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NEWFOR記事一覧 / #013 新規事業に払った金額

日本の大企業が
新規事業に払った金額を、
高い順に並べてみた

金額の大きさそのものは、あまり参考になりません。並べてみて面白かったのは、会社によってお金の出し方の型がはっきり違うことでした。

Soichiro2026年8月5日じっくり読んで 約9分
いちばん高かった案件
3.3兆円
ソフトバンクグループが2016年に払ったArmの取得額です。半導体設計の世界最大手を、丸ごと買いました
上位10件の合計
12.3兆円
この10件だけで、日本の国家予算115兆円の約1割に相当する金額が動いています
富士フイルムの7件の合計
8,647億円
1件あたりは約1,235億円。大きく張るのではなく、続けて買うという型です
金額を出せた案件
30
225件の年表のうち、金額が公表されていたのはこれだけでした。残りは公表されていません
この記事はこんな方に
  • 新規事業の予算感を知りたい方へ。大企業が実際にいくら払ってきたのか、公表額だけを30件並べます
  • 投資の稟議を書いている方へ。同じ業界の会社がいくらで何を買ったのかを、出典つきで引けます
  • 買収と自前開発で迷っている方へ。買う会社と作る会社の、金額の出方の違いが見えます
3行でいうと
  1. NEWFORが記録した12社225件のうち、円建ての金額が公表されていたのは30件。高い順に並べると、1位はソフトバンクグループのArm取得で約3.3兆円、2位はセブン&アイのSpeedway買収で約2.2兆円だった。
  2. 上位10件のうち7件は、本業のすぐ隣を買っている。通信会社が通信を、小売が小売を買っている。金額がいちばん大きいArmだけが、本業から遠い。
  3. 会社ごとに型が分かれる。ソフトバンクグループは1件あたり約1兆1,015億円を7回、富士フイルムは約1,235億円を7回。同じ「新規事業への投資」でも、お金の出し方はまったく違う。

大企業の新規事業を記録していると、金額の話をよく聞かれる。「うちの会社は新規事業に何億円くらい出すのが普通なんでしょうか」という質問である。

答えるのが難しい。業界も規模も違うからだ。それでも、実際に払われた金額を並べれば、何かの手がかりにはなると思った。

この記事は、NEWFORが12社・225件を記録していた2026年8月5日時点で作ったものである。そのうち円建ての金額が公表されていたのは30件だけだった。残りの195件は、公表されていないか、金額という形で表せないものである。

記録はその後も増えている。いまは20社・472件まで広がっているので、この表もいずれ作り直す。

この30件を、高い順に並べてみる。

円で公表された金額の、高い順

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新規事業のために払った金額

NEWFORが記録した12社225件のうち、円建ての金額が公表されているもの/2026年8月時点
企業案件金額
1ソフトバンクグループArmを取得2016約3兆3,000億円
2セブン&アイSpeedwayを買収2020約2兆2,000億円
3ソフトバンクグループSprintを取得2013約1兆8,000億円
4ソフトバンクグループボーダフォン日本法人を取得20061兆7,500億円
5NTTドコモAT&T Wirelessへ出資2001約1兆1,000億円
6NTTドコモKPNモバイルへ出資2000約5,000億円
7KDDIローソンの共同経営2024約4,971億円
8ソフトバンクグループZOZOを子会社化20194,007億円
9セブン&アイ米Sunocoから小売事業を取得2017約3,650億円
10ソフトバンクグループ日本テレコムを取得2004約3,400億円
11富士フイルム富士ゼロックスを完全子会社化2019約2,530億円
12富士フイルム日立の画像診断関連事業を買収2019約1,790億円
13セブン&アイ豪7-Eleven運営会社を買収2023約1,670〜1,700億円
14富士フイルム和光純薬工業を買収20161,547億円
15三菱商事ローソンを子会社化2016約1,440億円
16リクルートGlassdoorを買収2018約1,272億円
17ソフトバンクグループシャープ堺工場を取得2025約1,000億円
18富士フイルムBiogenのデンマーク生産拠点を買収2019約990億円
19味の素Forge Biologicsを買収2023約828億円
20NTTドコモオリックス・クレジットを子会社化2024792億円
21富士フイルム米SonoSiteを買収2011約776億円
22富士フイルム富山化学工業を子会社化2008644億円
23味の素Promasidorへ33.33%出資2016約558億円
24NTTドコモマネックス証券を連結子会社化2024計486億円
25富士フイルム米Cellular Dynamicsを買収2015約370億円
26味の素ブラジル合弁を完全子会社化2015325億円
27味の素味の素ゼネラルフーヅを完全子会社化2015270億円
28ソフトバンクグループ福岡ダイエーホークスを取得2004約200億円
29味の素キャンブルックを買収2017約72億円
30NTTドコモらでぃっしゅぼーやを子会社化2012約49.8億円
金額はすべて発表当時の公表額です。物価も為替も違う年をそのまま並べているので、厳密な比較ではありません。ドル建てでのみ公表された案件は、この表には入れず、後ろにまとめました。
新規事業マニアの解説

