キリンHDの年表23件を、中身ごとに分けてみた。
健康と医薬にかかわるものが15件、お酒と飲料が8件。ビールの会社の年表だが、数でいえば健康のほうが倍近く多い。
そして、次へ渡した4件のうち3件は、海外のお酒と飲料の事業だった。
健康の15件は、医薬から始まった
はじまりは2007年10月。キリンは協和発酵工業との戦略的提携を発表し、2008年10月に協和発酵キリンが発足した。がん・腎・免疫の領域を担う医薬の会社である。2012年3月には、協和発酵キリンが富士フイルムと折半でバイオ医薬品の合弁会社を設立した。
2019年からは、医薬の外側にある「健康」へ広がる。2019年2月に協和発酵バイオを子会社にし、2019年8月にファンケルと資本業務提携、同年10月に電通と健康商品の合弁INHOPを設立した。2020年3月には、健康分野の新興企業に出資するCVCファンド「KIRIN HEALTH INNOVATION FUND」(総額50億円・運用期間10年)をつくった。
2023年4月に豪ブラックモアズ、2024年6月にファンケルの完全子会社化、2026年2月に日本以外のヘルスサイエンスを束ねる新会社をシドニーに設立、2026年8月にカナダのジェイミソン・ウェルネスの買収を決めた。
キリンが医薬・お酒・飲料と並べて掲げている、健康にかかわる事業の呼び名です。健康素材、サプリメント、健康機器などを含みます。
年表を中身で数え直すと、看板の事業と、実際に手を動かしている事業がずれていることがある。キリンHDは23件のうち15件が健康と医薬だった。自社の年表も一度、中身で数えてみる価値がある。
事業稼働チャート
健康の会社を買う金額は、大きくなっていった
健康の会社を買うときの金額を、発表された順に並べる。
2019年2月、協和発酵バイオ。協和発酵キリンが持つ株式の95%を、キリンHDが約1,280億円で取得すると発表された(協和発酵キリンの発表)。
2019年8月、ファンケル。創業者の池森氏らから株式を譲り受け、議決権33.0%を取得総額1,293億円で取得する資本業務提携を結んだ。2024年6月には、残りを公開買付けで取得して完全子会社にすると決めた。
2026年8月、カナダのジェイミソン・ウェルネス。1922年設立のビタミン・サプリメント大手の全株式41,490,939株を、1株CAD45.75、総額CAD1,898百万(約2,183億円)で取得する。2025年12月期の売上高はCAD822百万で、取得の実行は2026年第4四半期以降の予定。
あいだの2023年4月には、豪ブラックモアズを完全子会社にすると発表している。金額は約1,692億円と報じられた(M&A Onlineの記事による。キリンHD自身の発表の数字は、この記事では確認できていない)。
協和発酵バイオ約1,280億円、ファンケル(33.0%)1,293億円、ジェイミソン・ウェルネス約2,183億円。健康の会社を買う金額は、7年で大きくなった
未確認事業年表
- 2007.10協和発酵との戦略的提携を発表協和発酵工業との戦略的提携を発表し、公開買付けと株式交換・合併を経て2008年10月に医薬事業の新会社を発足させる計画を示した。継続中
- 2008.10協和発酵キリンが発足協和発酵工業とキリンファーマが経営を統合し、協和発酵キリン株式会社が発足した。従業員数は7917名で、がん・腎・免疫の領域を担う中核会社となった。継続中
- 2009.08豪ライオンネイサンを完全子会社化持分46.13%だった豪飲料大手ライオンネイサンの残り53.87%を、1株11.50豪ドル・総額33億豪ドルで取得すると発表した。継続中
- 2010.08メルシャンを完全子会社化持分50.12%だったメルシャンを株式交換で完全子会社とすることを決定。メルシャン株1株にキリン株0.14株を割り当て、同年12月に効力を発生させた。継続中
- 2011.08ブラジル飲料大手を子会社化ブラジルでビール2位・清涼飲料3位のスキンカリオールグループの持株会社株式を取得し、39.5億レアル(198.8億円)で完全子会社とすると発表した。2017年にハイネケンへ譲渡した。役目を終えた
- 2012.03富士フイルムとバイオ医薬品合弁富士フイルムと協和発酵キリンが資本金1億円を折半出資し、協和キリン富士フイルムバイオロジクスを設立。バイオシミラー医薬品の開発・製造・販売を担う合弁会社とした。継続中
- 2016.10米ブルックリン社と資本提携キリンビールが米クラフトビール大手ブルックリン・ブルワリーの新株を引き受け、24.5%の株式を取得する資本業務提携を結んだと発表した。継続中
- 2017.02ブラジルキリンをハイネケンへ譲渡完全子会社ブラジルキリン社の全株式を約770億円でハイネケン子会社バヴァリア社へ譲渡し、2017年にブラジルのビール・清涼飲料事業を次へ渡した。役目を終えた
- 2019.02協和発酵バイオを子会社化協和発酵キリンが持つ協和発酵バイオ株式の95%を約1280億円で取得し、健康領域の事業開発力を強める直接子会社にすると発表した。継続中
- 2019.08ファンケルと資本業務提携ファンケル創業者の池森氏らから株式を譲り受け、議決権33.0%を1293億円で取得する資本業務提携を結び、持分法適用会社にすると発表した。継続中
- 2019.10電通と合弁でINHOPを設立電通と共同出資でINHOP株式会社を設立し、独自素材の熟成ホップエキスを使う健康商品の事業に踏み出したが、2024年3月に解散し役目を終えた。役目を終えた
- 2020.03ブラジル子会社をキッコーマンへ1934年創業のブラジル子会社の株式をキッコーマンへ譲渡すると発表。社名はキッコーマン・ド・ブラジルとなり、2020年に清酒事業を次へ渡した。役目を終えた
