サイバーエージェントの年表を並べると、ほかの会社と形がちがう。
買った会社より、作った会社のほうがずっと多い。Cygames、CyberZ、グレンジ、マクアケ、AWA、AbemaTV、AI Lab、CAAnimation、WinTicket、CASM、CA Soa、サイバーグリップ。どれも自分で設立している。
そして、その多くがひとつの会議から出ている。
2006年に始めた会議が、37社の設立を決めた
「あした会議」という。役員が新規事業を提案し、その場で決議する合宿型の会議で、2006年に始まっている。
サイバーエージェントが自社の公式メディアで公表している数字は、はっきりしている。2023年7月31日の記事に、これまでに累計37社の子会社設立を決め、それら新規事業から累計売上高約3,639億円、営業利益約497億円を生んだと書かれている。
17年で37社。年に2社ちょっとのペースで、会社が生まれ続けている計算になる。
社内から新規事業のアイデアを募り、選んだものに予算と時間をつけて事業化を目指す制度のこと。1件の事業を作るのではなく、事業が出続ける仕組みを作ることが目的です。
2025年9月末時点の連結子会社は86社。2026年8月7日の投資家向け資料に書かれている数である。
2006年に会議を1つ作った。そこから37社の設立が決まり、約3,639億円の売上が生まれた
事業稼働チャート
作るときは近く、買うときは遠い
この会社の年表には、もうひとつ形がある。
自分で作る会社は、本業のすぐ隣にある。広告のCyberZ、ゲームのCygames、動画のAbemaTV、研究のAI Lab、アニメ制作のCA Soa、広告運用のサイバーグリップ。どれも広告・ゲーム・メディアの延長線上にある。
ところが、買う会社は本業から遠い。
2017年9月、プロレス団体DDTプロレスリングの全株式を譲り受けた。2020年1月にはプロレスリング・ノアの運営会社の全株式取得でも合意し、同年9月に3社を統合したCyberFightが始動している。
2018年10月、J2クラブFC町田ゼルビアの株式80%を譲り受けた。2021年7月には不動産のリアルゲイトの発行済株式の過半数を取得している。リアルゲイトは2023年6月22日に東証グロースへ上場した。
2024年7月、「刀剣乱舞」などのIPを持つニトロプラスの株式72.5%を、約167億円で取得した。
自分で作れるものは作り、自分では作れないものを買っている。プロレス団体もサッカークラブもIPも、ゼロから20年かけて育てるのは現実的ではない。
未確認事業年表
- 1998.03サイバーエージェント 創業1998年3月に設立。同年7月にクリック保証型バナー広告サイバークリックを始め、インターネット広告事業へ参入した継続中
- 2004.09Ameba(アメーバブログ)開始9月15日にブログサービスを開始。以後アメーバピグやABEMAへ広がるメディア事業の起点となった継続中
- 2006あした会議 開始役員が新規事業を提案・決議する合宿型会議。2023年7月31日の公表で、累計37社の子会社設立を決め、それら新規事業から累計売上高約3,639億円、営業利益約497億円を生んだとしている継続中
- 2006.04サイバー・バズ 設立CGMに特化した広告代理事業の子会社として設立。2018年4月に一部株式を譲渡し、持分法適用会社へ移行した継続中
- 2009.02アメーバピグ 開始アバター型の仮想空間サービス。開始から10年を経て、PC版は2019年12月2日に提供を終えた役目を終えた
- 2009.04CyberZ 設立モバイル広告代理事業の専門子会社として設立。2014年9月9日にはゲーム動画配信OPENRECを立ち上げた継続中
- 2011.02グレンジ 設立スマートフォン向けアプリの企画・開発・運営を手がける子会社を2011年2月に設立。資本金は1億円継続中
- 2011.05Cygames 設立ゲーム事業の子会社。ソーシャルゲーム領域の強化を目的に発足し、いまもグループのゲーム事業の中核を担う継続中
- 2013.01サイバーエージェントFX 譲渡FX事業会社の株式をヤフーへ譲渡。金融領域から離れ、スマートフォン事業へ資源を寄せた役目を終えた
- 2013.05マクアケ 設立サイバーエージェント・クラウドファンディングとして設立。2017年10月にマクアケへ改称し、2019年12月11日に東証マザーズへ上場した継続中
- 2014.05タップル 開始2013年12月設立のマッチングエージェントが恋活アプリを開始。マッチング領域への参入となった継続中
- 2014.12AWA 設立エイベックス・デジタルとの共同出資で設立。2015年5月27日に定額制音楽配信AWAを開始した継続中
- 2015.04AbemaTV 設立テレビ朝日との合弁で設立。同時にニュース事業のAbemaNewsも立ち上げ、動画メディアへの本格投資を始めた継続中
- 2016.01AI Lab 設立1月19日にアドテク領域の研究開発組織として設立。2019年9月のAI事業本部発足につながった継続中
- 2016.04ABEMA 本開局4月11日にインターネットテレビ局として本開局。2025年9月期の単体売上高は581億円、営業損失は45億円まで縮まった継続中
- 2017.09DDTプロレスリング 子会社化全株式を譲受。2020年1月にはプロレスリング・ノアの運営会社の全株式取得でも合意した継続中
