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資生堂は2010年、
約17億米ドルで会社を買った。
11年後、その主要ブランドを700百万米ドルで渡した

26件の記録を並べると、この会社の年表は「出入りの記録」であることがわかります。26件のうち16件が、次へ渡したか役目を終えたもの。続いているのは10件です。買って、育てて、渡す。その順番が何度も出てきます。

Soichiro2026年9月22日じっくり読んで 約9分
記録した新規事業
26件
2010年1月の米ベアエッセンシャル買収から、2026年2月の企業・自治体向けイベント美容サービスまで、公開情報から拾って年表に並べた件数です
いま続いているもの
10件
26件のうち、公開情報で継続が確認できるもの。次へ渡した、または役目を終えたものが16件あります
米ベアエッセンシャルの買収総額
17億米ドル
2010年1月15日の適時開示。1株あたり18.2米ドルの公開買付けとそれに続く合併により買収したと書かれています
3ブランドの譲渡価額
700百万米ドル
2021年8月26日の適時開示。bareMinerals、BUXOM、Laura Mercierの3ブランドをAdvent International傘下へ渡しました
この記事はこんな方に
  • 買った事業の出口を考えている方へ。11年持ったあとにどう渡したかが、金額つきで並びます
  • 事業の整理を任された方へ。16件それぞれの渡し先と方法が、発表日つきで読めます
  • 数字の出し方を知りたい方へ。適時開示に金額が載っているものと、載っていないものの違いがわかります
3行でいうと
  1. 資生堂は2010年1月15日、米Bare Escentuals, Inc.の買収を発表した。1株あたり18.2米ドルの現金による株式公開買付けと、それに続く現金対価の合併により取得するもので、買収総額は約17億米ドルと開示されている。
  2. その11年後の2021年8月26日(米国時間8月25日)、資生堂はbareMinerals、BUXOM、Laura Mercierの3ブランドを、Advent International傘下のAI Beauty Holdings Ltd.へ譲渡すると発表した。譲渡価額は700百万米ドル。3ブランド合計の2020年12月期売上高は448億円で、完了予定は2021年内とされた。
  3. 年表26件のうち、次へ渡したか役目を終えたものは16件ある。続いているのは10件。パーソナルケア事業(2021年、Oriental Beauty Holdingへ)、プロフェッショナル事業(2022年、独ヘンケルへ)、ゾートス(2017年、同じくヘンケルへ)、キナリ(2017年、スクロールへ)、資生堂医理化テクノロジー(2017年、大阪ソーダへ)と続く。

資生堂の年表26件を並べて、まず目につくのは数のほうだった。

26件のうち16件が、次へ渡したか、役目を終えている。いま続いているのは10件である。

大企業の新規事業の年表を並べていると、ふつうは続いているもののほうが多い。この会社は逆になっている。

この記事は2026年9月時点の公開情報にもとづきます。数値はすべて資生堂および各社の公表値です。

2010年、約17億米ドルで1社を買った

2010年1月15日、資生堂は米Bare Escentuals, Inc.の買収を発表した。

方法は、完全子会社による1株あたり18.2米ドルの現金による株式公開買付けと、それに続く現金を対価とする合併。買収総額は約17億米ドルと開示されている。

ミネラルファンデーションの大手で、bareMineralsとBUXOMという2つのブランドを持っていた会社である。

その6年後、2016年6月には米ガーウィッチ プロダクツを買っている。ローラ メルシエ(Laura Mercier)とリヴィーブの2ブランドを持つ会社で、買収手続きは7月12日に完了した。

用語適時開示てきじかいじ

上場している会社が、投資家の判断に影響する出来事を、決められた形で発表する仕組みです。買収額や譲渡額は、ニュースリリースには書かれず、この開示のほうにだけ載っていることがあります。金額を確かめたいときは、まずこちらを探してください。