- 2020.03健康領域のCVCファンドを設立グローバル・ブレインと共同で、総額50億円・運用期間10年のCVCファンド「KIRIN HEALTH INNOVATION FUND」を設立し、健康分野の新興企業への出資を始めた。継続中
- 2022.06ミャンマー合弁会社株を譲渡ミャンマー最大手Myanmar Breweryの全株式を自己株式取得の形で譲渡すると決定し、約224億円(3240億チャット)で2022年に現地事業を次へ渡した。役目を終えた
- 2023.04豪ブラックモアズを買収豪証券取引所に上場する健康食品最大手ブラックモアズの全株式を、約1692億円(18.8億豪ドル)で取得して完全子会社とすると発表した。継続中
- 2024.06ファンケルの完全子会社化を決定2019年に33%を出資していたファンケルについて、公開買付けで株式と新株予約権を追加取得し、完全子会社とすることを決定したと発表した。継続中
- 2024.08CVCでシンクサイトへ出資CVCファンド「KIRIN HEALTH INNOVATION FUND」が、AIで細胞を分析・分離するゴーストサイトメトリー技術をもつシンクサイトへ出資したと発表した。継続中
- 2024.10クラフトビール事業部を発足キリンビールがクラフトビール専業の事業部を発足させ、量販店など家庭用の販売を広げて、2030年までにクラフト比率を金額ベースで5%以上に高める方針を示した。継続中
- 2026.02海外ヘルスサイエンス新会社設立日本を除くヘルスサイエンス領域の消費者向け事業を束ねる新会社Kirin Health Science International Pty Ltdを、豪シドニーに設立すると発表した。継続中
- 2026.07協和ファーマケミカルをDNPへキリンHDと協和発酵バイオが、医薬品原薬メーカーの協和ファーマケミカルの全株式を大日本印刷へ譲渡する契約を結び、2026年10月に次へ渡すと発表した。役目を終えた
- 2026.08カナダのジェイミソン・ウェルネスを買収1922年設立のビタミン・サプリメント大手の全株式を、1株CAD45.75・総額CAD1,898百万(約2,183億円)で取得する。2025年12月期の売上高はCAD822百万で、実行は2026年第4四半期以降を予定継続中
- 2026.09呼気で代謝を測るLumenを先行販売9月15日発表。約30秒の呼気測定で糖質と脂質の利用傾向を示すウェルネステックを、9月30日からMakuakeで先行販売する。CVCの投資先との協業から生まれ、出資後の検証を経て事業化へ進む初の事例としている継続中
- 2026.09プラズマ乳酸菌をPascoのパンに9月17日発表。敷島製パン(Pasco)と、独自素材「プラズマ乳酸菌」を配合した機能性表示食品「免疫ケアロール」を共同開発し、10月1日から6地区で発売する。プラズマ乳酸菌をパンに配合した商品は日本初としている継続中
次へ渡した4件のうち3件は、海外のお酒と飲料
キリンHDの年表には、次へ渡した事業が4件ある。
2017年2月、ブラジルキリン。2011年に子会社にしたブラジルのビール・清涼飲料の会社の全株式を、ハイネケンの子会社へ譲渡した。2020年3月、ブラジルの清酒子会社。1934年創業の会社の株式をキッコーマンへ譲渡した。2022年6月、ミャンマーのビール会社。Myanmar Breweryの全株式を、自己株式取得の形で譲渡すると決めた。
4件目は医薬品原薬の協和ファーマケミカルで、2026年7月にキリンHDと協和発酵バイオが大日本印刷へ全株式を譲渡する契約を結んだ(大日本印刷の発表)。2026年10月に次へ渡す予定である。
お酒と飲料の8件のうち、海外で動かしたものは、豪ライオンネイサンの完全子会社化(2009年)、ブラジルの飲料大手の子会社化(2011年)、米ブルックリン・ブルワリーとの資本提携(2016年)と、渡した3件である。国内では、メルシャンの完全子会社化(2010年)と、キリンビールのクラフトビール事業部の発足(2024年)がある。
ここまでを、ひとつにまとめると
23件のうち健康と医薬が15件、お酒と飲料が8件です。
健康の会社を買う金額は、約1,280億円(2019年2月)→1,293億円(2019年8月・33.0%)→約2,183億円(2026年8月)。次へ渡した4件のうち3件は、ブラジルとミャンマーのお酒と飲料でした。
出資先との協業が、売れる製品になった
2026年9月には、健康の15件に2件が加わった。
9月15日、呼気で代謝の状態を測る「Lumen(ルーメン)」を、9月30日からMakuakeで先行販売すると発表した。CVCファンドの投資先との協業から生まれ、出資後の協業・検証を経て本格的な事業化へ進む初の事例としている。
9月17日には、敷島製パン(Pasco)と、独自素材「プラズマ乳酸菌」を配合した機能性表示食品「免疫ケアロール」を共同開発し、10月1日から発売すると発表した。プラズマ乳酸菌をパンに配合した商品は日本初としている。
挑戦する人の視点で見ると
キリンHDの23件から持ち帰れるのは、「育てたい柱に、少しずつ大きく張っていく」ということだと思う。
2019年の2件はどちらも1,300億円前後。そこから7年後のジェイミソン・ウェルネスは約2,183億円である。最初から一番大きな買い物をしたのではなく、買って、統合して、次の買い物をしている。
もうひとつは、海外のお酒と飲料を渡しながら、健康へ資金と人を移していることだ。渡した3件と、買った健康の会社が、同じ年表の上で入れ替わっていく。
いま自分が担当なら、年表を「育てる柱」と「渡す事業」の2列に分けて並べてみると思う。キリンHDの年表は、その2列が17年かけて入れ替わった記録でもある。