任天堂の年表27件を並べると、事業の名前がばらばらに見える。スマホアプリ、映画、テーマパーク、直営ストア、資料館、量子でも半導体でもない建物。
だが、置き方を変えると1つになる。この10年で任天堂がやったのは、ゲーム機の外に、マリオやゼルダが居られる場所を増やすことだった。
27件のうち、いま続いているものが24件。役目を終えたものは3件である。
最初の一歩は、2015年3月17日だった
この日、任天堂はDeNAと業務・資本提携を結んでいる。相互に約220億円分の株式を持ち合う形で、DeNAが任天堂株1.24%、任天堂がDeNA株10.00%を取得した。払込は4月2日である。
同時に表明したのが、自社IPを使ったスマートデバイス向けアプリへの参入だった。ゲーム機以外で、はじめて自社のキャラクターを出すという決定である。
第1弾は2016年3月17日に配信を始めた「Miitomo」。ただし約2年2か月後の2018年5月9日に提供を終えている。年表のなかで、役目を終えた3件のうちの1つだ。
同じ2015年の10月には、株式会社ポケモンの公表により、任天堂がGoogleを含む3社でNiantic, Inc.へ出資していたことが明らかになっている。『Pokémon GO』を共同で手がける会社である。
最初のスマホアプリは2年2か月で役目を終えた。だが「ゲーム機の外に出る」という判断のほうは、いまも続いている。1件の結果と、方向の判断は別ものとして年表に残る。
事業稼働チャート
増やしたのは、事業ではなく場所だった
2019年11月、渋谷PARCOに国内初の直営オフィシャルストアNintendo TOKYOが開いた。以後、大阪、京都と続き、2025年5月19日にはアミュプラザ博多へのNintendo FUKUOKA出店を発表している。国内4店舗目で、2025年末の開店予定である。
2021年3月18日には、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでスーパー・ニンテンドー・ワールドがグランドオープンした。同じ年の9月には約1.7倍への拡張を決め、ドンキーコングをテーマとする新エリアを2024年に開いている。
そして資料館。2021年6月2日、1969年建設の宇治小倉工場の用地を資料館として使うと決めた。開いたのは2024年10月2日、名前はニンテンドーミュージアムである。決めてから開くまで3年4か月かかっている。
1つのキャラクターや作品を、ゲーム・映画・グッズ・施設など複数の場所で使うこと。作るコストは最初の1回で済み、置く場所を増やすほど、同じ資産から得られるものが増えます。
店も、テーマパークも、資料館も、売っているものはゲームではない。任天堂に触れる時間である
未確認事業年表
- 2007.04モノリスソフトを子会社化バンダイナムコHDから1999年設立のゲーム開発会社の株式を取得。2007年4月27日に発表し、自社の開発体制を広げた継続中
- 2015.03DeNAと業務・資本提携相互に約220億円分の株式を持ち合う資本提携。DeNAが任天堂株1.24%、任天堂がDeNA株10.00%を取得し4月2日に払込継続中
- 2015.03スマートデバイス事業へ参入DeNAとの提携に合わせ、自社IPを使ったアプリの共同開発・運営に参入。会員制サービスの共同開発も表明した継続中
- 2015.10Nianticへの出資『Pokémon GO』を共同で手がけるNiantic, Inc.へ出資。株式会社ポケモンが10月15日に公表し、任天堂とGoogleを含む3社での出資継続中
- 2016.03Miitomoの提供開始任天堂初のスマートデバイス向けアプリとして3月17日に配信を開始。約2年2か月後の2018年5月9日に提供を終えた役目を終えた
- 2018.02スーパーマリオのアニメ映画事業イルミネーションと共同で企画開発を開始。累計45億本超のソフト販売実績を持つIPを映像へ展開した継続中
- 2018.09Nintendo Switch Online開始Switch向けの有料オンラインサービスを9月19日に開始。個人プランは12か月3,000円、ファミリープランは12か月5,800円継続中
- 2019.11Nintendo TOKYOを開店国内初の直営オフィシャルストアを渋谷PARCOに開店。以後、大阪、京都、福岡と国内4拠点へ広がる直販事業の起点継続中
- 2021.01Next Level Gamesを子会社化カナダのゲーム開発会社の全株式を取得すると1月5日に発表し、3月1日に取得。2002年設立の長年の協業先継続中
- 2021.03スーパー・ニンテンドー・ワールド開業ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに任天堂IPのテーマパークエリアが3月18日にグランドオープン。テーマパーク領域の第1号拠点継続中
- 2021.06任天堂資料館の計画を決定宇治小倉工場用地を資料館として使うと6月2日に決定。1969年建設の工場跡地を活用し2023年度の完成を予定した継続中
- 2021.09テーマパークのエリア拡張を決定スーパー・ニンテンドー・ワールドを約1.7倍へ拡張し、ドンキーコングをテーマとする新エリアを2024年に開業すると発表継続中
- 2022.02SRDを子会社化約40年にわたり協業してきた開発会社の全株式を取得すると2月24日に発表し、4月1日に取得。資本金5,000万円、1979年設立継続中
- 2022.04本社隣接市有地の取得京都市南区の市有地10,028.55平方メートルを50億円で取得。延床約38,000平方メートルの本社第二開発棟を2027年12月竣工予定継続中
- 2022.10ニンテンドーピクチャーズが発足ダイナモピクチャーズの株式取得を10月3日に実行し商号を変更。任天堂IPの映像制作を担う100%子会社として映像事業を内製化継続中