実務のコツ

同じ案件でも、ニュースリリースには金額がなく、適時開示のPDFにだけ金額が載っていることがある。金額を年表に書くときは、必ず開示のほうを開いて確かめる。

CHART

事業稼働チャート

資生堂が2010年以降に記録した主な動きと、その期間
米ベアエッセンシャル(約17億米ドル)2010–2021
アユーララボラトリーズ(アインへ)2010–2015
米ガーウィッチ(ローラ メルシエ)2016–2021
ドルチェ&ガッバーナ事業2016–2021
資生堂ベンチャーパートナーズ(CVC)2016–
キナリ/草花木果(スクロールへ)2010–2017
資生堂医理化テクノロジー(大阪ソーダへ)2010–2017
米ゾートス(ヘンケルへ)2010–2017
米Giaran(AI技術)2017–
IoTスキンケア Optune2017–2020
Second Skin事業(人工皮膚形成)2018–
Optune 本格展開(月額10,000円)2019–2020
トリーバーチとライセンス契約2019–
米ドランクエレファント(845百万米ドル)2019–
パーソナルケア事業(合弁へ・資生堂35%)2010–2021
資生堂インタラクティブビューティー2021–2026
3ブランド譲渡(700百万米ドル)2010–2021
中国・資悦ファンド2021–
資生堂クリエイティブ2022–
プロフェッショナル事業(ヘンケルへ)2010–2022
パーソナルケア生産事業(2拠点)2010–2022
インナービューティー事業2023–
米Dr. Dennis Gross(450百万米ドル)2023–
ファイントゥデイHD株式(20.09%)2021–2024
エトバス(本体へ統合)2010–2025
企業・自治体向けイベント美容サービス2026–
201020132016201920222025
継続中役目を終えた

2021年、その3ブランドをまとめて渡した

2021年8月26日(米国時間8月25日)、資生堂はbareMinerals、BUXOM、Laura Mercierの3ブランドを譲渡すると発表した。

渡し先は、Advent International GPE IX傘下のAI Beauty Holdings Ltd.。譲渡価額は700百万米ドルで、3ブランド合計の2020年12月期売上高は448億円と開示されている。完了予定は2021年内とされた。

ここで並びを見ておきたい。bareMineralsとBUXOMは2010年に買ったベアエッセンシャル由来、Laura Mercierは2016年に買ったガーウィッチ由来である。別々のときに買った会社のブランドを、2021年にまとめて1つの相手へ渡している。

