ホンダの年表30件を並べると、ほかの会社とちがうところが1つある。始まりが1986年なのだ。
この年、ホンダは小型ジェット機と二足歩行ロボットの基礎研究を、同時に始めている。どちらもクルマでもバイクでもない。
片方は29年後に飛行機の型式証明になり、もう片方はASIMOになった。30件のうち、いま続いているものが25件。役目を終えた、または次へ渡したものが4件である。
研究着手から型式証明まで、29年かかっている
1986年に始まった航空機の研究が、「事業化を決定」と公表されたのは2006年3月である。20年が経っていた。
同じ年の8月、米ノースカロライナ州に全額出資子会社ホンダ エアクラフト カンパニーを設立し、本社・工場の建設に約6千万ドル(約71億円)を投じている。その前の2004年10月には、GEアビエーションと50対50でエンジンの合弁GE Honda Aero Enginesを作っていた。
そして米国東部時間2015年12月8日、HondaJetは米連邦航空局(FAA)の型式証明を取得した。発表資料によれば、試験飛行は3,000時間を超え、米国内で70ヵ所以上の空港や試験施設が使われている。
1986年から数えて、29年である。
航空機の設計が安全基準を満たしていると、国の航空当局が認める手続きのこと。これがないと量産して売ることができません。取得までに何千時間もの試験飛行が必要で、時間もお金もかかる関門です。
この年表では「研究着手」「事業化を決定」「型式証明を取得」が、別々の日付で公表されている。自分の案件でも、この3つを分けて記録しておくと、あとから説明しやすくなる。
事業稼働チャート
同じ1986年から、もう1つの研究が走っていた
二足歩行ロボットのほうである。同年に試作機E0が完成し、1996年のP2発表を経て、2000年11月にASIMOとして世に出た。身長120cm、体重43kg、自由度26。
青山本社での一般向け実演は2022年3月31日に終えている。発表から数えて21年4か月である。
ただし、この会社の年表を見ると、ASIMOで終わっていない。2021年9月30日、ホンダはアバターロボット・eVTOL・宇宙の3領域への参入を公表した。アバターロボットは2030年代の実用化を視野に置いている。
1986年に2つ始めて、2021年にまた3つ始めている。この会社の年表は、途切れていない
未確認事業年表
- 1986航空機と二足歩行ロボットの研究に着手小型ジェット機とヒューマノイドの基礎研究を同時に開始。同年に試作機E0が完成し、1996年のP2発表を経てHondaJetとASIMOにつながった継続中
- 2000.11人型ロボットASIMOを発表身長120cm、体重43kg、自由度26の二足歩行ロボット。青山本社での一般向け実演は2022年3月31日に終えた役目を終えた
- 2004.10GE Honda Aero Engines 設立GEアビエーションと50対50の出資比率で設立した航空機エンジン合弁。小型ターボファンHF120は2013年12月にFAA型式認定を取得継続中
- 2006.03HondaJetの事業化を決定1986年に始めた研究を正式に事業化。同年10月のNBAA総会で受注を開始し、初日だけで100機超を積み上げた継続中
- 2006.08ホンダ エアクラフト カンパニー 設立米ノースカロライナ州に全額出資子会社を設立。本社・工場建設に約6千万ドル(約71億円)を投じた継続中
- 2006.12ホンダソルテック 設立CIGS薄膜太陽電池の生産販売子会社。資本金40億円、生産能力約30メガワット、累計投資約70億円。2014年春に事業を終えた役目を終えた
- 2015.12HondaJet 型式証明を取得米連邦航空局から12月8日に取得し、23日に引き渡しを開始。3,000時間超の試験飛行を経た継続中
- 2017Honda R&D Innovations を設立シリコンバレー発のオープンイノベーション組織。2005年に始めたCVC活動を発展させ、2020年にHonda Innovationsへ社名を変更した継続中
- 2017.01GMと燃料電池合弁FCSMを設立米ミシガン州に折半出資で設立。投資額は両社合計8,500万ドル、施設面積は7万平方フィート継続中
- 2018.10GM Cruiseへ27.5億ドルを出資自動運転領域でGMと提携。7.5億ドルを出資し12年間で約20億ドルの事業資金を拠出。出資後のCruiseの企業価値は146億ドル継続中
- 2021.01日立Astemo 発足日立オートモティブシステムズにケーヒン・ショーワ・日信工業を統合。出資比率は日立66.6%、Honda33.4%継続中
- 2021.09新領域への挑戦を公表アバターロボット、eVTOL、宇宙の3領域に参入。アバターロボットは2030年代の実用化を視野に置いた継続中
- 2022.04Gachaco 設立電動二輪の交換式バッテリー共有会社。ENEOS51%、Honda34%、カワサキ・スズキ・ヤマハ各5%の出資継続中
- 2022.09ソニー・ホンダモビリティ 設立ソニーと折半出資のEV合弁。資本金100億円。2026年3月25日にHondaはAFEELA 1と第2弾モデルの開発・発売を取りやめると発表した継続中
- 2022.10米オハイオ州にEV電池工場を決定LGエナジーソリューションとの合弁工場の建設地を決定。初期投資35億USドル、最終44億USドル、地元雇用は約2,200人継続中