まず、この表の読み方をひとつだけ。

1位から5位までの5件だけで、合計10兆1,500億円です。日本の国家予算がおよそ115兆円ですから、その1割近い金額が、この5件だけで動いています。

ただ、私がこの表を作って面白いと思ったのは、金額の大きさではありませんでした。誰が何を買っているかのほうです。

上位10件のうち7件は、本業のすぐ隣を買っている

上位10件を、買った側と買われた側の業種で見てみる。

  • セブン&アイがSpeedway ── 小売が、小売を
  • ソフトバンクグループがSprint ── 通信が、通信を
  • ソフトバンクグループがボーダフォン日本法人 ── 通信が、通信を
  • NTTドコモがAT&T Wireless ── 通信が、通信を
  • NTTドコモがKPNモバイル ── 通信が、通信を
  • セブン&アイが米Sunocoの小売事業 ── 小売が、小売を
  • ソフトバンクグループが日本テレコム ── 通信が、通信を

10件のうち7件が、自分と同じ業種を買っている。地域が違うか、業態が少し違うだけである。

残りの3件は、KDDIのローソン(通信が小売を)、ソフトバンクグループのZOZO(通信がECを)、そしてArm(通信が半導体設計を)。

つまり、いちばん高い買い物であるArmだけが、本業から遠い

新規事業マニアの解説

ここは、社内で使える話だと思います。

「新規事業=本業と関係ない新しいこと」と受け取られがちですが、実際に大きなお金が動いているのは、ほとんどが本業の隣です。

同じ商売を、違う国で。同じ客に、違う商品を。そういう買い方が、金額の上位を占めています。

本業から遠いところに大きく張った例は、この30件の中ではArmくらいでした。そしてそのArmも、ソフトバンクグループが通信で1兆円規模の利益を毎年出しているという土台があってのことです。

実務のコツ

「本業の隣」を先に洗い出してください。いま持っている顧客、設備、免許、ブランドのうち、別の市場でもう一度使えるものは何か。この問いのほうが、まっさらな新規事業アイデアより通りやすく、金額も大きくできます。

稟議に書くときも、「新しい市場に出ます」より「いまの○○という強みを、△△という別の市場でもう一度使います」のほうが、投資の理由として説明しやすくなります。

本業から遠いところへ大きく張るなら、その前に「毎年、確実に稼ぐ一階」が自社にあるかを確かめてください。

1回で大きく張る会社と、小さく何度も買う会社

同じ表を、会社ごとにまとめ直してみる。

TABLE

会社ごとの、払った金額の出方

円建てで公表されている案件のみ/NEWFORの記録より
企業件数合計1件あたり最大の1件
ソフトバンクグループ7件約7兆7,107億円約1兆1,015億円約3兆3,000億円
セブン&アイ3件約2兆7,335億円約9,112億円約2兆2,000億円
NTTドコモ5件約1兆7,328億円約3,466億円約1兆1,000億円
富士フイルム7件約8,647億円約1,235億円約2,530億円
KDDI1件約4,971億円約4,971億円約4,971億円
三菱商事1件約1,440億円約1,440億円約1,440億円
リクルート1件約1,272億円約1,272億円約1,272億円
味の素5件約2,053億円約411億円約828億円
円建ての公表額がある案件だけの集計です。ドル建てで公表された案件、金額が公表されていない案件は含みません。したがって、この表は各社の投資総額ではありません。

ここに、はっきりした違いが出る。

ソフトバンクグループは、1件あたり約1兆1,015億円。7件のうち4件が1兆円を超えている。

味の素は、1件あたり約411億円。5件あるが、いちばん大きいものでも828億円である。

富士フイルムは、1件あたり約1,235億円を7回。2008年の富山化学から2019年の富士ゼロックスまで、11年かけて刻んでいる。

用語のれんのれん

買収額が、買った会社の純資産を上回ったときの差額のこと。将来その会社が稼ぐと見込んだぶんが、貸借対照表に資産として載ります。見込みどおりに稼げなかったときは、この資産の価値を減らします。NTTドコモが2002年に計上した約1兆778億円の減損は、この処理にあたります。金額の大きい買収ほど、この数字も大きくなります。

新規事業マニアの解説

どちらが良いという話ではありません。

ただ、「1回で大きく張る」には、外さないための前提が要るとは思います。ソフトバンクグループには毎年1兆円を稼ぐ国内通信があり、セブン&アイには2万店超の国内コンビニがあります。