2010年に買った会社のブランドと、2016年に買った会社のブランドが、2021年に同じ1枚の契約に並んだ

TIMELINE

未確認事業年表

資生堂が公開情報で発表した新規事業を、始めた順に
  • 2010.01米ベアエッセンシャルを買収1株18.2米ドルの公開買付けとそれに続く合併により、総額約17億米ドルで取得。ミネラルファンデーション大手を傘下に入れ、2021年に主要ブランドを次へ渡した役目を終えた
  • 2015.06アユーララボラトリーズを譲渡全株式をアインファーマシーズへ譲渡することで合意。2015年8月31日に譲渡を実行した役目を終えた
  • 2016.06米ガーウィッチ プロダクツを買収ローラ メルシエとリヴィーブの2ブランドを取得。7月12日に買収手続きを完了し、米州のプレステージ領域を補強した役目を終えた
  • 2016.10ドルチェ&ガッバーナ事業を開始2016年6月30日に契約を締結し10月1日に開始。フレグランスなど3カテゴリーを展開したが、2021年12月末で契約を一部解消した役目を終えた
  • 2016.12資生堂ベンチャーパートナーズ設立全世界を投資対象とするCVC。美を生み出す技術など3領域を掲げ、FiNCやドリコスなどのテック企業へ出資した継続中
  • 2017.05キナリ(草花木果)を譲渡自然派化粧品の通販を手がける100%子会社の全株式をスクロールへ譲渡。7月3日に譲渡を実行した役目を終えた
  • 2017.08資生堂医理化テクノロジーを譲渡分析機器子会社の株式を大阪ソーダへ譲渡。12月1日に実行し、化粧品以外の事業を整理した役目を終えた
  • 2017.10米ゾートスを独ヘンケルへ譲渡サロン向けヘアケアを担う米子会社の全株式を、関連事業資産とともに譲渡することで10月27日に合意した役目を終えた
  • 2017.11米Giaranを買収マサチューセッツ州のベンチャーを11月7日に取得。コンピュータビジョン、ビッグデータ、ARの3領域のAI技術を獲得した継続中
  • 2017.11IoTスキンケアOptuneを発表肌測定データと環境データを基に1,000パターン以上の組み合わせでケアを提供。2018年春にβ版のテスト販売を始めた役目を終えた
  • 2018.01Second Skin事業を取得米Olivo Laboratoriesから人工皮膚形成技術と関連事業を1月12日に取得した継続中
  • 2019.07Optuneを本格展開月額10,000円のサブスクリプションで80,000通りの抽出パターンを提供。2020年6月に提供を終えた役目を終えた
  • 2019.08トリーバーチとライセンス契約米ライフスタイルブランドとグローバル独占ライセンス契約を8月8日に締結し、米州のフレグランス事業を強化した継続中
  • 2019.10米ドランクエレファントを買収取得価額は845百万米ドル、取得する持分は100%。2019年12月期の売上高見込みは125百万米ドルと開示されている継続中
  • 2021.02パーソナルケア事業を譲渡TSUBAKIやSENKAなどを会社分割でOriental Beauty Holdingへ譲渡。2021年7月1日に完了し、資生堂が35%出資する合弁会社Asian Personal Care Holdingとして分離した。譲渡価額の記載なし役目を終えた
  • 2021.07資生堂インタラクティブビューティー設立アクセンチュアとの合弁で資生堂が過半を出資し設立。2026年6月1日付で資生堂本体へ吸収合併した役目を終えた
  • 2021.08ベアミネラルなど3ブランドを譲渡Advent International傘下のAI Beauty Holdingsへ700百万米ドルで譲渡。bareMinerals、BUXOM、Laura Mercierの3ブランド合計の2020年12月期売上高は448億円。完了予定は2021年内役目を終えた
  • 2021.08中国で資悦ファンドを設立中国の博裕資本と組み、化粧品・健康の新興ブランドやEC技術へ投資する枠組みで基本合意した継続中
  • 2022.01資生堂クリエイティブを設立広告制作やパッケージデザインを担うクリエイティブ部門を分社し、1月1日付で100%子会社として発足させた継続中
  • 2022.02プロフェッショナル事業を譲渡日本とアジアのヘアサロン向け事業を会社分割でSPI社へ承継させたうえで、その株式80%を独ヘンケルへ譲渡した。譲渡価額の記載なし役目を終えた
  • 2022.08パーソナルケア生産事業を譲渡久喜工場とベトナム工場の2拠点が担うパーソナルケア製品の生産事業を、ファイントゥデイ側へ譲渡した役目を終えた
  • 2023.09インナービューティー事業を開始ツムラ・カゴメと組みSHISEIDO BEAUTY WELLNESSを2024年2月に発売。20〜60代女性23,408人の調査を基に開発した継続中
  • 2023.12米Dr. Dennis Grossを買収取得価額は450百万米ドル。2023年12月期の売上高見込みは94百万米ドル継続中
  • 2024.06ファイントゥデイHD株式を譲渡保有する6,150万2,500株(議決権保有割合20.09%)をCVC側へ譲渡し、持分法適用関連会社から外した役目を終えた
  • 2025.07エトバスを吸収合併NARSやISSEY MIYAKE PARFUMSの国内製造販売を担う子会社を、7月1日付で資生堂本体へ統合した役目を終えた
  • 2026.02企業・自治体向けイベント美容サービスを開始資生堂ジャパンが「#find me わたしだけの色」を2月から提供。企業・自治体・教育機関などが主催するイベントで、パーソナルBカラー診断に合わせたメイクレッスンと肌測定によるスキンケアアドバイスを行う。実施時間は5時間継続中

2021年から2022年に、まとめて動いている

3ブランドの譲渡は、単独の出来事ではなかった。

2021年2月3日、パーソナルケア事業。TSUBAKIやSENKAなどを会社分割でOriental Beauty Holdingへ譲渡し、7月1日に完了。資生堂が35%を出資する合弁会社Asian Personal Care Holdingとして分離している。

2022年2月9日、プロフェッショナル事業。日本とアジアのヘアサロン向け事業を会社分割でSPI社へ承継させたうえで、その株式80%を独ヘンケルへ譲渡した。

2022年8月には、パーソナルケア製品の生産事業も渡している。久喜工場とベトナム工場の2拠点が担っていた部分である。

なお、この3件はいずれも資生堂自身の発表に譲渡価額が書かれていない。報道では金額が出ているが、当サイトは本人の発表にある数字だけを載せているため、年表にも金額を書いていない。

