富士通の年表34件を並べると、2009年から2025年までの16年に、同じ形の記録が何度も出てくる。
事業を、次へ渡した記録である。ハードディスク、システムLSI、プロバイダ、カーエレクトロニクス、パソコン、携帯電話、半導体工場、半導体パッケージ、エアコン。数えると9件ある。
そのうち金額が公表されている4件を足すと、およそ4,236億円になる。
2009年、まずハードディスクを渡した
2009年4月30日、富士通はHDD事業を東芝へ譲渡する最終契約を結んだと発表した。
受け皿として作られた東芝ストレージデバイス(TSDC)の株式は、東芝80.1%、富士通19.9%で始まる。富士通が受け取る額は、80.1%相当分が約240億円、残る19.9%相当分が約60億円、総額約300億円と公表されている。
最初の譲渡予定日は2009年7月1日、東芝による完全子会社化の予定は2010年12月末。1回で全部を渡すのではなく、1年半かけて2回に分けている。
上場している会社が、投資家の判断に影響する出来事を、決められた形で発表する仕組みです。子会社の株を売るときの株数や金額は、ここに載ります。ニュース記事ではなく、この開示が「本人の発表」になります。
金額が出ているものと、出ていないものがある。年表に金額を書けるのは、適時開示か本人の発表に載っているときだけである。報道の推計は、年表には入れない。
事業稼働チャート
2017年と2018年に、4件がまとめて動いた
ここからが速い。
2017年1月31日、ニフティ。個人向けのISP・Web事業を会社分割でノジマへ100%譲渡し、法人向けクラウドは富士通クラウドテクノロジーズへ承継した。実行は2017年4月である。
2017年4月28日、富士通テン。保有する1,886,000株を165億1,100万円でデンソーへ譲渡し、議決権保有割合を55.00%から14.00%へ下げた。実行予定日は2017年10月2日と開示されている。
2017年11月2日、パソコン。富士通クライアントコンピューティングを、レノボ51%・富士通44%・日本政策投資銀行5%の合弁会社にした。実行は2018年。
2018年1月31日、携帯端末。FCNT株式を投資ファンドのポラリスへ譲渡し、富士通の保有は30%になった。当期利益への影響は約300億円と公表されている。
2018年6月、三重富士通セミコンダクター。300mmウエハー工場を運営する子会社について、富士通セミコンダクターが持つ84.1%を台湾UMCへ譲渡することで合意した。金額の約576億円は、買い手であるUMC側の発表による数字である。
1年半のあいだに、プロバイダ、カーエレクトロニクス、パソコン、携帯電話、半導体工場が、それぞれ別の相手へ渡っている
未確認事業年表
- 1999.10富士通シーメンス・コンピュータズ設立シーメンスと50:50の合弁で欧州向けPC・サーバー事業を開始。2009年に合弁を解消した役目を終えた
- 2009.04HDD事業を東芝へ譲渡東芝ストレージデバイス株式の80.1%を約240億円、残る19.9%を約60億円の総額約300億円で譲渡した役目を終えた
- 2009.04富士通シーメンスを完全子会社化シーメンス保有の50%株式を約4億5,000万ユーロで取得し、欧州のIT事業を単独運営に切り替えた継続中
- 2010.10富士通東芝モバイルコミュニケーションズ設立東芝の携帯電話事業を統合し、富士通80.1%・東芝19.9%の出資で発足。従業員は約350名。2018年に携帯端末事業ごと譲渡した役目を終えた
- 2015富士通アクセラレーター開始スタートアップとの協業プログラム。2022年4月までに約200件の協業検討から約110件の協業実績を生んだ継続中
- 2015.03システムLSI事業をソシオネクストへ統合パナソニックとLSI事業を統合し資本金302億円で事業開始。富士通40%、パナソニック20%、日本政策投資銀行40%の出資役目を終えた
- 2017.01ニフティの個人向け事業をノジマへ譲渡会社分割でISP・Web事業をノジマへ100%譲渡し、法人向けクラウドは富士通クラウドテクノロジーズへ承継。2017年4月に実行した役目を終えた
- 2017.04富士通テン株式をデンソーへ譲渡保有株の74.5%を約165億円で譲渡し、出資比率を55.0%から14.0%へ引き下げた。2017年10月に実行した役目を終えた