- 2023Honda Xcelerator Ventures を設立CVC機能を再編。シリコンバレーなど7拠点で展開し、投資先はアクティブ13社、Exit3社継続中
- 2023.01LGとEV電池合弁を正式設立出資比率はLGエナジーソリューション51%、Honda49%。投資額2億1千万USドル、年産能力40GWh継続中
- 2023.07八千代工業の株式譲渡で基本合意完全子会社化のうえ議決権81%相当をインドのマザーサン系企業へ譲渡し、Honda保有は19%となった役目を終えた
- 2024.01GM合弁で燃料電池システムの生産開始FCSMで量産を開始。CLARITY FUEL CELL比でコストを3分の1に下げ、耐久性を2倍に高めた継続中
- 2024.07ALTNA 設立三菱商事と50%ずつ出資、資本金20億円。バッテリーリース、リパーパス蓄電、スマート充電の3事業を手がける継続中
- 2024.12日産と経営統合の基本合意書を締結共同持株会社方式で売上高30兆円超、営業利益3兆円超を掲げた。2025年2月13日に基本合意書を解約した役目を終えた
- 2025.06再使用型ロケットの離着陸実験に成功実験機が高度271.4mまで上昇し、56.6秒の飛行後に目標から37cmの誤差で着地。2029年の準軌道到達を目指す継続中
- 2025.12Astemoを連結子会社化日立から21%相当を約1,500億円で追加取得し、出資比率をHonda61%、日立19%、JICC20%に変更すると決定継続中
- 2026.01アルゼンチンに販売金融子会社を設立Honda Plan Argentinaを資本金500万USドルで設立。二輪の共同購入制度を展開する継続中
- 2026.04インドにデジタルサービス新会社Honda Digital Innovation India を100%出資で設立。資本金3億インドルピー継続中
- 2026.04Gachacoを連結子会社化第三者割当による普通株式34万株を3億4,000万円で引き受け、出資比率を47%に引き上げた継続中
- 2026.05電池材料のネクシオンへ出資英Nexeonの戦略的投資家となることを5月28日に発表。シリコン系負極材料の開発を加速する継続中
- 2026.07Noetraへ出資しAI基盤モデル開発国産マルチモーダル基盤モデルの研究開発に44社の1社として中核出資した継続中
- 2026.08日産と次世代SDVの共通化で共同開発8月31日に共同開発契約を締結。複数のECUと、その上で動く車載OS・ミドルウェア・車両制御ソフトの主要部分を共通化し、2029年度以降の次世代SDVへの適用をめざす継続中
- 2026.09レアアース不使用磁石の米Niron Magneticsへ出資9月9日に出資先が発表。窒化鉄の永久磁石を手がけレアアースを使わない。出資額の記載なし継続中
2025年6月17日、ロケットが37cmの誤差で降りた
2021年に公表した3領域のうち、宇宙がいちばん早く形になった。
2025年6月17日16時15分、北海道広尾郡大樹町のHonda専用実験設備で、再使用型ロケットの実験機が離着陸実験に成功した。
公表された数字はこうだ。全長6.3m、直径85cm、重量はDry 900kg/Wet 1,312kg。到達高度271.4m、飛行時間56.6秒、着地は目標から37cmの誤差。
そして目標として「2029年に準軌道への到達能力実現」を掲げている。2021年の公表から8年後である。
ここまでを、ひとつにまとめると
この会社の年表は、「始めた日」と「形になった日」の間が、とにかく長い。航空機は29年、ロボットは14年、ロケットは公表から4年で271.4mまで来て、準軌道はさらに4年先。それでも途中で年表が途切れていないことが、いちばんの特徴です。
近年は「1社でやらない」形が増えている
2017年以降の記録を見ると、組む相手が毎回いる。
2017年1月、GMと米ミシガン州に折半出資で燃料電池の合弁FCSMを設立(両社合計8,500万ドル)。2018年10月にはGM Cruiseへ27.5億ドルの枠で提携した。2022年9月にはソニーと折半出資でソニー・ホンダモビリティ(資本金100億円)、2023年1月にはLGエナジーソリューションとEV電池の合弁(Honda49%、年産能力40GWh)。
2024年7月には三菱商事と50%ずつ出資してALTNA(資本金20億円)。そして2026年8月31日には、日産自動車と次世代SDVのECU・ソフトウェア共通化で共同開発契約を結んだ。2029年度以降の適用をめざしている。
2024年12月に結んだ日産との経営統合の基本合意書は、2025年2月13日に解約された。会社を1つにする話は次へ渡り、技術を共通化する話が残った形である。
挑戦する人の視点で見ると
ホンダの30件から持ち帰れるものは、「長さを、そのまま記録に残す」ということだと思う。
この会社は、1986年の研究着手、2006年の事業化決定、2015年の型式証明取得を、それぞれ別の日付で公表している。20年かかったことも、29年かかったことも、隠していない。
新規事業の稟議では、たいてい「いつ黒字になるか」を聞かれる。だが、この年表が示しているのは別のことだ。長くかかるものは、長くかかると先に言っておくほうが、途中で止まりにくい。
いま自分が担当なら、資料の1ページ目に「これは何年の案件か」を書くと思う。3年なのか、10年なのか、29年なのか。それを先に決めておかないと、2年目の評価で話が終わってしまう。