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NEWFOR / 記事一覧 / #034 本田技研工業

ホンダは1986年に2つの研究を始めて、
29年かけて飛行機を飛ばし、
2025年にロケットを37cmの誤差で降ろした

30件の記録を並べると、この会社の新規事業は「長さ」で説明がつきます。1986年に始めた航空機の研究が事業化されたのは2006年、型式証明を取ったのは2015年12月8日。着手から29年です。同じ1986年に始めた二足歩行ロボットの研究はASIMOになり、青山本社での実演を2022年3月31日に終えました。

Soichiro2026年9月14日じっくり読んで 約9分
記録した新規事業
29件
1986年の航空機・二足歩行ロボットの研究着手から、2026年8月の日産との共同開発契約まで、公開情報から拾って年表に並べた件数です
いま続いているもの
26件
30件のうち、公開情報で継続が確認できるもの。役目を終えた、または次へ渡したものが4件あります
研究着手から型式証明まで
29年
1986年の研究着手から、2015年12月8日のFAA型式証明取得までの年数。事業化の決定は2006年3月でした
ロケットの着地誤差
37cm
2025年6月17日、北海道大樹町のHonda専用実験設備で、実験機が高度271.4mまで上昇し56.6秒の飛行後に着地したときの目標との誤差です
この記事はこんな方に
  • すぐに結果が出ない案件を抱えている方へ。着手から事業化まで20年、型式証明まで29年という記録が、発表日つきで並びます
  • 研究を事業に変えたい方へ。1986年の研究が「事業化を決定」と公表されるまでの20年が、そのまま読めます
  • いま新領域を任された方へ。2021年に公表した3領域が、4年でどこまで進んだかを数字で確かめられます
3行でいうと
  1. 本田技研工業は1986年、小型ジェット機と二足歩行ロボットの基礎研究を同時に始めた。航空機のほうは2006年3月に事業化を決定し、同年8月に米ノースカロライナ州へホンダ エアクラフト カンパニーを設立、本社・工場建設に約6千万ドル(約71億円)を投じている。HondaJetが米連邦航空局(FAA)の型式証明を取得したのは米国東部時間2015年12月8日で、研究着手から29年、3,000時間を超える試験飛行を経ていた。
  2. もう一方の二足歩行ロボットは、2000年11月に身長120cm・体重43kg・自由度26のASIMOとして発表された。青山本社での一般向け実演は2022年3月31日に終えている。研究そのものは1986年の試作機E0、1996年のP2発表を経てここへつながった。
  3. 2021年9月30日、ホンダはアバターロボット・eVTOL・宇宙の3領域への参入を公表した。その宇宙が、2025年6月17日16時15分の実験につながる。北海道広尾郡大樹町のHonda専用実験設備で、全長6.3m・直径85cm・重量Dry900kgの実験機が高度271.4mまで上昇し、56.6秒の飛行後に目標から37cmの誤差で着地した。2029年に準軌道への到達能力を実現することを目指すと公表している。

ホンダの年表30件を並べると、ほかの会社とちがうところが1つある。始まりが1986年なのだ。

この年、ホンダは小型ジェット機と二足歩行ロボットの基礎研究を、同時に始めている。どちらもクルマでもバイクでもない。

片方は29年後に飛行機の型式証明になり、もう片方はASIMOになった。30件のうち、いま続いているものが25件。役目を終えた、または次へ渡したものが4件である。

この記事は2026年9月時点の公開情報にもとづきます。数値はすべて本田技研工業および各社の公表値です。

研究着手から型式証明まで、29年かかっている

1986年に始まった航空機の研究が、「事業化を決定」と公表されたのは2006年3月である。20年が経っていた。

同じ年の8月、米ノースカロライナ州に全額出資子会社ホンダ エアクラフト カンパニーを設立し、本社・工場の建設に約6千万ドル(約71億円)を投じている。その前の2004年10月には、GEアビエーションと50対50でエンジンの合弁GE Honda Aero Enginesを作っていた。

そして米国東部時間2015年12月8日、HondaJetは米連邦航空局(FAA)の型式証明を取得した。発表資料によれば、試験飛行は3,000時間を超え、米国内で70ヵ所以上の空港や試験施設が使われている。

1986年から数えて、29年である。

用語型式証明かたしきしょうめい

航空機の設計が安全基準を満たしていると、国の航空当局が認める手続きのこと。これがないと量産して売ることができません。取得までに何千時間もの試験飛行が必要で、時間もお金もかかる関門です。

