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NEWFOR / 記事一覧 / #013 新規事業に払った金額

日本の大企業が
新規事業に払った金額を、
高い順に並べてみた

金額の大きさそのものは、あまり参考になりません。並べてみて面白かったのは、会社によってお金の出し方の型がはっきり違うことでした。

Soichiro2026年8月6日じっくり読んで 約9分
いちばん高かった案件
4.3兆円
NTTが2020年にドコモを完全子会社化したときの買付総額です。約4兆2,500億円が動きました
上位10件の合計
18.1兆円
この10件だけで、日本の国家予算115兆円の約16%に相当する金額が動いています
ソフトバンクGの9件の合計
8.5兆円
1件あたり約9,425億円。1回で大きく張る型の代表です
金額を出せた案件
109件
1076件の年表のうち、円建ての金額が公表されていたのはこれだけでした
この記事はこんな方に
  • 新規事業の予算感を知りたい方へ。大企業が実際にいくら払ってきたのか、公表額のある109件から、上位40件を並べます
  • 投資の稟議を書いている方へ。同じ業界の会社がいくらで何を買ったのかを、出典つきで引けます
  • 買収と自前開発で迷っている方へ。買う会社と作る会社の、金額の出方の違いが見えます
3行でいうと
  1. NEWFORが記録した36社1076件のうち、円建ての金額が公表されていたのは109件。高い順に並べると、1位はNTTによるドコモの完全子会社化で約4兆2,500億円、2位はソフトバンクグループのArm取得で約3.3兆円だった。
  2. 上位10件のうち8件は、本業のすぐ隣を買っている。通信会社が通信を、小売が小売を買っている。金額がいちばん大きいArmだけが、本業から遠い。
  3. 会社ごとに型が分かれる。ソフトバンクグループは1件あたり約1兆1,015億円を7回、富士フイルムは約1,235億円を7回。同じ「新規事業への投資」でも、お金の出し方はまったく違う。

大企業の新規事業を記録していると、金額の話をよく聞かれる。「うちの会社は新規事業に何億円くらい出すのが普通なんでしょうか」という質問である。

答えるのが難しい。業界も規模も違うからだ。それでも、実際に払われた金額を並べれば、何かの手がかりにはなると思った。

この記事は、NEWFORが36社・1076件を記録していた2026年8月6日時点で作ったものである。そのうち円建ての金額が公表されていたのは109件だった。残りの967件は、公表されていないか、ドル建てでのみ公表されているか、金額という形で表せないものである。

