資生堂の年表26件を並べて、まず目につくのは数のほうだった。
26件のうち16件が、次へ渡したか、役目を終えている。いま続いているのは10件である。
大企業の新規事業の年表を並べていると、ふつうは続いているもののほうが多い。この会社は逆になっている。
2010年、約17億米ドルで1社を買った
2010年1月15日、資生堂は米Bare Escentuals, Inc.の買収を発表した。
方法は、完全子会社による1株あたり18.2米ドルの現金による株式公開買付けと、それに続く現金を対価とする合併。買収総額は約17億米ドルと開示されている。
ミネラルファンデーションの大手で、bareMineralsとBUXOMという2つのブランドを持っていた会社である。
その6年後、2016年6月には米ガーウィッチ プロダクツを買っている。ローラ メルシエ(Laura Mercier)とリヴィーブの2ブランドを持つ会社で、買収手続きは7月12日に完了した。
上場している会社が、投資家の判断に影響する出来事を、決められた形で発表する仕組みです。買収額や譲渡額は、ニュースリリースには書かれず、この開示のほうにだけ載っていることがあります。金額を確かめたいときは、まずこちらを探してください。
同じ案件でも、ニュースリリースには金額がなく、適時開示のPDFにだけ金額が載っていることがある。金額を年表に書くときは、必ず開示のほうを開いて確かめる。
事業稼働チャート
2021年、その3ブランドをまとめて渡した
2021年8月26日(米国時間8月25日)、資生堂はbareMinerals、BUXOM、Laura Mercierの3ブランドを譲渡すると発表した。
渡し先は、Advent International GPE IX傘下のAI Beauty Holdings Ltd.。譲渡価額は700百万米ドルで、3ブランド合計の2020年12月期売上高は448億円と開示されている。完了予定は2021年内とされた。
ここで並びを見ておきたい。bareMineralsとBUXOMは2010年に買ったベアエッセンシャル由来、Laura Mercierは2016年に買ったガーウィッチ由来である。別々のときに買った会社のブランドを、2021年にまとめて1つの相手へ渡している。
2010年に買った会社のブランドと、2016年に買った会社のブランドが、2021年に同じ1枚の契約に並んだ
未確認事業年表
- 2010.01米ベアエッセンシャルを買収1株18.2米ドルの公開買付けとそれに続く合併により、総額約17億米ドルで取得。ミネラルファンデーション大手を傘下に入れ、2021年に主要ブランドを次へ渡した役目を終えた
- 2015.06アユーララボラトリーズを譲渡全株式をアインファーマシーズへ譲渡することで合意。2015年8月31日に譲渡を実行した役目を終えた
- 2016.06米ガーウィッチ プロダクツを買収ローラ メルシエとリヴィーブの2ブランドを取得。7月12日に買収手続きを完了し、米州のプレステージ領域を補強した役目を終えた
- 2016.10ドルチェ&ガッバーナ事業を開始2016年6月30日に契約を締結し10月1日に開始。フレグランスなど3カテゴリーを展開したが、2021年12月末で契約を一部解消した役目を終えた
- 2016.12資生堂ベンチャーパートナーズ設立全世界を投資対象とするCVC。美を生み出す技術など3領域を掲げ、FiNCやドリコスなどのテック企業へ出資した継続中
- 2017.05キナリ(草花木果)を譲渡自然派化粧品の通販を手がける100%子会社の全株式をスクロールへ譲渡。7月3日に譲渡を実行した役目を終えた
- 2017.08資生堂医理化テクノロジーを譲渡分析機器子会社の株式を大阪ソーダへ譲渡。12月1日に実行し、化粧品以外の事業を整理した役目を終えた
- 2017.10米ゾートスを独ヘンケルへ譲渡サロン向けヘアケアを担う米子会社の全株式を、関連事業資産とともに譲渡することで10月27日に合意した役目を終えた
- 2017.11米Giaranを買収マサチューセッツ州のベンチャーを11月7日に取得。コンピュータビジョン、ビッグデータ、ARの3領域のAI技術を獲得した継続中
- 2017.11IoTスキンケアOptuneを発表肌測定データと環境データを基に1,000パターン以上の組み合わせでケアを提供。2018年春にβ版のテスト販売を始めた役目を終えた
- 2018.01Second Skin事業を取得米Olivo Laboratoriesから人工皮膚形成技術と関連事業を1月12日に取得した継続中
- 2019.07Optuneを本格展開月額10,000円のサブスクリプションで80,000通りの抽出パターンを提供。2020年6月に提供を終えた役目を終えた
- 2019.08トリーバーチとライセンス契約米ライフスタイルブランドとグローバル独占ライセンス契約を8月8日に締結し、米州のフレグランス事業を強化した継続中
- 2019.10米ドランクエレファントを買収取得価額は845百万米ドル、取得する持分は100%。2019年12月期の売上高見込みは125百万米ドルと開示されている継続中
- 2021.02パーソナルケア事業を譲渡TSUBAKIやSENKAなどを会社分割でOriental Beauty Holdingへ譲渡。2021年7月1日に完了し、資生堂が35%出資する合弁会社Asian Personal Care Holdingとして分離した。譲渡価額の記載なし役目を終えた
