日産自動車の年表35件を並べると、いちばん長く続いている線が1本ある。
電気自動車そのもの、ではない。その電池が、使い終わったあとの話である。
35件のうち、いま続いているものが26件。役目を終えた、または次へ渡したものが9件。そのなかで、電池の「その後」から生まれた事業が6件ある。
リーフを出す3か月前に、会社を1つ作っていた
2010年9月14日、日産は住友商事と共同でフォーアールエナジー株式会社を設立した。資本金4億5千万円、出資比率は日産51%・住友商事49%。
発表資料に書かれた事業内容はこうである。「車載用リチウムイオンバッテリーの2次利用における実証実験、事業化調査など」。
電気自動車リーフが発売されたのは、その3か月後の2010年12月だった。つまりこの会社は、まだ1台も走っていない電池の、使い終わったあとを考えるために作られている。
電気自動車で使い終わったバッテリーを、別の用途で使い直すこと。クルマ用としては力が足りなくなっても、家庭や施設の蓄電池としてならまだ十分に使えます。「リユース」とも呼ばれます。
製品を出す前に、その製品を使い終わったあとの担当会社を作っている。売り切りではなく、最後まで見届ける前提で設計されている。
事業稼働チャート
8年後、浪江町に工場ができた
2018年3月26日、フォーアールエナジーは福島県双葉郡浪江町に工場を開いた。延床面積は2,447.97㎡。
発表資料には、電気自動車の使用済みリチウムイオンバッテリーの再利用および再製品化に特化した「国内初の再利用・再製品化拠点」であり、グローバルな開発拠点としての機能と製造拠点としての機能を持つと書かれている。
設立から8年。実証と事業化調査の会社が、工場を持つ会社になった。
2010年に会社を作り、2018年に工場を建てた。あいだの8年は、年表のうえでは空白に見える
未確認事業年表
- 1999.03ルノーと資本提携ルノーが日産株の36.8%を取得。ルノーの総投資額は6,050億円で、両社合計の生産台数480万台は当時世界第4位の規模継続中
- 2001.10共同運営会社ルノー・日産BVを設立オランダに設立。ルノーの日産株保有比率を44.4%に引き上げ、日産はルノー株15%を取得して相互保有の体制へ移行した継続中
- 2003.06中国で東風汽車有限公司を設立東風グループと50%ずつ出資する合弁会社を設立。資本金167億元(約2,487億円)で、当時の中国の自動車合弁では最大の投資規模継続中
- 2007.04電池合弁AESCを設立NECグループと50%ずつ出資し、資本金4億9千万円でリチウムイオン電池の合弁会社を設立。2019年にエンビジョングループへ譲渡した役目を終えた
- 2010.04ダイムラーと戦略的提携ルノー・日産アライアンスとダイムラーが株式を3.1%ずつ相互保有し協業。2021年に資本関係を解消した役目を終えた
- 2010.09フォーアールエナジーを設立住友商事と合弁で設立。出資比率は日産51%、住友商事49%、資本金4億5千万円。EV用電池の二次利用の事業化を担う継続中
- 2010.12電気自動車リーフを発売量産電気自動車として世界で発売。2018年1月時点でグローバル累計約30万台を販売し、その後のEV事業の土台となった継続中
- 2011.06三菱自動車と軽合弁NMKVを設立三菱自動車と50%ずつ出資し、軽自動車の企画・開発を担う合弁会社を設立。2021年5月までに累計152万台を生産した継続中
- 2012.03新興国向けダットサンブランドを展開インド・インドネシア・ロシアに約4,000ドルからの低価格車を投入する計画を発表。2022年に生産・販売の提供を終えた役目を終えた
- 2012.06V2H機器LEAF to Homeを発売リーフの24kWh電池から家庭へ給電するシステムを発売。補助金適用で約33万円、最大6kWで一般家庭の約2日分の電力をまかなう継続中
- 2016.07運転支援技術プロパイロットを投入新型セレナに初搭載。高速道路の単一車線で約30〜100km/hの範囲でアクセル・ブレーキ・ステアリングを自動制御する技術を市販化継続中
- 2016.10三菱自動車株の34%を取得第三者割当増資を引き受けて発行済み株式の34%を取得し筆頭株主に。ルノー・日産と合わせ世界トップ3規模のグループを形成した継続中