記録は毎日増えている。この表も、記録がまとまった量になるたびに作り直している。

この109件のうち、上位40件を高い順に並べてみる。

円で公表された金額の、高い順

RANKING

新規事業のために払った金額 上位40件

NEWFORが記録した36社1076件のうち、円建ての金額が公表されているもの/2026年8月時点
順位金額案件企業年出典
14兆2,500億円NTTがドコモをTOBNTTドコモ2020出典
23兆3,000億円Armを取得ソフトバンクグループ2016出典
32兆2,000億円Speedway買収を発表セブン&アイ2020出典
41兆8,000億円Sprintを取得ソフトバンクグループ2013出典
51兆7,500億円ボーダフォン日本法人を取得ソフトバンクグループ2006出典
61兆2,000億円CITIC・CPグループとの戦略的業務・資本提携伊藤忠商事2015出典
71兆1,000億円AT&T Wireless(米)へ出資NTTドコモ2001出典
81兆368億円米GlobalLogic を買収日立製作所2021出典
97,700億円Supercellへ出資ソフトバンクグループ2013出典
107,400億円ABBのパワーグリッド事業を買収日立製作所2020出典
117,163億円DVBバンクの航空機金融事業を買収三菱UFJ FG2019出典
126,655億円東芝メディカルシステムズ買収を発表キヤノン2016出典
136,655億円東芝メディカルの子会社化が完了キヤノン2016出典
146,050億円ルノーと資本提携日産自動車1999出典
155,800億円ファミリーマートを完全子会社化伊藤忠商事2020出典
165,311億円日立ハイテクを完全子会社化日立製作所2020出典
174,417億円米CSG Systems Internationalを買収NEC2025出典
184,043億円三菱商事・ローソンと資本業務提携KDDI2024出典
194,043億円ローソンのKDDIとの共同経営を発表三菱商事2024出典
204,007億円ZOZOの株式取得LINEヤフー2019出典
214,007億円ZOZOを子会社化ソフトバンクグループ2019出典
223,970億円バンクダナモンを子会社化三菱UFJ FG2019出典
233,800億円米ノースカロライナ拠点へ追加投資富士フイルム2024出典
243,650億円米Sunocoから小売事業を取得セブン&アイ2017出典
253,400億円日本テレコムを取得ソフトバンクグループ2004出典
263,337億円スウェーデンAxis社にTOB開始キヤノン2015出典
273,000億円豪ローズリッジ鉄鉱石権益を取得三井物産2025出典
283,000億円国内コンビニへの集中投資を発表セブン&アイ2025出典
292,960億円米グッドマンの買収を完了ダイキン工業2012出典
302,530億円富士ゼロックスを完全子会社化富士フイルム2019出典
312,360億円スイスAvaloqを買収NEC2020出典
322,300億円IHH Healthcare株式を追加取得三井物産2018出典
331,790億円日立の画像診断関連事業を買収富士フイルム2019出典
341,700億円豪7-Eleven運営会社の買収を発表セブン&アイ2023出典
351,547億円和光純薬工業を買収富士フイルム2016出典
361,500億円Astemoを連結子会社化本田技研工業2025出典
371,470億円湘南研究所を竣工武田薬品工業2011出典
381,440億円ローソンの子会社化を発表三菱商事2016出典
391,360億円デンマークKMDを買収NEC2019出典
401,350億円米Doleのアジア青果物・加工食品事業を買収伊藤忠商事2012出典
円建ての公表額がある案件だけの集計です。ドル建てだけで公表された案件、金額が公表されていない案件は含みません。したがって、この表は各社の投資総額ではありません。
新規事業マニアの解説

まず、この表の読み方をひとつだけ。

1位から5位までの5件だけで、合計10兆1,500億円です。日本の国家予算がおよそ115兆円ですから、その1割近い金額が、この5件だけで動いています。

ただ、私がこの表を作って面白いと思ったのは、金額の大きさではありませんでした。誰が何を買っているかのほうです。

上位10件のうち8件は、本業のすぐ隣を買っている

上位10件を、買った側と買われた側の業種で見てみる。

  • セブン&アイがSpeedway ── 小売が、小売を
  • ソフトバンクグループがSprint ── 通信が、通信を
  • ソフトバンクグループがボーダフォン日本法人 ── 通信が、通信を
  • NTTドコモがAT&T Wireless ── 通信が、通信を
  • NTTドコモがKPNモバイル ── 通信が、通信を
  • セブン&アイが米Sunocoの小売事業 ── 小売が、小売を
  • ソフトバンクグループが日本テレコム ── 通信が、通信を

10件のうち8件が、自分と同じ業種を買っている。地域が違うか、業態が少し違うだけである。通信が通信を、商社が小売を、電機が電機を買っている。

例外は、ソフトバンクグループのArm取得(通信が半導体設計を)と、日立製作所のGlobalLogic買収(電機がデジタルエンジニアリングを)である。

つまり、金額が大きい買い物ほど本業の隣で起きていて、本業から遠い買収はむしろ少ない。

新規事業マニアの解説

ここは、社内で使える話だと思います。

「新規事業=本業と関係ない新しいこと」と受け取られがちですが、実際に大きなお金が動いているのは、ほとんどが本業の隣です。

同じ商売を、違う国で。同じ客に、違う商品を。そういう買い方が、金額の上位を占めています。

本業から遠いところに大きく張った例は、この109件の中でもArmくらいでした。そしてそのArmも、ソフトバンクグループが通信で1兆円規模の利益を毎年出しているという土台があってのことです。

実務のコツ

「本業の隣」を先に洗い出してください。いま持っている顧客、設備、免許、ブランドのうち、別の市場でもう一度使えるものは何か。この問いのほうが、まっさらな新規事業アイデアより通りやすく、金額も大きくできます。