- 2021.07資生堂インタラクティブビューティー設立アクセンチュアとの合弁で資生堂が過半を出資し設立。2026年6月1日付で資生堂本体へ吸収合併した役目を終えた
- 2021.08ベアミネラルなど3ブランドを譲渡Advent International傘下のAI Beauty Holdingsへ700百万米ドルで譲渡。bareMinerals、BUXOM、Laura Mercierの3ブランド合計の2020年12月期売上高は448億円。完了予定は2021年内役目を終えた
- 2021.08中国で資悦ファンドを設立中国の博裕資本と組み、化粧品・健康の新興ブランドやEC技術へ投資する枠組みで基本合意した継続中
- 2022.01資生堂クリエイティブを設立広告制作やパッケージデザインを担うクリエイティブ部門を分社し、1月1日付で100%子会社として発足させた継続中
- 2022.02プロフェッショナル事業を譲渡日本とアジアのヘアサロン向け事業を会社分割でSPI社へ承継させたうえで、その株式80%を独ヘンケルへ譲渡した。譲渡価額の記載なし役目を終えた
- 2022.08パーソナルケア生産事業を譲渡久喜工場とベトナム工場の2拠点が担うパーソナルケア製品の生産事業を、ファイントゥデイ側へ譲渡した役目を終えた
- 2023.09インナービューティー事業を開始ツムラ・カゴメと組みSHISEIDO BEAUTY WELLNESSを2024年2月に発売。20〜60代女性23,408人の調査を基に開発した継続中
- 2023.12米Dr. Dennis Grossを買収取得価額は450百万米ドル。2023年12月期の売上高見込みは94百万米ドル継続中
- 2024.06ファイントゥデイHD株式を譲渡保有する6,150万2,500株(議決権保有割合20.09%)をCVC側へ譲渡し、持分法適用関連会社から外した役目を終えた
- 2025.07エトバスを吸収合併NARSやISSEY MIYAKE PARFUMSの国内製造販売を担う子会社を、7月1日付で資生堂本体へ統合した役目を終えた
- 2026.02企業・自治体向けイベント美容サービスを開始資生堂ジャパンが「#find me わたしだけの色」を2月から提供。企業・自治体・教育機関などが主催するイベントで、パーソナルBカラー診断に合わせたメイクレッスンと肌測定によるスキンケアアドバイスを行う。実施時間は5時間継続中
2021年から2022年に、まとめて動いている
3ブランドの譲渡は、単独の出来事ではなかった。
2021年2月3日、パーソナルケア事業。TSUBAKIやSENKAなどを会社分割でOriental Beauty Holdingへ譲渡し、7月1日に完了。資生堂が35%を出資する合弁会社Asian Personal Care Holdingとして分離している。
2022年2月9日、プロフェッショナル事業。日本とアジアのヘアサロン向け事業を会社分割でSPI社へ承継させたうえで、その株式80%を独ヘンケルへ譲渡した。
2022年8月には、パーソナルケア製品の生産事業も渡している。久喜工場とベトナム工場の2拠点が担っていた部分である。
なお、この3件はいずれも資生堂自身の発表に譲渡価額が書かれていない。報道では金額が出ているが、当サイトは本人の発表にある数字だけを載せているため、年表にも金額を書いていない。
いっぽうで、買う手は止まっていない
渡してばかりいるわけではない。
2019年10月8日、米Drunk Elephant Holdings, LLC。取得価額は845百万米ドル、取得する持分は100%。2019年12月期の売上高見込みは125百万米ドルと開示されている。
2023年12月23日、DDG Skincare Holdings LLC(Dr. Dennis Gross)。取得価額は450百万米ドル、持分100%。2023年12月期の売上高見込みは94百万米ドルで、完了予定は2024年第1四半期中とされた。
会社を作る動きも続いている。2016年12月に資生堂ベンチャーパートナーズ(全世界を投資対象とするCVC)、2021年8月に中国の博裕資本と組んだ資悦ファンド、2022年1月に広告制作やパッケージデザインを担う資生堂クリエイティブ。
ここまでを、ひとつにまとめると
金額が本人の発表に載っているものを並べると、買ったのが約17億米ドル(2010年)、845百万米ドル(2019年)、450百万米ドル(2023年)。渡したのが700百万米ドル(2021年)です。
そして2021年から2022年の2年に、パーソナルケア、3ブランド、プロフェッショナル、生産事業と、渡す記録が続けて並びます。この2年が、26件のうち16件という比率をつくっています。
挑戦する人の視点で見ると
資生堂の26件から持ち帰れるものは、「買ったものを、形を変えて渡せる」ということだと思う。
2010年に会社ごと買い、11年持ち、そのうち2ブランドを、別の年に買った別の会社のブランドと束ねて1つの相手へ渡した。買ったときの単位と、渡すときの単位が同じである必要はない。
そして渡し方も一定ではない。会社分割してから株式を渡す(パーソナルケア、プロフェッショナル)、ブランド単位で渡す(3ブランド)、持分を一部残して合弁にする(パーソナルケア、資生堂35%)。案件ごとに形が違う。
いま自分が担当なら、買う前の資料に「これは将来、どの単位で渡せるか」を1行入れると思う。会社ごとか、ブランド単位か、工場ごとか。資生堂の年表は、その3通りが全部出てくる記録である。