- 2016.11e-POWERをノートに初搭載エンジンで発電しモーターのみで駆動する新パワートレインを投入。JC08モード燃費37.2km/L、価格は177万2,280円から継続中
- 2018.01カーシェアe-シェアモビを開始リーフとノートe-POWERを使うEVカーシェアを開始。東京・大阪など約30ステーションで展開し、料金は15分200円から継続中
- 2018.03無人運転サービスEasy Rideの実証DeNAと共同で横浜みなとみらい地区で実証実験を開始。往復約4.5kmのコースに一般モニター約300組が参加した継続中
- 2018.03浪江町にEV電池再製品化工場を開設フォーアールエナジーが福島県浪江町に約2,448平方メートルの工場を開所。使用済みEV用電池の再製品化専用工場としては日本初継続中
- 2018.05電動化アクション ブルー・スイッチ 開始自治体や企業と連携し電気自動車で地域課題を解決する取り組みを開始。2023年1月の神奈川県との協定で累計200件に到達した継続中
- 2018.08バッテリー事業をエンビジョンへ譲渡AESCの全株式と米国・英国の電池工場を譲渡。日産は新会社の25%を保有し、2019年3月に取引を完了した役目を終えた
- 2018.11エネルギー事業Nissan Energyを発表EV電池を家庭・ビル・電力網につなぐ事業構想。世界の日産EVの蓄電容量は10GWh以上、CHAdeMO急速充電器は2万2,000基超継続中
- 2020.07クロスオーバーEVアリアを発表新世代の電気自動車として発表。最高出力394ps、一充電走行距離は最大610km。2021年から日本を皮切りにグローバル展開した継続中
- 2022.05軽電気自動車サクラを発表軽自動車規格の量産EVを投入。価格233万3,100円から、一充電走行距離180km。2026年7月に国内累計10万台を達成した継続中
- 2023.02ルノーとの提携を対等な関係へ再編相互に15%の株式を保有する新契約に合意。ルノーは日産株28.4%をフランスの信託会社に信託し、契約期間は当初15年とした継続中
- 2023.08再生電池のポータブル電源を発売JVCケンウッド、フォーアールエナジーと共同開発。容量633Wh、価格15万5,000円で2023年9月1日に発売した継続中
- 2024.02ニッサンエナジーシェアを提供開始主に法人・事業者・自治体に向けて、EVのバッテリーを蓄電池として充放電制御するエネルギーマネジメントを3月1日に開始。コンサルテーション、システム構築、保守運用の3つで提供する継続中
- 2024.03三菱商事と新規事業の検討で覚書次世代モビリティサービスとEVを活用したエネルギー関連サービスの2領域で共同事業を検討する覚書を3月18日に締結した継続中
- 2024.12Hondaとの経営統合検討で基本合意共同持株会社の設立による経営統合を検討する基本合意書を締結。売上高30兆円超を目指したが、2025年2月に協議を終えた役目を終えた
- 2025.03インド合弁の持分51%をルノーへ譲渡ルノー日産オートモーティブインディアの日産保有分51%を譲渡し同社は100%子会社に。相互出資の下限は15%から10%へ役目を終えた
- 2025.05経営再建計画Re:Nissanを発表車両生産工場を2027年度までに17から10へ統合し2万人を削減。固定費・変動費で計5,000億円のコスト削減を掲げた継続中
- 2025.07追浜工場の車両生産を終了へ2027年度末で車両生産を終え日産自動車九州へ統合。1961年の操業開始以来、累計1,780万台以上を生産した工場の役割を終える役目を終えた
- 2025.09AI搭載の次世代プロパイロットを公開英Wayveのソフトウエアを採用。カメラ11個・レーダー5個・LiDAR1個を組み合わせ、2027年度に市販車へ搭載する計画継続中
- 2025.11横浜本社ビルを970億円で譲渡台湾系企業などが出資する特別目的会社へ譲渡し、20年のリースバックで使用を継続。特別利益として約739億円を計上する役目を終えた
- 2026.01南アフリカ工場を奇瑞汽車へ譲渡ロスリン工場の土地・建物を中国の奇瑞汽車へ売却で合意。ナバラの生産は2022年の1万8,961台から2024年は1万1,419台に減少役目を終えた