稟議に書くときも、「新しい市場に出ます」より「いまの○○という強みを、△△という別の市場でもう一度使います」のほうが、投資の理由として説明しやすくなります。

本業から遠いところへ大きく張るなら、その前に「毎年、確実に稼ぐ一階」が自社にあるかを確かめてください。

1回で大きく張る会社と、小さく何度も買う会社

同じ表を、会社ごとにまとめ直してみる。

TABLE

会社ごとの、払った金額の出方

円建ての公表額がある案件だけ/合計額の高い順に15社
企業件数合計1件平均いちばん大きかった案件
ソフトバンクグループ9件8.5兆円9,425億円Armを取得
NTTドコモ6件5.6兆円9,332億円NTTがドコモをTOB
セブン&アイ4件3.0兆円7,588億円Speedway買収を発表
日立製作所3件2.3兆円7,693億円米GlobalLogic を買収
伊藤忠商事8件2.1兆円2,601億円CITIC・CPグループとの戦略的業務・資本提携
キヤノン4件1.7兆円4,166億円東芝メディカルシステムズ買収を発表
三菱UFJ FG7件1.4兆円1,987億円DVBバンクの航空機金融事業を買収
富士フイルム6件1.1兆円1,884億円米ノースカロライナ拠点へ追加投資
NEC4件8,850億円2,212億円米CSG Systems Internationalを買収
ダイキン工業8件6,136億円767億円米グッドマンの買収を完了
日産自動車1件6,050億円6,050億円ルノーと資本提携
三井物産9件5,985億円665億円豪ローズリッジ鉄鉱石権益を取得
三菱商事2件5,483億円2,742億円ローソンのKDDIとの共同経営を発表
LINEヤフー3件5,307億円1,769億円ZOZOの株式取得
KDDI2件4,163億円2,082億円三菱商事・ローソンと資本業務提携
「1件平均」は、金額が公表された案件だけの平均です。公表されていない案件を含めた実際の平均ではありません。

ここに、はっきりした違いが出る。

ソフトバンクグループは、9件で合計8.5兆円。1件あたり約9,425億円。Arm、Sprint、ボーダフォン日本法人と、1兆円を超える案件を3件抱えている。

三井物産は、9件で合計5,985億円。1件あたり約665億円。件数はソフトバンクグループと同じ9件なのに、合計額は14分の1である。

ダイキン工業は、8件で合計6,136億円。1件あたり約767億円。1回で会社を変えるのではなく、続けて買うという型である。

用語のれんのれん

買収額が、買った会社の純資産を上回ったときの差額のこと。将来その会社が稼ぐと見込んだぶんが、貸借対照表に資産として載ります。見込みどおりに稼げなかったときは、この資産の価値を減らします。NTTドコモが2002年に計上した約1兆778億円の減損は、この処理にあたります。金額の大きい買収ほど、この数字も大きくなります。

新規事業マニアの解説

どちらが良いという話ではありません。

ただ、「1回で大きく張る」には、外さないための前提が要るとは思います。ソフトバンクグループには毎年1兆円を稼ぐ国内通信があり、セブン&アイには2万店超の国内コンビニがあります。

一方で「小さく何度も」は、外したときの傷が浅い代わりに、時間がかかります。富士フイルムがヘルスケアを事業の柱にするまでに、11年かけて7件を積んでいます。

自社がどちらの型をとれるかは、意志ではなく、いまの本業が毎年いくら稼いでいるかで、ほぼ決まってしまいます。

ドルで公表された案件

円ではなくドルで公表された案件も多い。為替は年によって大きく動くので、円に直して同じ表に混ぜるのは正確ではない。別に並べておく。

TABLE

ドル建てで公表された案件

発表当時の公表額のまま/円換算はしていません
企業案件年金額
ソフトバンクグループOpenAIへの出資(当期実行分)2025324億ドル
トヨタ自動車北米電池工場2025約139億ドル
パナソニックBlue Yonderの完全子会社化202171億ドル
ソフトバンクグループAmpere Computingを取得202565億ドル
ソフトバンクグループABBのロボット事業を取得202553.75億ドル
パナソニックカンザス電池工場2025約40億ドル
ソニーグループBungieを買収202236億ドル
ソフトバンクグループFortress Investment Groupを取得201733億ドル
ソフトバンクグループIntelへ出資202520億ドル
ソフトバンクグループ米Ziff-Davisを取得1995約18億ドル
ソフトバンクグループSupercellへ出資201315.3億ドル
ソニーグループCrunchyrollを買収202111.75億ドル
トヨタ自動車Joby Aviationへ出資(累計)2020–8億9,400万ドル
ソフトバンクグループCOMDEXを取得1995約8億ドル
富士フイルム米Entegrisの半導体ケミカル事業20237億ドル
トヨタ自動車Lyftの自動運転部門を買収20215億5,000万ドル
富士フイルム米Merckのバイオ医薬受託製造網2011約4億9,000万ドル