実務のコツ

この年表では「研究着手」「事業化を決定」「型式証明を取得」が、別々の日付で公表されている。自分の案件でも、この3つを分けて記録しておくと、あとから説明しやすくなる。

CHART

事業稼働チャート

ホンダが1986年以降に始めた主な動きと、その期間
航空機の研究(1986〜)1986–
二足歩行ロボットの研究(1986〜)1986–
ASIMO(青山本社での実演)2000–2022
GE Honda Aero Engines(50対50)2004–
HondaJet 事業化の決定2006–
ホンダ エアクラフト カンパニー(約71億円)2006–
ホンダソルテック(太陽電池)2006–2014
HondaJet 型式証明(29年目)2015–
Honda R&D Innovations2017–
GMと燃料電池合弁FCSM(8,500万ドル)2017–
GM Cruiseへ出資(27.5億ドル)2018–
日立Astemo(Honda33.4%)2021–
新領域3つ(アバター・eVTOL・宇宙)2021–
Gachaco(交換式バッテリー)2022–
ソニー・ホンダモビリティ(資本金100億円)2022–
オハイオのEV電池工場(最終44億ドル)2022–
Honda Xcelerator Ventures2023–
LGとのEV電池合弁(年産40GWh)2023–
八千代工業の株式譲渡2006–2023
ALTNA(三菱商事と50%ずつ)2024–
日産との経営統合の基本合意2024–2025
再使用型ロケット(2029年に準軌道へ)2025–
Astemoを連結子会社化(約1,500億円)2025–
インドにデジタルサービス新会社2026–
電池材料のネクシオンへ出資2026–
日産と次世代SDVの共通化2026–
198620002010201820222026
継続中役目を終えた

同じ1986年から、もう1つの研究が走っていた

二足歩行ロボットのほうである。同年に試作機E0が完成し、1996年のP2発表を経て、2000年11月にASIMOとして世に出た。身長120cm、体重43kg、自由度26。

青山本社での一般向け実演は2022年3月31日に終えている。発表から数えて21年4か月である。

ただし、この会社の年表を見ると、ASIMOで終わっていない。2021年9月30日、ホンダはアバターロボット・eVTOL・宇宙の3領域への参入を公表した。アバターロボットは2030年代の実用化を視野に置いている。