一方で「小さく何度も」は、外したときの傷が浅い代わりに、時間がかかります。富士フイルムがヘルスケアを事業の柱にするまでに、11年かけて7件を積んでいます。

自社がどちらの型をとれるかは、意志ではなく、いまの本業が毎年いくら稼いでいるかで、ほぼ決まってしまいます。

ドルで公表された案件

円ではなくドルで公表された案件も多い。為替は年によって大きく動くので、円に直して同じ表に混ぜるのは正確ではない。別に並べておく。

TABLE

ドル建てで公表された案件

発表当時の公表額のまま/円換算はしていません
企業案件金額
ソフトバンクグループOpenAIへの出資(当期実行分)2025324億ドル
トヨタ自動車北米電池工場2025約139億ドル
パナソニックBlue Yonderの完全子会社化202171億ドル
ソフトバンクグループAmpere Computingを取得202565億ドル
ソフトバンクグループABBのロボット事業を取得202553.75億ドル
パナソニックカンザス電池工場2025約40億ドル
ソニーグループBungieを買収202236億ドル
ソフトバンクグループFortress Investment Groupを取得201733億ドル
ソフトバンクグループIntelへ出資202520億ドル
ソフトバンクグループ米Ziff-Davisを取得1995約18億ドル
ソフトバンクグループSupercellへ出資201315.3億ドル
ソニーグループCrunchyrollを買収202111.75億ドル
トヨタ自動車Joby Aviationへ出資(累計)2020–8億9,400万ドル
ソフトバンクグループCOMDEXを取得1995約8億ドル
富士フイルム米Entegrisの半導体ケミカル事業20237億ドル
トヨタ自動車Lyftの自動運転部門を買収20215億5,000万ドル
富士フイルム米Merckのバイオ医薬受託製造網2011約4億9,000万ドル

いちばん小さかった案件のこと

この記事の30件で、いちばん金額が小さかったのは、NTTドコモが2012年に子会社化したらでぃっしゅぼーやである。有機野菜の宅配で、買付総額は約49.8億円だった。

2018年1月に、オイシックスドット大地へ10億円で譲渡している。

1兆円を超える案件が5件ある表の中では、目に入らないほど小さい。ただ、多くの会社にとって、新規事業に出せる金額はこちらのほうが現実に近いはずである。

そしてNTTドコモは、この49.8億円の案件と、1兆1,000億円のAT&T Wirelessの案件を、同じ会社が同じ25年の中でやっている。金額の桁は220倍違う。

新規事業マニアの解説

金額の大小に、良し悪しはありません。

ただ、「自分の会社はどの桁で戦うのか」を先に決めておくことは、意味があると思います。

49.8億円の案件と1兆1,000億円の案件では、社内の通し方も、外す確率の許され方も、関わる人の数も、まったく違います。

同じ「新規事業」という言葉で語られていても、中身は別の仕事です。

この記事の限界について

この表は、NEWFORが記録している12社225件の中から作ったものです。日本の大企業全体を調べたものではありません。また、金額が公表されていない案件は含んでいません。したがって「日本で最も高かった新規事業投資」を示すものではなく、「NEWFORが記録した中で最も高かったもの」です。

金額が公表されるかどうかは、案件によって違う。上場企業が適時開示の基準を超える買収をしたときは公表されるが、そうでなければ「金額は非開示」で終わることも多い。

たとえばソフトバンクグループが2024年に取得した英Graphcoreは、金額が公表されていない。この表には入っていないが、実際には相当の金額が動いたはずである。

だからこの表は、「大企業が新規事業にいくら払うのか」を知るための、手に入る範囲の材料として見てほしい。

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NEWFOR MEMO
この記事から持ち帰れること

ひとつ。金額の上位は、ほとんどが本業の隣だった。上位10件のうち7件が、自分と同じ業種を、違う地域や違う業態で買っている。「新規事業=まったく新しいこと」という前提で予算を考えると、実際に動いている金額とはズレる。

ふたつ。会社によって、お金の出し方の型が違う。ソフトバンクグループは1件あたり約1兆1,015億円を7回、味の素は1件あたり約411億円を5回。どちらを選べるかは、いまの本業が毎年いくら稼いでいるかで、ほぼ決まる。

みっつ。同じ会社の中でも、桁は220倍ぶれる。NTTドコモは49.8億円の案件と1兆1,000億円の案件を、同じ25年の中でやっている。自分の企画がどの桁の話なのかを先に決めておくと、社内の通し方も変わる。

自分が担当だったら、まず「本業の隣で、もう一度使える資産は何か」を洗い出します。そのうえで、自社の本業が毎年いくら稼いでいるかを見て、張れる桁を決めます。順番が逆になると、金額だけが独り歩きします。

Soichiro新規事業マニア
40代 / 事業開発
新規事業マニア。20代でスタートアップを立ち上げ、1社を上場企業へ売却。その後、外資系コンサルティングファーム、通信大手、大手人材グループ、国内大手ITサービスの中で、社員として新規事業の立ち上げに携わる。並行して顧問として10社近くの新規事業を担当。事業立ち上げ歴20年。名前は、本田宗一郎への敬意から。
20年 事業立ち上げ歴1社 上場企業へ売却4社 事業会社の中で立ち上げ10社 顧問として担当

出典

  1. ソフトバンクグループ 決算・IR資料
  2. セブン&アイ・ホールディングス ニュースリリース
  3. NTTドコモ 報道発表資料
  4. KDDI ニュースリリース
  5. 富士フイルムホールディングス ニュース
  6. 三菱商事 プレスリリース
  7. リクルートホールディングス ニュースルーム
  8. 味の素 プレスリリース
  9. ソニーグループ プレスリリース
  10. トヨタ自動車 ニュースルーム
  11. パナソニック プレスリリース