- 2018.10FC町田ゼルビア 子会社化J2クラブの株式80%を譲受し傘下に。スポーツ領域への本格参入となった継続中
- 2018.10CAAnimation 設立10月17日にアニメレーベル子会社を設立。2017年6月に組成したCA-Cygamesアニメファンドに続くアニメ領域の中核組織継続中
- 2018.11WinTicket 設立公営競技のインターネット投票事業へ参入。後発ながら取扱高シェアは30%超に伸びた継続中
- 2019.09AI事業本部 発足8月30日に対話AI子会社AI Shiftを設立し、9月2日にAI事業本部を発足。広告とAIを結ぶ事業群を束ねた継続中
- 2020.09CyberFight 始動9月1日にDDTプロレスリング、ノア・グローバルエンタテインメント、DDTフーズの3社を統合したプロレス事業会社が始動した継続中
- 2021.06CASM 設立クレディセゾンとの合弁で6月1日に設立。出資比率はサイバーエージェント51%、クレディセゾン49%、資本金は5,000万円継続中
- 2021.07リアルゲイト 子会社化7月1日に発行済株式の過半数を取得し不動産領域へ参入。リアルゲイトは2023年6月22日に東証グロースへ上場した継続中
- 2022.05Prism Partner 設立の発表NTTドコモとの合弁による広告事業会社の設立を5月26日に発表。出資はドコモ51%・サイバーエージェント49%で、事業開始は2022年10月の予定とした継続中
- 2023.02OPENREC 譲渡CyberZが運営していたゲーム動画配信サービス。2月15日に発行済株式の大部分をDONUTSへ譲渡した役目を終えた
- 2023.09極AIお台場スタジオ 開設9月12日に開設したAI・CG特化のクリエイティブ拠点。広告クリエイティブの生成と撮影を一体で行う体制を整えた継続中
- 2023.10AIオペレーション室 新設生成AIで全社オペレーション業務の6割削減を目指し、社内公募には約2,200件の提案、賞金総額1,000万円を用意した継続中
- 2024.02メディア・IP事業本部 発足ABEMAやWINTICKETなどを束ねる事業本部を新設。2025年9月期は売上高2,315億円、営業利益72億円で黒字化した継続中
- 2024.07ニトロプラス 子会社化刀剣乱舞などのIPを持つゲーム会社の株式72.5%を約167億円で取得しグループ化した継続中
- 2024.12AIクリエイティブBPO事業部 新設極予測AIを企業向けにカスタマイズ提供し、社内制作および外注コストの50%削減を目指す継続中
- 2025.01CA Soa 設立1月10日に資本金5,000万円で設立したアニメ制作スタジオ継続中
- 2025.11サイバーグリップ 設立11月4日に資本金1,500万円で設立。成果報酬型の広告運用に特化し、先行導入企業ではCVが117〜150%に改善した継続中
- 2026.07AI SCREAM 外部提供開始2026年8月から企業向けに提供する生成AIクリエイティブ基盤。社内で約160万点を制作し、制作時間を約30%削減した継続中
- 2026.08GENDAとアニメ・IPで提携8月26日発表。アニメ&IP事業本部が、国内外で約14,000箇所の店舗・施設網を持つGENDAと提携。ポップアップ企画や商品企画、海外プロモーションを共同で進める。継続中
いま生まれているのは、AIの会社
2023年以降に並んでいるものを見ると、行き先がはっきりしている。
2023年9月に極AIお台場スタジオを開設。同年10月にはAIオペレーション室を新設し、生成AIで全社オペレーション業務の6割削減を掲げた。このときの社内公募には約2,200件の提案が集まり、賞金総額1,000万円が用意された。
2024年12月にはAIクリエイティブBPO事業部を新設し、社内制作および外注コストの50%削減を目指すと公表。2026年7月には生成AIクリエイティブ基盤AI SCREAMの外部提供を発表した。社内で約160万点を制作し、制作時間を約30%削減したと書かれている。
ここまでを、ひとつにまとめると
20年前の「あした会議」も、いまの「AIオペレーション室の社内公募2,200件」も、やっていることは同じだと思います。人から案を集めて、選んで、予算と会社をつける。変わったのは、そこから出てくる会社の中身のほうです。
挑戦する人の視点で見ると
サイバーエージェントの36件から持ち帰れるものは、「1件の事業ではなく、事業が出る仕組みを作った」ということだと思う。
2006年に会議を1つ始めた。それだけなら、どの会社にもある話だ。ちがうのは、その会議で決まったものに、そのつど会社をつけたことである。部署ではなく、会社。だから社長が生まれ、決算が分かれ、続けるか渡すかも1社ずつ判断できる。
役目を終えたものも年表に残っている。アメーバピグは2009年2月に始まり、PC版は2019年12月2日に提供を終えた。10年である。サイバーエージェントFXは2013年1月にヤフーへ譲渡され、OPENRECは2023年2月15日にDONUTSへ渡った。2026年8月にはドットマネー事業をGMOタウンWiFiへ渡している。36件のうち、役目を終えた、または次へ渡したものは4件だけである。
いま自分が新規事業の担当なら、聞いてみたいのは「これは部署ですか、会社ですか」だと思う。答えで、その事業に何年もらえるかが変わる。