1986年に2つ始めて、2021年にまた3つ始めている。この会社の年表は、途切れていない

TIMELINE

未確認事業年表

ホンダが公開情報で発表した新規事業を、始めた順に
  • 1986航空機と二足歩行ロボットの研究に着手小型ジェット機とヒューマノイドの基礎研究を同時に開始。同年に試作機E0が完成し、1996年のP2発表を経てHondaJetとASIMOにつながった継続中
  • 2000.11人型ロボットASIMOを発表身長120cm、体重43kg、自由度26の二足歩行ロボット。青山本社での一般向け実演は2022年3月31日に終えた役目を終えた
  • 2004.10GE Honda Aero Engines 設立GEアビエーションと50対50の出資比率で設立した航空機エンジン合弁。小型ターボファンHF120は2013年12月にFAA型式認定を取得継続中
  • 2006.03HondaJetの事業化を決定1986年に始めた研究を正式に事業化。同年10月のNBAA総会で受注を開始し、初日だけで100機超を積み上げた継続中
  • 2006.08ホンダ エアクラフト カンパニー 設立米ノースカロライナ州に全額出資子会社を設立。本社・工場建設に約6千万ドル(約71億円)を投じた継続中
  • 2006.12ホンダソルテック 設立CIGS薄膜太陽電池の生産販売子会社。資本金40億円、生産能力約30メガワット、累計投資約70億円。2014年春に事業を終えた役目を終えた
  • 2015.12HondaJet 型式証明を取得米連邦航空局から12月8日に取得し、23日に引き渡しを開始。3,000時間超の試験飛行を経た継続中
  • 2017Honda R&D Innovations を設立シリコンバレー発のオープンイノベーション組織。2005年に始めたCVC活動を発展させ、2020年にHonda Innovationsへ社名を変更した継続中
  • 2017.01GMと燃料電池合弁FCSMを設立米ミシガン州に折半出資で設立。投資額は両社合計8,500万ドル、施設面積は7万平方フィート継続中
  • 2018.10GM Cruiseへ27.5億ドルを出資自動運転領域でGMと提携。7.5億ドルを出資し12年間で約20億ドルの事業資金を拠出。出資後のCruiseの企業価値は146億ドル継続中
  • 2021.01日立Astemo 発足日立オートモティブシステムズにケーヒン・ショーワ・日信工業を統合。出資比率は日立66.6%、Honda33.4%継続中
  • 2021.09新領域への挑戦を公表アバターロボット、eVTOL、宇宙の3領域に参入。アバターロボットは2030年代の実用化を視野に置いた継続中
  • 2022.04Gachaco 設立電動二輪の交換式バッテリー共有会社。ENEOS51%、Honda34%、カワサキ・スズキ・ヤマハ各5%の出資継続中
  • 2022.09ソニー・ホンダモビリティ 設立ソニーと折半出資のEV合弁。資本金100億円。2026年3月25日にHondaはAFEELA 1と第2弾モデルの開発・発売を取りやめると発表した継続中
  • 2022.10米オハイオ州にEV電池工場を決定LGエナジーソリューションとの合弁工場の建設地を決定。初期投資35億USドル、最終44億USドル、地元雇用は約2,200人継続中
  • 2023Honda Xcelerator Ventures を設立CVC機能を再編。シリコンバレーなど7拠点で展開し、投資先はアクティブ13社、Exit3社継続中
  • 2023.01LGとEV電池合弁を正式設立出資比率はLGエナジーソリューション51%、Honda49%。投資額2億1千万USドル、年産能力40GWh継続中
  • 2023.07八千代工業の株式譲渡で基本合意完全子会社化のうえ議決権81%相当をインドのマザーサン系企業へ譲渡し、Honda保有は19%となった役目を終えた
  • 2024.01GM合弁で燃料電池システムの生産開始FCSMで量産を開始。CLARITY FUEL CELL比でコストを3分の1に下げ、耐久性を2倍に高めた継続中
  • 2024.07ALTNA 設立三菱商事と50%ずつ出資、資本金20億円。バッテリーリース、リパーパス蓄電、スマート充電の3事業を手がける継続中
  • 2024.12日産と経営統合の基本合意書を締結共同持株会社方式で売上高30兆円超、営業利益3兆円超を掲げた。2025年2月13日に基本合意書を解約した役目を終えた
  • 2025.06再使用型ロケットの離着陸実験に成功実験機が高度271.4mまで上昇し、56.6秒の飛行後に目標から37cmの誤差で着地。2029年の準軌道到達を目指す継続中
  • 2025.12Astemoを連結子会社化日立から21%相当を約1,500億円で追加取得し、出資比率をHonda61%、日立19%、JICC20%に変更すると決定継続中
  • 2026.01アルゼンチンに販売金融子会社を設立Honda Plan Argentinaを資本金500万USドルで設立。二輪の共同購入制度を展開する継続中
  • 2026.04インドにデジタルサービス新会社Honda Digital Innovation India を100%出資で設立。資本金3億インドルピー継続中
  • 2026.04Gachacoを連結子会社化第三者割当による普通株式34万株を3億4,000万円で引き受け、出資比率を47%に引き上げた継続中
  • 2026.05電池材料のネクシオンへ出資英Nexeonの戦略的投資家となることを5月28日に発表。シリコン系負極材料の開発を加速する継続中
  • 2026.07Noetraへ出資しAI基盤モデル開発国産マルチモーダル基盤モデルの研究開発に44社の1社として中核出資した継続中
  • 2026.08日産と次世代SDVの共通化で共同開発8月31日に共同開発契約を締結。複数のECUと、その上で動く車載OS・ミドルウェア・車両制御ソフトの主要部分を共通化し、2029年度以降の次世代SDVへの適用をめざす継続中
  • 2026.09レアアース不使用磁石の米Niron Magneticsへ出資9月9日に出資先が発表。窒化鉄の永久磁石を手がけレアアースを使わない。出資額の記載なし継続中

2025年6月17日、ロケットが37cmの誤差で降りた

2021年に公表した3領域のうち、宇宙がいちばん早く形になった。

2025年6月17日16時15分、北海道広尾郡大樹町のHonda専用実験設備で、再使用型ロケットの実験機が離着陸実験に成功した。

公表された数字はこうだ。全長6.3m、直径85cm、重量はDry 900kg/Wet 1,312kg。到達高度271.4m、飛行時間56.6秒、着地は目標から37cmの誤差。