- 2023.033DS・Wii Uのeショップを終了ニンテンドー3DSシリーズとWii Uのeショップでの販売を2023年3月28日午前9時に終えた役目を終えた
- 2023.04ニンテンドーシステムズ設立任天堂80%、DeNA20%出資の合弁会社を4月3日に設立。資本金50億円で、ネットワークサービスの研究開発と運用を担う継続中
- 2023.11ゼルダの伝説 実写映画の企画開発ソニー・ピクチャーズと共同で実写映画の企画開発を開始。任天堂が制作費の50%超を出資する。公開日はのちに2027年4月30日と発表された継続中
- 2024.043DS・Wii Uのオンラインを終了ニンテンドー3DSシリーズとWii Uのオンラインプレイなどのサービスを2024年4月9日午前9時に終えた役目を終えた
- 2024.05Shiver Entertainmentを子会社化米フロリダのソフト開発会社の全株式をEmbracer Groupから取得すると5月21日に発表。2012年12月11日設立継続中
- 2024.10ニンテンドーミュージアム開館京都府宇治市に資料館を10月2日に開館。開館時間は10時から18時で火曜休館、入館は抽選制。ミュージアム事業へ参入した継続中
- 2025.05Nintendo FUKUOKAの出店を発表国内4店舗目の直営ストアをアミュプラザ博多に2025年末開店すると5月19日に発表。東京、大阪、京都に続く4拠点体制へ継続中
- 2025.08ニンテンドースターズへ商号変更100%子会社を8月27日に商号変更し、任天堂IPの映画における二次利用事業を強化。資本金1,000万円継続中
- 2025.09Nintendo Singapore設立東南アジアでの事業促進を目的に出資比率100%の現地法人を9月26日に設立。資本金800万シンガポールドル継続中
- 2025.11シンガポール開発会社の株式取得バンダイナムコスタジオからBandai Namco Studios Singaporeの株式80%を2026年4月1日に取得すると発表継続中
- 2026.06技術開発棟の建築を決定京都市南区にソフト・ハードの新たな研究開発拠点を建築。投資額1,210億円(有価証券報告書に記載の現時点の概算)、地上9階・地下1階、延床面積49,305.87平方メートルで2029年3月の完成予定継続中
- 2026.09ゼルダの伝説 実写映画のタイトルと公開日が決定タイトルを『ゼルダの伝説』とし、2027年4月30日に全世界で劇場公開する予定と9月8日に発表。制作は任天堂とArad Productions、監督はWes Ball。制作費の50%以上を任天堂が出資する継続中
約40年、一緒に作ってきた会社を買った
この年表には、開発会社を中に入れた記録が6件ある。並べると、発表資料の書き方に特徴がある。
2021年1月に発表したNext Level Gamesはカナダの会社で、2002年設立の「長年の協業先」と書かれている。2022年2月のSRDは1979年設立、「約40年にわたり協業してきた」相手である。取得は同年4月1日、資本金5,000万円の会社だった。
残りの4件はこうだ。2007年4月のモノリスソフトはバンダイナムコHDから取得した1999年設立の開発会社。2022年10月のダイナモピクチャーズは株式取得のうえ商号をニンテンドーピクチャーズへ変更。2024年5月のShiver Entertainmentは米フロリダのソフト開発会社。2025年11月には、バンダイナムコスタジオからBandai Namco Studios Singaporeの株式80%を2026年4月1日に取得すると発表した。
6件とも、買ったのはゲームやアニメを作る会社である。新しい技術を手に入れるための買収は、この年表に見当たらない。
ここまでを、ひとつにまとめると
この会社の新規事業は、ほとんどが「すでに持っているもの」の置き場所を変える動きです。キャラクターは映画と施設へ、外注していた映像は自社へ、長く一緒に作ってきた開発会社はグループの中へ。まったく知らない領域を買ってきた記録は、年表に見当たりません。
いちばん大きい投資は、建物だった
2022年4月12日、京都市南区の市有地10,028.55平方メートルを50億円で取得すると発表した。本社第二開発棟の予定地である。
そして2026年6月25日、「任天堂株式会社 技術開発棟」の建築を発表した。投資額は1,210億円(有価証券報告書に記載の現時点の概算)。地上9階・地下1階、延床面積49,305.87平方メートル、完成は2029年3月の予定である。
発表資料によれば、用途はソフトウェアおよびハードウェアの新たな研究開発拠点で、開発者が従事するオフィスのほか、開発用のサーバー設備などが入る。
映像のほうも動いている。2026年9月8日、実写映画のタイトルを『ゼルダの伝説』とし、2027年4月30日に全世界で劇場公開すると発表した。制作は任天堂とArad Productions、監督はWes Ball、制作費の50%以上を任天堂が出資する。
挑戦する人の視点で見ると
任天堂の27件から持ち帰れるものは、「新しいことを、新しい材料でやらなくてよい」ということだと思う。
この会社が2015年から増やしたのは、事業の種類ではない。すでに持っているキャラクターの置き場所である。映画館、テーマパーク、資料館、直営ストア。どれも作ったのは場所であって、作品ではない。
買収も同じ向きだ。中に入れた6社は、すべてゲームやアニメを作る会社である。SRDには「約40年にわたり協業してきた」、Next Level Gamesには「長年の協業先」と、発表資料が関係の長さをわざわざ書いている。
時間の使い方も参考になる。資料館は決めてから開くまで3年4か月、技術開発棟は決定から完成まで約2年9か月。新規事業の稟議でこの長さを通すのは、たいてい難しい。だからこそ、決めた日と開いた日が両方残っている年表には意味がある。
いま自分が担当なら、まず「うちがすでに持っていて、まだ置いていない場所はどこか」を書き出すと思う。新しい材料を探すより、たぶん早い。