- 2017.11PC事業をレノボとの合弁へ移管富士通クライアントコンピューティングをレノボ51%、富士通44%、日本政策投資銀行5%の合弁会社とし、2018年に実行した役目を終えた
- 2018.01携帯端末事業をポラリスへ譲渡FCNT株式を投資ファンドへ譲渡し富士通の保有は30%に。当期利益への影響は約300億円役目を終えた
- 2018.05デジタルアニーラ提供開始組合せ最適化問題を解くクラウドサービス。1,024ビット全結合構成。富士通は同リリースで2022年度までの5年間に1,000億円の売上を目指すと掲げた継続中
- 2018.06三重富士通セミコンダクターを譲渡300mmウエハー工場を運営する子会社について、富士通セミコンダクターが持つ84.1%を台湾UMCへ約576億円で譲渡することに合意した役目を終えた
- 2019.07Ontenna イベント支援サービス開始音を振動と光で伝えるユーザインタフェース。30台1日20万円から提供し、2021年までに1,000イベントでの利用を目指した継続中
- 2020.01Ridgelinez 設立DXコンサルティングの新会社を資本金1億円、富士通100%出資で設立。2020年4月1日に事業を開始した継続中
- 2020.10富士通Japan 発足国内向け事業を集約する新会社を約5,400名体制で発足。2021年4月には自治体・医療・教育向け部門も統合した継続中
- 2021.03スーパーコンピュータ富岳 共用開始理化学研究所と共同開発。15万8,976台のCPUを搭載し、2020年の主要4部門ランキングで世界1位を獲得した継続中
- 2021.03コーポレートベンチャーキャピタル開始100億円のCVCファンドを組成し、運用子会社の富士通ベンチャーズを資本金5,000万円で設立。運用期間は10年継続中
- 2021.10Fujitsu Uvance 開始社会課題起点の新事業ブランド。7領域を掲げ、2025年度に売上7,000億円を目標とした継続中
- 2023.04Fujitsu Kozuchi 公開先端AI技術を試せるプラットフォーム。3カ月要したPoCを3日に短縮した継続中
- 2023.1064量子ビット超伝導量子コンピュータ理化学研究所と共同で開発し、量子・古典ハイブリッド環境として外部提供を始めた継続中
- 2023.12新光電気工業株式をJIC連合へ譲渡保有50.02%(6,758万7,024株)を株式併合後の1株4,218.1円・譲渡価額2,851億円で譲渡。JICキャピタルの公開買付価格は1株5,920円だった役目を終えた
- 2024.02Uvance Wayfinders 開始コンサルティングの事業ブランド。約2,000名の体制を2025年度までにグループ全体で1万名へ広げる計画を掲げた継続中
- 2024.07Cohereへ出資し生成AIで提携企業向け大規模言語モデルを共同開発し独占的なグローバル販売権を獲得。2024年9月に製品として提供を始めた継続中
- 2024.09大規模言語モデル Takane 提供開始日本語ベンチマークJGLUEで平均0.92を記録し10言語に対応した継続中
- 2024.10Fujitsu Kozuchi AI Agent 提供開始AIが自律的に業務を進めるサービス。会議AIエージェントから開始し、2024年度内に生産管理や法務へ広げる計画継続中
- 2025.04256量子ビット超伝導量子コンピュータ理研と共同開発し64量子ビット機の4倍へ拡張。2025年度第1四半期から企業や研究機関への提供を始めた継続中
- 2025.07CVC2号ファンド 運用開始総額150億円、運用期間10年。1号ファンドで17社へ投資した実績を踏まえ、社会課題起点の投資を広げる継続中
- 2025.081万量子ビット超の研究開発を開始2030年度までに1万物理量子ビット超と250論理量子ビットの実現を目指す。NEDOの事業に採択された継続中
- 2025.08富岳NEXT の開発体制始動理研・NVIDIAと共同開発。富岳比5倍以上のハード性能を目標に、2030年ごろの稼働を目指す継続中
- 2025.08富士通ゼネラル株式を譲渡保有44.02%(4,612万1,000株)を富士通ゼネラルの自己株式取得により1株1,995円・約920億円で譲渡。同社は8月19日に上場廃止となった役目を終えた