そして目標として「2029年に準軌道への到達能力実現」を掲げている。2021年の公表から8年後である。

新規事業マニアの解説

ここまでを、ひとつにまとめると

この会社の年表は、「始めた日」と「形になった日」の間が、とにかく長い。航空機は29年、ロボットは14年、ロケットは公表から4年で271.4mまで来て、準軌道はさらに4年先。それでも途中で年表が途切れていないことが、いちばんの特徴です。

近年は「1社でやらない」形が増えている

2017年以降の記録を見ると、組む相手が毎回いる。

2017年1月、GMと米ミシガン州に折半出資で燃料電池の合弁FCSMを設立(両社合計8,500万ドル)。2018年10月にはGM Cruiseへ27.5億ドルの枠で提携した。2022年9月にはソニーと折半出資でソニー・ホンダモビリティ(資本金100億円)、2023年1月にはLGエナジーソリューションとEV電池の合弁(Honda49%、年産能力40GWh)。

2024年7月には三菱商事と50%ずつ出資してALTNA(資本金20億円)。そして2026年8月31日には、日産自動車と次世代SDVのECU・ソフトウェア共通化で共同開発契約を結んだ。2029年度以降の適用をめざしている。

2024年12月に結んだ日産との経営統合の基本合意書は、2025年2月13日に解約された。会社を1つにする話は次へ渡り、技術を共通化する話が残った形である。

挑戦する人の視点で見ると

ホンダの30件から持ち帰れるものは、「長さを、そのまま記録に残す」ということだと思う。

この会社は、1986年の研究着手、2006年の事業化決定、2015年の型式証明取得を、それぞれ別の日付で公表している。20年かかったことも、29年かかったことも、隠していない。

新規事業の稟議では、たいてい「いつ黒字になるか」を聞かれる。だが、この年表が示しているのは別のことだ。長くかかるものは、長くかかると先に言っておくほうが、途中で止まりにくい。

いま自分が担当なら、資料の1ページ目に「これは何年の案件か」を書くと思う。3年なのか、10年なのか、29年なのか。それを先に決めておかないと、2年目の評価で話が終わってしまう。

READERS' VOICE

ここまで読んだ、あなたへ

ひとつ選ぶと、ほかの読者が何を選んだかが、その場で見えます。
この記録がどう受け取られたのかを、みんなで確かめる場所です。

NEWFOR MEMO
新規事業マニアのメモ ─ 自分が担当だったら

自分が担当だったら、この年表から持ち帰るのは「長さを隠さない」という一点だと思う。

1986年に航空機と二足歩行ロボットの研究を同時に始めている。事業化の決定は2006年3月(20年後)、FAAの型式証明は2015年12月8日(29年後)。試験飛行は3,000時間超、使った空港・試験施設は米国内70ヵ所以上。どれも公表値である。

2025年6月17日のロケット実験の数字も細かい。高度271.4m、飛行56.6秒、着地誤差37cm、全長6.3m、直径85cm、Dry 900kg。ここまで出すのは、次の資金と人を確保するためだと読める。数字が細かいほど、社内で通しやすい。

近年は組む相手がいる形が増えた。GMと燃料電池(両社計8,500万ドル)、ソニーとEV(資本金100億円)、LGと電池(年産40GWh)、三菱商事とALTNA(資本金20億円)。2026年8月31日には日産と次世代SDVのソフト共通化で共同開発契約を結んでいる。

最後に、止まった話も年表に残っている。2024年12月の日産との経営統合の基本合意書は、2025年2月13日に解約された。それでも1年半後、技術を共通化する契約のほうは結ばれている。同じ相手でも、組み方を変えれば別の道がある。

Soichiro新規事業マニア
40代 / 事業開発
新規事業マニア。20代でスタートアップを立ち上げ、1社を上場企業へ売却。その後、外資系コンサルティングファーム、通信大手、大手人材グループ、国内大手ITサービスの中で、社員として新規事業の立ち上げに携わる。並行して顧問として10社近くの新規事業を担当。事業立ち上げ歴20年。名前は、本田宗一郎への敬意から。
20年 事業立ち上げ歴1社 上場企業へ売却4社 事業会社の中で立ち上げ10社 顧問として担当