1. 「わかった」で終わった日
ユウキが抜けると言ったとき、僕は「わかった」と言った。それ以外に言うことがなかった。三年一緒にやって、最後は静かだった。
送別会もやった。ユウキは笑っていたし、僕も笑っていた。株の話は出なかった。出すのは、なんとなく品がない気がした。
——このとき、会社の三十パーセントは、もう社外にあった。
2. 半年後の電話
半年後、ユウキから電話が来た。「あの株、どうする?」
僕は「買い戻したい」と答えた。ユウキは「いくらで?」と聞いた。
僕は答えられなかった。買い戻したいと思ってはいたけれど、いくらなら買えるのかを、一度も考えたことがなかった。
3. 三つの数字が出てくる
税理士に相談したら、数字が三つ出てきた。
ひとつめ、ユウキが払った額。創業時に十五万円。ふたつめ、いまの会社の評価額から計算した額。前回の増資の値段で計算すると、四千五百万円。みっつめ、税務上の「妥当な値段」。これは会社の純資産から計算されて、六百万円ほどだった。
同じ株なのに、立場によって三百倍ちがう数字が出てくる。ユウキは二番目を見ていて、僕は一番目を見ていた。
——値段の話に見えて、実は「どの数え方を使うか」の話だった。それを決めていなかった。
4. 一年が過ぎる
交渉は長引いた。ユウキは悪い人ではない。でも、三年ぶんの時間と、辞めたあとの気持ちが、数字に乗っていた。僕にも同じものが乗っていた。
間に弁護士が入った。両方に費用がかかった。話がまとまったのは、最初の電話から十一か月後だった。
その十一か月、僕は新しい機能を一つも出していない。
5. あとで分かったこと
問題は値段ではなかった。値段を決める方法を、先に決めていなかったことだった。
創業のときに一行あればよかった。「辞めた場合、会社は◯◯の方法で計算した額で株を買い取ることができる」。それだけで、十一か月は要らなかった。
ユウキとは、いまも年に一度は飲む。株の話は、もうしない。
先に決めておくこと(3つだけ)
1. 買い戻す「値段の決め方」を、創業時の契約に書く。金額ではなく、方法を書く。純資産か、直近の増資額か、両者の話し合いか。
2. 買い戻す「お金の出どころ」も決めておく。会社が買うのか、残る創業者個人が買うのか。会社が買うと税務の扱いが変わります。
3. 期限を入れる。「退任から◯か月以内に手続きを始める」。期限がないと、話は先送りされ続けます。