- 2026.01富士通Japanの民需事業を承継中堅・中小企業向けと地域農林水産機関向けの事業を吸収分割で承継。効力発生日は2026年4月1日継続中
- 2026.08米GA-ASIと無人航空機の整備でMOUGeneral Atomics Aeronautical Systems社とMQ-9Bの維持整備・運用体制の構築を検討する覚書を締結。アビオニクス整備、部品管理、整備訓練、保守支援が対象継続中
- 2026.08建設工程管理支援AIの実証を開始東急建設・北野建設と共同。工程表や日報から1、2か月先の工程と抜け漏れ候補を根拠つきで示す。実証は2026年8月3日から12月25日まで継続中
- 2026.09量子アプリ開発ソフトをオープンソース公開9月15日公開。名称はOpen Quantum Application Research Package(OpenQARP)。Apache License 2.0でGitHubに公開し、量子化学アプリの開発で約130行の実装を約40行に減らせたとしている継続中
いちばん大きかったのは、2023年の2,851億円
2023年12月12日、新光電気工業。半導体パッケージの会社である。
富士通が持っていたのは67,587,024株、持株比率50.02%。JICキャピタルらによる公開買付価格は1株5,920円で、富士通が受け取る本株式譲渡価額は1株4,218.1円、譲渡価額の総額は2,851億円と開示されている。
その1年後、2025年1月6日、富士通ゼネラル。エアコンの会社である。
保有していた46,121,000株(持株比率44.02%)を、富士通ゼネラル自身による自己株式取得の形で1株1,995円、総額920億円で譲渡した。譲渡後の所有割合は0%である。同社は2025年8月19日に上場廃止となっている。
ここまでを、ひとつにまとめると
金額が公表されている4件を足すと、約300億円+165億1,100万円+2,851億円+920億円=およそ4,236億円です。ただしこれは9件のうち4件ぶんで、残りの5件には金額が出ていません。合計は「全部でいくら」ではなく、「公表されているぶんでいくら」です。ここを混ぜないことが、年表を信じてもらえるかどうかの分かれ目になります。
そのあいだ、1本だけ止まっていない線がある
計算機である。
2018年5月15日、デジタルアニーラ。組合せ最適化問題を解くクラウドサービスで、1,024ビットの全結合構成。富士通は同じリリースで、2022年度までの5年間に1,000億円の売上を目指すと掲げている。
2021年3月9日、スーパーコンピュータ富岳の共用開始。理化学研究所との共同開発で、CPUは15万8,976台。2020年の主要4部門ランキングで世界1位を取っている。
2023年10月5日、64量子ビットの超伝導量子コンピュータ。理研と共同で開発し、量子と古典を組み合わせた環境として外部提供を始めた。
2025年4月22日、256量子ビット。64量子ビット機の4倍である。
そして2025年8月1日、1万量子ビット超の研究開発を始めると発表した。2030年度までに1万物理量子ビット超と250論理量子ビットの実現を目指し、NEDOのポスト5G事業に採択されている。同じ2025年8月には、理研・NVIDIAと組む富岳NEXTの開発体制も動き出した。富岳比で5倍以上のハード性能を目標に、2030年ごろの稼働を目指す計画である。
2009年から2025年まで、渡す側の記録が9件並ぶあいだ、この線には一度も切れ目がない。
挑戦する人の視点で見ると
富士通の34件から持ち帰れるものは、「渡すもの」と「残すもの」を、同じ年表の上で決めているという点だと思う。
渡した9件は、どれも売れていない事業ではない。HDDも、パソコンも、エアコンも、買い手がついて金額がついている。渡せるということは、価値があるということである。
そして残したのは、いちばんお金と時間がかかる線だった。富岳の共用開始が2021年、64量子ビットが2023年、256量子ビットが2025年、1万量子ビット超の目標が2030年度。結果が出るまで10年単位でかかる。
いま自分が担当なら、事業の一覧を作るときに「これは渡せるか」「これは10年先に効くか」の2列を足すと思う。富士通の年表は、その2列で仕分けした結果そのものに見える。