロジが合併し、売上約7,000億円で世界3位の半導体会社が生まれた。NECは自社単独での半導体事業を、ここで終えている。
その後も続く。2013年7月にスマートフォン(NECカシオモバイルは2012年度売上約1,400億円、出荷約290万台)、2014年1月にBIGLOBE(保有株式78.0%を日本産業パートナーズ傘下へ。売上841億円、会員約300万)、2016年3月に携帯電話端末の開発、2018年8月にリチウムイオン電池、2019年4月に照明(ホタルクスへ承継)、2020年3月に映像ディスプレイ(株式66%をシャープへ、売上973億円・従業員約950名)。
直近では2026年8月5日、海外向けネットワーク機器の再販事業を、一部の国の政府・自治体向けITサービス事業とあわせてAssist Groupらのコンソーシアムへ譲渡すると発表した。2026年度中の完了を見込んでいる(金額の記載なし)。
いっぽうで、新しく始めたものも同じ時期に並ぶ。2023年12月の生成AIcotomi(30万字の長文処理、1,000億パラメータ級モデル、3年で約500億円の関連売上を目標)、2026年3月の光通信衛星コンステレーションの実証衛星(2027年度打ち上げ予定)、2026年5月の軌道間輸送機(2028年度に試作着手、2032年に打ち上げ実証)である。
挑戦する人の視点で見ると
NECの31件から持ち帰れるものは、「同じ性質のものを、金額を上げながら買い続けている」という点だと思う。
4件はどれも、その組織の仕事を動かしているソフトウェアだった。1件目で当てたやり方を、2件目、3件目、4件目でそのまま大きくしている。金額が倍になっていくのは、勢いではなく、前の件が説明材料になっているからだと読める。
逆にいえば、1件目の713億円は、いちばん説明が難しかったはずである。まだ実績がないからだ。
いま自分が担当なら、最初の1件を選ぶときに「これは2件目、3件目の説明材料になるか」を条件に入れると思う。単体で正しいかどうかより、次につながる形かどうか。NECの4件は、その順番で並んでいるように見える。