1. 資料はよくできていた
売上は前年の三倍になっていた。資料も、何度も直して、きれいにできていた。
面談は順調だった。事業の話でつまずくところは、ひとつもなかった。
——最後の一ページで、空気が変わった。
2. 質問はひとつだけ
資本の一覧を出したとき、担当者が指を止めた。
「この、三十パーセントの方は、いまも社内にいらっしゃいますか」
僕は正直に答えた。二年前に辞めています、と。
担当者は、それ以上は事業の質問をしなかった。かわりに、こう聞いた。「今回の増資、その方は同意されますか」
3. 同意が要る、という話
増資をすると、いまの株主の持ち分の割合は下がる。それを希薄化という。下がることに納得してもらう必要がある人が、社外に一人いる。それが、担当者の見ていたことだった。
しかもその人は、会社の外にいて、日々の事情を知らない。増資の条件がその人にとって不利に見えたとき、止まる可能性がある。
投資家からすると、自分が出したお金の使い道が、会ったこともない人の気分で止まりうる。そういう会社には入りにくい。
4. 三社に同じことを言われる
別のVCでも、ほぼ同じ質問をされた。三社目で、僕はもう資料の最後のページを出す前に、自分から説明するようになっていた。
一社は「買い戻してから、また来てください」と言った。丁寧な言い方だったし、正しいことを言っていた。
——事業ではなく、二年前に先送りしたことで止まっていた。
5. あとで分かったこと
資本の一覧は、会社の履歴書だと思う。そこに載っているのは数字ではなくて、この会社が過去にどう決めてきたかだ。
辞めた人の株をそのままにしたのは、気まずさを避けたかったからだ。その気まずさの先送りが、二年後に一枚の表になって、投資家の前に出てくる。
買い戻しは、そのあと四か月で終わった。次の調達は、その三か月後に決まった。
先に決めておくこと(3つだけ)
1. 資本の一覧を、半年に一度は自分で見る。社外にいる人がどれだけ持っているか、いま言えますか。
2. 社外の株主が一定以上いるなら、調達より先に整理する。順番を逆にすると、交渉の力が弱くなります。
3. 「同意が要る人」の一覧を作っておく。増資のときに誰の判こが必要かを、平時に確かめておく。