いっぽうで、買う手は止まっていない

渡してばかりいるわけではない。

2019年10月8日、米Drunk Elephant Holdings, LLC。取得価額は845百万米ドル、取得する持分は100%。2019年12月期の売上高見込みは125百万米ドルと開示されている。

2023年12月23日、DDG Skincare Holdings LLC(Dr. Dennis Gross)。取得価額は450百万米ドル、持分100%。2023年12月期の売上高見込みは94百万米ドルで、完了予定は2024年第1四半期中とされた。

会社を作る動きも続いている。2016年12月に資生堂ベンチャーパートナーズ(全世界を投資対象とするCVC)、2021年8月に中国の博裕資本と組んだ資悦ファンド、2022年1月に広告制作やパッケージデザインを担う資生堂クリエイティブ。

新規事業マニアの解説

ここまでを、ひとつにまとめると

金額が本人の発表に載っているものを並べると、買ったのが約17億米ドル(2010年)、845百万米ドル(2019年)、450百万米ドル(2023年)。渡したのが700百万米ドル(2021年)です。

そして2021年から2022年の2年に、パーソナルケア、3ブランド、プロフェッショナル、生産事業と、渡す記録が続けて並びます。この2年が、26件のうち16件という比率をつくっています。

挑戦する人の視点で見ると

資生堂の26件から持ち帰れるものは、「買ったものを、形を変えて渡せる」ということだと思う。

2010年に会社ごと買い、11年持ち、そのうち2ブランドを、別の年に買った別の会社のブランドと束ねて1つの相手へ渡した。買ったときの単位と、渡すときの単位が同じである必要はない。

そして渡し方も一定ではない。会社分割してから株式を渡す(パーソナルケア、プロフェッショナル)、ブランド単位で渡す(3ブランド)、持分を一部残して合弁にする(パーソナルケア、資生堂35%)。案件ごとに形が違う。

いま自分が担当なら、買う前の資料に「これは将来、どの単位で渡せるか」を1行入れると思う。会社ごとか、ブランド単位か、工場ごとか。資生堂の年表は、その3通りが全部出てくる記録である。

READERS' VOICE

ここまで読んだ、あなたへ

ひとつ選ぶと、ほかの読者が何を選んだかが、その場で見えます。
この記録がどう受け取られたのかを、みんなで確かめる場所です。

NEWFOR MEMO
新規事業マニアのメモ ─ 自分が担当だったら

自分が担当だったら、この年表から持ち帰るのは「買った単位と、渡す単位はちがってよい」という一点だと思う。

2010年1月15日、Bare Escentuals。1株18.2米ドルの公開買付けとそれに続く合併、買収総額約17億米ドル。bareMineralsとBUXOMを持つ会社である。

2016年6月、ガーウィッチ プロダクツ。ローラ メルシエとリヴィーブの2ブランド。買収手続きの完了は7月12日。

2021年8月26日、bareMinerals・BUXOM・Laura Mercierの3ブランドを700百万米ドルでAI Beauty Holdings(Advent International傘下)へ。3ブランド合計の2020年12月期売上高は448億円。別々に買ったものを、まとめて1つの相手へ渡している。

買う手は止まっていない。2019年10月8日 Drunk Elephant 845百万米ドル(持分100%)、2023年12月23日 DDG Skincare Holdings 450百万米ドル(持分100%)。

最後に注意点。パーソナルケア事業、プロフェッショナル事業、パーソナルケア生産事業の3件は、資生堂自身の発表に譲渡価額が書かれていない。報道には金額が出ているが、当サイトの年表には書いていない。金額を扱うときは、必ず本人の適時開示まで戻ること。

Soichiro新規事業マニア
40代 / 事業開発
新規事業マニア。20代でスタートアップを立ち上げ、1社を上場企業へ売却。その後、外資系コンサルティングファーム、通信大手、大手人材グループ、国内大手ITサービスの中で、社員として新規事業の立ち上げに携わる。並行して顧問として10社近くの新規事業を担当。事業立ち上げ歴20年。名前は、本田宗一郎への敬意から。
20年 事業立ち上げ歴1社 上場企業へ売却4社 事業会社の中で立ち上げ10社 顧問として担当