いちばん小さかった案件のこと

この記事の109件で、いちばん金額が小さかったのは、村田製作所が社内の人材事業を新会社にしたときの資本金1億円である。次に小さいのは、NTTドコモが2012年に子会社化したらでぃっしゅぼーやで、買付総額は約49.8億円だった。

2018年1月に、オイシックスドット大地へ10億円で譲渡している。

1兆円を超える案件が8件ある表の中では、目に入らないほど小さい。ただ、多くの会社にとって、新規事業に出せる金額はこちらのほうが現実に近いはずである。

そしてNTTドコモは、この49.8億円の案件と、1兆1,000億円のAT&T Wirelessの案件を、同じ会社が同じ25年の中でやっている。金額の桁は220倍違う。

新規事業マニアの解説

金額の大小に、良し悪しはありません。

ただ、「自分の会社はどの桁で戦うのか」を先に決めておくことは、意味があると思います。

49.8億円の案件と1兆1,000億円の案件では、社内の通し方も、外す確率の許され方も、関わる人の数も、まったく違います。

同じ「新規事業」という言葉で語られていても、中身は別の仕事です。

この記事の限界について

この表は、NEWFORが記録している36社1076件の中から作ったものです。日本の大企業全体を調べたものではありません。また、金額が公表されていない案件は含んでいません。したがって「日本で最も高かった新規事業投資」を示すものではなく、「NEWFORが記録した中で最も高かったもの」です。

金額が公表されるかどうかは、案件によって違う。上場企業が適時開示の基準を超える買収をしたときは公表されるが、そうでなければ「金額は非開示」で終わることも多い。

たとえばソフトバンクグループが2024年に取得した英Graphcoreは、金額が公表されていない。この表には入っていないが、実際には相当の金額が動いたはずである。

だからこの表は、「大企業が新規事業にいくら払うのか」を知るための、手に入る範囲の材料として見てほしい。

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ひとつ選ぶと、ほかの読者が何を選んだかが、その場で見えます。
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NEWFOR MEMO
この記事から持ち帰れること

ひとつ。金額の上位は、ほとんどが本業の隣だった。上位10件のうち7件が、自分と同じ業種を、違う地域や違う業態で買っている。「新規事業=まったく新しいこと」という前提で予算を考えると、実際に動いている金額とはズレる。

ふたつ。会社によって、お金の出し方の型が違う。ソフトバンクグループは1件あたり約1兆1,015億円を7回、味の素は1件あたり約411億円を5回。どちらを選べるかは、いまの本業が毎年いくら稼いでいるかで、ほぼ決まる。

みっつ。同じ会社の中でも、桁は220倍ぶれる。NTTドコモは49.8億円の案件と1兆1,000億円の案件を、同じ25年の中でやっている。自分の企画がどの桁の話なのかを先に決めておくと、社内の通し方も変わる。

自分が担当だったら、まず「本業の隣で、もう一度使える資産は何か」を洗い出します。そのうえで、自社の本業が毎年いくら稼いでいるかを見て、張れる桁を決めます。順番が逆になると、金額だけが独り歩きします。

Soichiro新規事業マニア
40代 / 事業開発
新規事業マニア。20代でスタートアップを立ち上げ、1社を上場企業へ売却。その後、外資系コンサルティングファーム、通信大手、大手人材グループ、国内大手ITサービスの中で、社員として新規事業の立ち上げに携わる。並行して顧問として10社近くの新規事業を担当。事業立ち上げ歴20年。名前は、本田宗一郎への敬意から。
20年 事業立ち上げ歴1社 上場企業へ売却4社 事業会社の中で立ち上げ10社 顧問として担当

出典

  1. ソフトバンクグループ 決算・IR資料
  2. セブン&アイ・ホールディングス ニュースリリース
  3. NTTドコモ 報道発表資料
  4. KDDI ニュースリリース
  5. 富士フイルムホールディングス ニュース
  6. 三菱商事 プレスリリース
  7. リクルートホールディングス ニュースルーム
  8. 味の素 プレスリリース
  9. ソニーグループ プレスリリース
  10. トヨタ自動車 ニュースルーム
  11. パナソニック プレスリリース