1. 焼き肉の夜
株は半分ずつにした。理由は「親友だから」だった。
ケンタとは大学のサークルで出会って、卒業しても月に一度は飲んでいた。僕がエンジニア、ケンタが営業。登記のとき、司法書士に「株の比率は?」と聞かれて、二人で顔を見合わせて、「半々で」と答えた。他の答えを考えたことがなかった。
一年目はよかった。ケンタが取ってきた案件を僕が作り、月の売上が三百万円を超えた月に、二人で焼き肉を食べた。
——この焼き肉の写真を、僕はあとで消せなくなる。
2. 「割れたことないんで」
こじれ始めたのは、投資家との面談だった。
三社目のVCで、担当者が資本政策の話になったとき、こう言った。「お二人が五十対五十なのは、正直、気になります。意見が割れたとき、誰が決めるんですか」。ケンタは笑って「割れたことないんで」と言った。僕も笑った。
でも帰り道、ケンタが「じゃあ俺が五十一でいいだろ、代表なんだし」と言ったとき、僕は笑えなかった。作っているのは僕だ、という言葉を、飲み込んだ。
——飲み込んだ言葉は、消えない。三ヶ月後に、別の形で出てくる。
3. 決める人がいない
その冬、ケンタが結婚した。奥さんは安定を望んでいた。ケンタは「もう少し確実に売れるものに寄せよう」と言い、僕は「今の製品をやり切らないと投資家に説明できない」と言った。
初めて意見が割れた。決める人は、いなかった。五十対五十とは、そういう意味だった。
春、ケンタが「抜ける」と言った。喧嘩ではなかった。ただ、静かにそう言った。僕は止めなかった。止める言葉より先に、頭に浮かんだのは「株はどうなる」だった。
4. 辞めた親友が、会社の半分を持っている
株は、そのままだった。辞めた共同創業者が、会社の半分を持ったまま、会社の外にいる。
次に会ったVCは、資料を見て一分で言った。
「元共同創業者が五十パーセントを持っている会社には、出せません」
買い戻しの交渉は、半年かかった。ケンタは金額を高く言い、僕は払えなかった。間に弁護士が入った。最終的に、僕の親から借りた金で、ケンタの株の大半を買い戻した。会社は残った。ケンタとは、それきりだ。
5. あとで分かったこと
問題は「親友と起業したこと」ではなかった。
問題は、辞めるときのことを、一度も話していなかったことだった。仲が良いうちに、仲が悪くなったときの話をする。それだけで、たぶん、焼き肉の写真は消さずに済んだ。
先に決めておくこと(3つだけ)
- 株は「仲の良さ」ではなく「これから何をするか」で分ける。 半々は対等に見えて、決める人がいない状態。
- 辞めたら会社が株を買い戻せる約束(ベスティング)を、創業のときに結ぶ。 辞めた人が大株主のまま残る会社には、次の投資家が入れない。
- 「辞めるときの話」を、仲が良いうちにする。 気まずくなってからでは、話せない。
この話の次に起きること
#02 辞めた共同創業者の株、いくらで買い戻す?(値段で揉める。決め方を先に持っていない会社は、ここで一年失う)
#03 元共同創業者が株主のまま、次の調達に行くと(投資家の質問は一つだけ。「その人、同意しますか」)
#07 奥さんを会社に入れた(家族が社内にいるとき、決定はどう歪むか)