- 2026.04販売2社を統合し日産愛知販売を設立愛知日産自動車と日産プリンス名古屋販売を統合し新会社を設立。従業員約1,800人で、国内販売子会社では2番目の規模継続中
- 2026.08Hondaと次世代SDVの共通化で共同開発8月31日に共同開発契約を締結。複数のECUと、その上で動く車載OS・ミドルウェア・車両制御ソフトの主要部分を共通化し、2029年度以降の次世代SDVへの適用をめざす継続中
- 2026.09横浜市で自動運転モビリティサービスの実証9月14日発表。みなとみらいなどの市街地でセレナベースの自動運転車両10台を走らせる。乗降地は28か所で、第1期は10月1日から、第2期は11月4日から。前年度は5台・26か所だった継続中
2023年、その電池が製品になって店頭に並んだ
2023年8月31日、日産はJVCケンウッド、フォーアールエナジーと共同開発した「ポータブルバッテリー from LEAF」を発表した。
容量は633Wh。価格は155,000円(税込170,500円)で、2023年9月1日から日産の販売店舗で発売された。中身は発表資料の言葉で「電気自動車『日産リーフ』の再生バッテリー」である。
その半年後、2024年2月2日にはニッサンエナジーシェアを発表した。主に法人や事業者、自治体に向けたサービスで、EVのバッテリーを蓄電池として充放電制御するエネルギーマネジメントを、コンサルテーション・システム構築・保守運用の3つで提供する。開始は2024年3月1日である。
家庭向けは、もっと前から出ていた。2012年6月のLEAF to Homeは、リーフの24kWh電池から家庭へ給電するシステムで、補助金適用で約33万円、最大6kWで一般家庭の約2日分の電力をまかなうと公表されている。
ここまでを、ひとつにまとめると
この6件は、すべて同じ1つの部品から出ています。リーフの電池です。会社を作り(2010年)、工場を建て(2018年)、家庭へつなぎ(2012年)、商品にして店に並べ(2023年)、法人向けサービスにした(2024年)。新しい技術を足したのではなく、すでにあるものの行き先を増やしています。
いっぽうで、9件は次へ渡している
同じ年表に、渡した記録も並んでいる。
2007年4月にNECグループと50%ずつ出資して作った電池合弁AESCは、2018年8月に全株式と米国・英国の電池工場をエンビジョングループへ譲渡し、2019年3月に取引を完了した。日産は新会社の25%を保有している。
2012年3月に始めた新興国向けのダットサンブランドは2022年に提供を終え、2010年4月のダイムラーとの戦略的提携は2021年に資本関係を解消した。2024年12月にHondaと結んだ経営統合の検討は2025年2月に協議を終え、2025年3月にはインド合弁の持分51%をルノーへ渡している。
2025年5月には経営再建計画Re:Nissanを公表した。車両生産工場を2027年度までに17から10へ統合し、固定費・変動費で計5,000億円のコスト削減を掲げている。
その一方で、新しく始めたものも同じ年に出ている。2025年9月にはAIを積んだ次世代プロパイロットを公開し(英Wayveのソフトウエアを採用、カメラ11個・レーダー5個・LiDAR1個、2027年度に市販車搭載の計画)、2026年9月14日には横浜市の市街地で、セレナをベースとした自動運転車両10台・乗降地28か所の実証を発表した。前年度は5台・26か所だった。
挑戦する人の視点で見ると
日産の35件から持ち帰れるものは、「製品の前に、その製品の終わりを担当する場所を作る」ということだと思う。
ふつう、使い終わったあとの話は最後に考える。だがこの会社は、リーフを売り出す3か月前に、その電池の二次利用を担当する会社を資本金4億5千万円で作っている。
そして、そこから出てきた事業は6件ある。工場、家庭への給電、ポータブル電源、法人向けサービス。どれも新しい技術ではなく、すでに社内にある部品の行き先である。
いま自分が担当なら、企画書に「この製品は、使い終わったあと誰のものになるか」を1行入れると思う。その1行が、10年後の事業になっている会社が実際にある。